第二十四話 キーホルダー
私はとぼとぼと祐二の家へ向かっていた。
二日間も出歩きっぱなしなのと祐二の事で心身共に参っていた。
結局なんの手がかりも得ないまま・・・。
ぼーっとしたまま歩いているとコオロギの鳴き声が自然と徒歩のリズムにのるような様な感覚に陥らせる。
いっそコオロギ達としゃべる事が出来たなら、きっと祐二の居場所も知っているに違いない。
私より私の周囲の物の方が祐二の事を知っているかと思うと、妙なイラつきを覚える。
「あれは・・・。」
祐二の家への道程に誰かいた。
「・・・誰・・・だろう。」
この辺りは街灯も少なく数mも離れていると人の顔はよく見えない。
その怪しい人影は目的地に向かおうとする足取りではなく、まるで周囲を気にするようなそぶりだった。
私は無意識にそれから隠れ、様子をうかがう。
その人影は周囲を気にしながら祐二の家を通り過ぎ、さらに先に進んだ。
この時間帯になるとこの辺で人がいることはめったにない。
開いているお店があるわけでもないのでその人影の行動が妙に気になった。
しかし途中よりその人影は走り出して行ってしまった為、私は見失ってしまう。
「なんだったんだろう・・・。」
私はその人影がうろうろしていた辺りを見回した。
特に何かあるわけでもない。
私は諦めて祐二の家へ向かおうとした時、足元で何かを踏みつける感触が襲った。
「・・・った。何・・・?」
それは・・・私が想像するよりも私にとって驚くべき物だった。
それはかつて祐二と付き合いだした頃、二人で旅行に行った時に寄ったお店で見つけた品で、なんだか面白そうだねという事で祐二に買ってあげたガラス細工のキーホルダーだった。
「・・・まさか。」
さっきの人影は祐二・・・?
いや、それはない。
いくら遠目とはいえ他人と祐二を見間違える程私はまだひどくはない。
あきらかに体格や行動などが祐二とは違っていた。
しかしその人影が落とした物はまごう事なく、祐二と共に買ったキーホルダーだった。
あの人影を見失うべきではなかったのだ。
あれはもしかしたら私にくれた最後のチャンスだったかもしれない。
私はさっきの人影を見失った方角へもう一度走りだしたが、すでにその人影がいるような気配も痕跡もなかった。
私はそのキーホルダーを握り締めて、何かの手がかりになるかもしれない思いを胸に祐二の家へ向かう事にした。