第二十話 手がかりを求めて
「へぇ、渡辺君はこんなところに住んでいたんだ。」
「あれ?長谷川さん知らなかったんすか?」
「詳しい場所まではね。」
俺たちは和弘のアパートの前に来ていた。あいつの印鑑を届けにというのが表向きな理由だが、正直なにか手がかりを求めてきたのが正解だ。
「鍵は閉まってるだろうけど、一応確かめてみよう。」
俺は長谷川さんを和弘の部屋の前へと案内した。
「あ・・・。」
案の定立ち入り禁止になっている。当たり前といえば当たり前だった。人が死んだんだ。警察も不用意にそんな場所をすぐに開放するわけがない。
「ふむ。中に入れれば多少何かわかるかとも思ったけど。」
「まぁ、仕方ないっすね。」
そんな会話をしてる時、階下より声がした。
「あんたたち渡辺さんの知り合いかい?」
年は40〜50くらいのおばさんといったところか。
「あ、そうです。」
「そこの人ならいないよ。つい先日に不幸な事があったからね。警察からも立ち入り禁止にしてくれって言われてるし。」
「そうですか。」
「あたしゃここの大家だけど、困るんだよねぇ。こういう事おきるとさぁ。」
不満げにぶつぶつと文句を言っている。
「さっきも若い女の子が来たけど、みんなまだ知らないのかね。渡辺さんが死んじゃった事。」
「はぁ。」
俺たちはいないなら仕方ない出直しますと言い、その場を去った。
「そういえば若い女性が来たとか言ってたけど、誰でしょうね。」
「さぁ。御堂さんあたりかもしれないね。まだ渡辺君が亡くなった事、知らないようだし。」
そうかもしれないな。
「さて、警察に行くかい?」
「そうしましょうか。」
「ところで警察に行って、なんて言うつもりだい?いきなり行っても門前払いを受ける可能性もなくはないと思うけど・・・・。」
「先日、俺のところに事情聴取に来た佐藤って刑事がいるんです。その人の名前を出してみます。」
俺たちは再び警察署に方向を向けた。
「はい、こちら来客専用受付です。ご用件はなんでしょう?」
「あ・・っと、佐藤刑事にお会いしたいんですが。」
「ご用件をお聞かせ願いますか?」
「えっと、渡辺 和弘の自殺の件についてお話したい事があると言ってくれれば通じるハズです。」
「わかりました。少々お待ちください。」
しばらくソファーで待ってると呼び出されるのかと思っていたが、向こうからやってきた。
「やぁ、修二君。」
「先日ぶりです。」
「そちらは?」
「僕は長谷川 秀一。渡辺 和弘の同僚の者です。」
「ぉおぉおそうでしたか。わざわざお二人ともご足労ありがとうございますねぇ。」
佐藤刑事はここじゃなんだからと刑事課と呼ばれる先にあった小さな応接間のような場所に案内してくれた。
「さて、修二君。何か思いあたることでもあったのかな。」
「いえ、特にないんですが今日は佐藤さんに少し聞きたい事があって。」
「ふむ、なんですかねぇ?」
「その前に俺たちが知ってる限りの事、話しておきます。」
「助かりますねぇ。お願いします。」
俺たちは長谷川さんが言ってた昨日、渡辺を見たものがいること、ロープの購入を記した領収書があったこと、そして兄貴が失踪している事を告げた。
「なるほど・・・ロープについては領収書からどこで購入したかわかりますね。それにしても死んだはずの渡辺さんを見たというのは少し気になります。それと祐二さんの失踪については現在こちらでも捜索中です。」
「え?兄貴が失踪した事、知ってたんですか?」
「今朝方ですよ。あなたのお母様から電話がありましてね。捜索願を出されました。」
母さん・・・まぁ当たり前といえば当たり前か。
「それと俺たちが聞きたかったのは、兄貴が殺人事件にどう関与しているかについてです。」
佐藤刑事はそれを聞いて少しうなっていたが、時期に切り出した。
「お兄さん・・・服部 祐二さんがスポーツクラブに通っていたことは祐二君も知っていたかな?」
「ええ。」
「殺された被害者 井沢 忠彦さんもね、そのスポーツクラブの常連客だったそうです。で、そこで祐二さんと井沢さん結構仲がよかったらしくてね。祐二さんが何か知ってるのかと思って彼に接触してみたんですけどねぇ。特に何も知らなかったようで。」
「そう・・・だったんですか。」
「私達もそれ以上の事はわかりかねますねぇ。」
「それと・・・和・・渡辺はやっぱり自殺なんですか?」
「どうでしょうかねぇ。遺書等が出たわけじゃないですが、特に他殺の線があるわけでもないですし対人トラブルがあった情報もないですしねぇ。」
特に進展した話が聞けたわけでもなかった。
俺たちは少し雑談をすると、また兄貴探しに行くといい、警察署を後にした。
・・・・・兄貴・・・和弘。