第二十五話 ロープの意味は?
コオロギの鳴き声が強く聞こえるように感じる。
それは周囲の雑音が消え始め夜の灯火があざやかに輝き出す時間になり始めてきた合図でもあった。
「・・・まだ開いてますかね。」
「どうだろう・・・個人営業のお店っぽいし早くに閉めてしまうかもしれないね。」
俺たちは心なしに早歩きで三島雑貨店に向かう。
「よかった、まだ開いてた。」
俺たちは軽い安堵感を抱くとすぐに店に入り店主らしき人物を探す。
「あのー・・すみません。ここの店長さんいらっしゃいますか?」
「はいはい、私がそうですよ。」
かっぷくのいい菩薩の様な顔をしたやさしげな老人がそうだと頷く。
そして俺よりも先に長谷川さんが営業スタイルの様な物腰で老人に話しを聞き始めた。
「すみません、少々お尋ねしたい事があります。つい先日、ここで縄ロープを購入した若い男性がいたハズなのですがご存知ないでしょうか?」
その物腰はやはり俺とは違い大人だなと思わせる雰囲気が漂う。
俺は、特にどうといった対応ではなかったのに軽い尊敬感を覚えた。
「ぁあぁあ、いましたねぇ。よく覚えてますよ。」
「本当ですか!」
「ぇえ、その日は他にお客さんもいなくてね。」
「すみませんがその時の事について少しお教え願いますか?」
「はいはい。えっとねぇ、その若い人、時間が惜しかったんだかようわかりませんけどお店に入るなりすぐに私にロープはどこだ?って聞いていきました。」
「ふむ・・・。」
「で、すぐロープの場所を教えるとすぐ購入されて出て行きましたよ。」
「なるほど・・・。他に何か不審な点や変わったところなどありませんでしたか?」
「うーん・・・他は別に・・・。」
「ふむ、そうですか・・・。」
特にたいした事は聞けなかったか・・・。
そう思った矢先。
「ああ、そういえば」
「な、何かありました?」
老人はハッと思い出したかのようにしゃべりだした。
「その人、独り言だったんだろうけど、なんで俺がとかなんとかってぶつぶつ言ってましたねぇ。態度もだんだんとしてましたし誰かのおつかいだったんでしょうかね。」
「なるほど・・・夜分遅くにすみませんでした。どうもありがとうございました。」
「いえいえ、今度はお買い物でいらしてくださいな。」
「はい。」
俺たちは軽く会釈をし店を出て老人の言葉を思い返す。
「なんとも言えないですね・・・。」
「・・・うーん、少なくともこれだけは確定的だ。」
「?」
「渡辺君は三島雑貨店で購入したロープを自殺用に使用した可能性はまずない。」
「やはりそうでしょうか。」
「うん。老人も言ってた事を考えるとどうやらロープは誰かに買ってくるように頼まれた・・・ってのが筋だろうね。」
「ってことはそのロープを買わせたやつが和弘を自殺に見せかけて殺したと・・・。」
「そうとは言い切れないけどね・・・。まだわからない事だらけだよ。」
「そうですね・・・。」
和弘はなんの為に殺された?
和弘にロープの購入を頼んだのはなんの為に?
和弘にロープを購入を頼んだやつは誰だ?
「・・・考えてもさっぱりですね。」
「情報が少なすぎる。もっと決定的な何かがあればもう少し真相に近づけそうな気もするけど・・・。」
「でもやっぱり和弘にロープを頼んだやつは怪しいですよね。」
「そうだね・・・。意図がわからない。自分でロープを買いに行けない理由があったのか・・・?」
「さぁ。和弘を殺す為のロープを和弘に買わせた・・・?」
「・・・それはなんかおかしいね。」
「・・・こういうのはどうでしょう。」
「ん?」
「まずロープは何か他意があり、かつ自分で買いに行けない状況にあった”ヤツ”はそれを近くにいた和弘に買いにいかせる。そして和弘は見ては行けない物を見た為にそのロープで自殺したように見せかけて殺された。」
「・・・ふむ、筋はとおりそうだ。」
「・・・これ以上は推測の域を出ませんね。」
「ひとまず今日のところはこの辺で引き上げよう。夜もだいぶ更けてきた。」
「そうですね・・・。」
結局兄貴は見つからなかったか。
仕方ないな・・・もしかしたらもう家にひょっこりいるかもしれない。
「長谷川さん明日はどうするんですか?」
「明日は会社に出てみるよ。それで渡辺君の持ち物や周囲に変化がないか少し詮索してみる。」
「そうですか。」
「修二君はどうする?例のスポーツクラブに行ってみるのかい?」
「俺は・・・」
スポーツクラブは行ってみる必要はある。
だが学校もずっと休んでいるわけにも行かない。
バイトも大事な金銭供給源だ。あまり休みたくはない。
しかし兄貴の事・・・和弘の事・・・。
「わかりません。明日になって・・・考えてみます。」
「そう・・・。あまり根をつめすぎないようにね。」
「はい、ありがとうございます。長谷川さんも無理せずに・・・。」
「うん。それじゃあおやすみ。また何かあったら連絡を取り合うようにしよう。」
「そうですね。今日はありがとうございました。」
「なに、こちらこそだよ。じゃあね。」
「はい、おやすみなさい。」
俺たちはそういうと帰路に別れた。
今何時くらいだろう。
俺まであまり帰りが遅いと母さんが心配しそうだ。
ちょっと急いで帰ろう。