第十七話 痕跡
「どうっすかねぇ?」
私は正直焦った。それに見覚えがあったからだ。
何度も何度も”それ”を否定したかった。”それ”を肯定すればそれは確実に私の首を絞める結果になるものだということが目に見えていたからだ。
しかし見れば見るほどに”それ”は間違いなく私の記憶に該当するそれであった。
「・・・やぁーっぱり雄三さん、こいつに見覚えあったんですねぇ。」
「・・・・。これは・・・たしかに静香が祐二君にもらった指輪だ。断定できるわけじゃないが、エンゲージリングでもらったとさんざん見せられたからな。」
和夫・・・警察がこんなものを持ってるあたり、捜査はかなり私達家族を重要参考人として、いやもしくは容疑者として疑ってかかっているのだろう。
和夫は私に教えてもらいたい事があると言っておきながら、本当の目的は指輪の事だったのだろう。
正直参った。
今までは静香は祐二君殺害(?)には無関係だと思っていたのもあって、不謹慎ではあるが歓楽的な考え方でいた。
それがこんな物が出てしまっては警察も静香をマークするのはあたりまえだろう。
「いつからだ。」
「へ?」
和夫はきょとんとした。
「いつから静香をマークしていた?」
「さすが察しが早いっすな。・・・オヤジさんに隠してもしょうがないし、言っちゃいます。9/5の夜くらいから数人でマークさせてあります。」
そんな以前から・・・?
「どういう事だ?祐二君がなくなったのはそのもっと後だろう。」
「いえ、実はですねこの指輪は祐二君の周辺から出てきたんじゃないんですよ。」
な、なに?
「こういう事はメディアに通せる段階になってから一般人には公開するってのが基本なんですが・・・まぁオヤジさんは特別って事で言っておきますよ。」
「そんな事はどうでもいい。さっさと言わんか。」
「へいへい。9/5の朝、殺人事件が起きました。被害者は井沢 忠彦(44)腹をメッタ刺し+転落して死んでました。」
井沢・・・誰だ。
いや、どこかで・・・。
「その被害者の口の中にこの歪んだ指輪は入ってたんですね。」
「どういう事なんだ?」
「さぁねぇ、それはまだわかりませんが。で、こっからです。俺たちが静香さんと祐二君をマークしだしたのは。」
和夫は一段落間をおき、胸ポケットからタバコを取り出しコーヒーをすすると、続きを話し始めた。
「この井沢っちゅーガイシャ、なんでも行き着けのスポーツクラブがありまして、そこの常連客と仲がいいって情報が入ったんですねぇ。んで、その常連客が服部 祐二さんだったんです。んで、ちょこっと祐二さんとそこでお話しさせていただきました。当然この指輪の写真を見せましたね。祐二さんは知らないとおっしゃってましたが、ちょーっと顔に出ちゃうタイプなんでしょ。特に深追いはしてませんけど、この指輪は祐二さんの関連の品だと思ってその辺から捜査してました。」
私は嫌な感覚が取り巻き始めて来たのを覚えた。
「購入されたのはやはり間違いなく祐二さんでした。それは販売店からの記録も残ってます。なかなか高価な品だったんですぐ裏が取れました。」
「その後祐二君にこの指輪の事を聞いて、静香に繋がったというわけか。」
「いえ、そいつは違います。」
「・・・何?」
「指輪の裏が取れた後、当然俺たちは祐二さんに接触しようと思ったんですけど、その数日後からしばらく彼は行方をくらましてるんですよ。で、そうこうしてるうちに次は渡辺 和弘さんの死体が発見されて・・・。」
渡辺・・・誰だ?
「渡辺 和弘ってのはオヤジさんの孫娘さん・・・静香さんの会社の後輩にあたる男でしてね、かつ服部 祐二さんの弟、服部 修二さんのお友達でもあります。また有名な渡辺県知事の一人息子さんでもあります。」
「・・・ふむ。」
「で、まぁ渡辺さんの死亡については仲の深かった修二君にしか事情聴取はしてないんですが、静香さんや他の同僚にもお話しを聞こうとした矢先、祐二さんの失踪ですからねぇ。」
「なるほどな・・・。それで捜査は難航してるって事か。」
「いや、そいつが違うんですよ。」
「何?」
「祐二さんの失踪自殺の後、遺書があったって俺言ったじゃないですか。その遺書にねぇ、みーんな書いてあるんですよ。まぁ・・・こいつを見てください。筆跡鑑定の裏は取れました。一応祐二さん本人の物だそうです。」
和夫はそういうと私にその遺書の写しらしき物を手渡す。
「この遺書のせいで事件は沈静化させようって動きが出てます。なにせ知事の息子が死んでますからね。圧力がかかってきたんでしょう。」