表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/62

第十九話 目撃者

俺は昨日知り合ったこの場所で長谷川さんを待っていた。


「待たせたね修二君。」

「おはようございます。あの長谷川さん、お仕事の方は・・・?」

「ああ、有休をとったよ。久々だし問題はないだろう。君こそ学校とかバイト大丈夫なのかい?」

「ええ・・まぁ。」


本当は少し単位の危うい物があったが、それどころじゃなかったのでほったらかしにしただけだった。


「やはり君のお兄さんはあれから・・・?」


俺は黙ってうなずく。





昨日の約束通り、俺たちは朝早くから兄貴の捜索を開始しようと話した。


「それにしても、兄貴の手がかりなんて何も・・・どこから手を付ければいいのか。」

「僕も君のお兄さんの事についてはあまり詳しくないし、調べようがなかったからさっぱりだけど渡辺君の件について昨日の夜、少し調べたよ。」

「そうなんですか。何か・・・わかりました?」

「君は知ってるかもしれないけど、渡辺君って知事さんの息子さんなんだってね。僕は昨日初めて知ったよ。」

「そうですね・・・。」

「それでだ。こっからは結構重要だ。渡辺君を昨日の夜遅くに見かけた人がいた。」

「な、なんだって!?」


ど、どういう事なんだ・・・。


「一体誰が和弘を見かけたんですか?」

「うん、僕の会社の後輩にあたる女の子で、御堂 幸恵さんって子なんだけど。」


御堂・・・幸恵。

どこかで聞いた事のある名前だったが俺は思い出せなかった。


「その子が言うには、昨日の夜ちょっと用事があって近くの本屋に行ったそうだ。そこで渡辺君らしき人がいたんだそうだ。声をかけようとしたらすぐ出て行ってしまったらしくそのまま見失ったそうだよ。」

「その御堂って人はどうして長谷川さんにそんな事を?」

「僕、あの後まだ用事があってちょっと会社に戻ってたんだよ。そしたらまだ数人会社の人間が残っててね、そこで女の子達が井戸端会議をしていた時だ。御堂 幸恵さんうわさ好きな女の子だからね。知りあい見かけたんだー!って感じに意気揚々と話してたのをちらっと聞いたんだ。」

「それなら・・・見間違いの可能性もなくはないですね。」

「だね、まぁそれはなんとも言えない。それと失礼だったけど昨日会社に戻って渡辺君のデスクを少しあさらせてもらったんだ。」

「用事ってそれだったんですね・・・。何かありました?」

「領収書とか、関係のない書類ばかりだったよ。特に目を引くものはなかったけど、一応領収書は軽く目を通した。何か気になる物を買ってないかとね。」


そうか・・・特に何かのヒントになることはなかったのか。


「で、ひとつ気になる領収書があった。」

「え?」

「全く、渡辺君もちゃっかりしてるよ。明らかに私用の物を会社で落とすために領収書を取っておくんだからね。」

「はぁ・・それで、なんだったんです?」

「縄ロープだ。」


ロープ・・・?


「修二君言ってたよね。渡辺君は首を吊って自殺したって。」

「まさか、自分で自殺する用にロープを・・・?」

「さぁ・・・そこまではわからないけど。」


ロープ・・・他に使用する用途がわからない。

やっぱり和弘は自殺だったんだろうか。


「とまぁ僕の方で気になる点はそれくらいだったかな。君のお兄さんの方は全然?」

「・・・はい。」


なんだか敗北感を覚えた。

この人は部下とはいえ他人の事についてここまで色々手をつくしてくれている。

なのに俺といったら兄貴を探す探すと言うだけで実際なにもしていない。


「まぁ仕方ないよね。とりあえずここで立ち尽くしていても埒があかないし歩きながら考えよう。」

「あ・・長谷川さん。ひとまず警察に行ってみませんか?」

「警察に?」

「ええ、兄貴が関わったっていう事件を詳しく聞いてみたいんです。」

「そうか。じゃあそうしよう。」


俺たちは警察署を目指し歩き出した。その時、





「あれ?長谷川さん?」

向かいから歩いてきたどこかで見た女性は不意に語りかけてきた。


「やぁ御堂さん。外回り?」


この人が御堂 幸恵さんか・・・。どこかで見た覚えがあるな。


「ううん、今日は仕事休み。私、休暇日数足らないんだって。」

「そうなんだ。」

「長谷川さんも休み?」

「うん、ちょっと用事があってね。」

「その隣の君・・・渡辺君のお友達・・・だったわよね?」

「は、はい。」


ああ、そうだ。思い出した。この人俺が和弘と遊んだ最後の日に街中で出会った人だ。和弘が少し話しをしていたな。


「どういう組み合わせかしら?」

「はは、以前からの知り合いなんだ。」


長谷川さんはそういうと俺の方を見てにっこりとした。

その方が話しが合わせやすかったんだろう。

俺は黙ってうなずいた。


「へぇー。そうなんだ。あ、そうだ長谷川さん後で渡辺君に言っておいてくれる?事務用品出しすぎないようにって。あの人一番出してるし、文句言われるの私なんだから。」

「ははは。わかった伝えておくよ。」

「あ、それとついでにこれ渡辺君の家に届けておいてくれるかしら。」

「これは?」

「本当は今から私が届けに行こうとしてたんだけど、彼の家あんまりよく知らないのよ。長谷川さんなら知ってるかなと思って。」

「ああ、届けておくよ。」

「ありがとうー。じゃあ私は行くね。また会社でー。」


ひとしきり言いたい事を言って御堂という女は来た道を戻って帰っていった。

静香さんとは正反対のタイプだな。


それよりも・・・


「長谷川さん、何もらったんですか?」

「彼の印鑑だね。うちの会社はよく印鑑を使うんだけど、多分渡辺君の印鑑漏れを御堂さんにまかせていたんじゃないかな。」

「ふーん・・・。じゃあ先にそれを届けに行きますか。」

「そうだね。渡辺君の家で何かわかるかもしれないし。」


俺たちは警察署へ向けていた足を変え、和弘の家に向かう事にした。

ひとつの視線を浴びている事も知らずに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ