第十六話 祐二はどこへ?
「はい・・・すみません。今日からしばらく休ませてもらいます。はい・・・はい・・。」
このままなにもかも崩れてしまうような感情が私を襲う。
「ええ、すみません。またいつから行けそうかは折り入ってこちらから連絡します。」
普通に考えて男から一日、二日連絡がない程度笑って過ごすのだろう。
「はい。ご迷惑かけますが・・・はい。ではお願いします。」
私だってそう思う。
しかし今回は何か違う。
なぜだかこのまま祐二に会えない気がするからだ。
つい先日まで確かにいた彼が今はもう顔ですらおぼろげになってきている。
祐二がいなくなった事を修二君はどう思ってるのだろうか。
いいかげん三日目ともなれば祐二のお母さんも修二君も不振がるだろう。当然会社にも連絡を入れているはずだ。
私は足早に祐二の家へ向かった。
軽快なチャイムを鳴らす。
「あ・・静香ちゃん。今日はお仕事じゃないの?」
「おばさんおはようございます・・・ちょっと休みを。あの祐二は・・・。」
おばさんの表情は暗い。それだけで概ね予想は出来た。
「あの子、いなくなった次の日から会社にも行ってないみたい。本当・・・どこいったのかしら。」
「そうですか・・・。」
やはり会社にも顔を出していなかった。
「やっぱりちょっと親バカって思われるかもしれないけど、警察に連絡した方がいいのかしら・・・。」
「そうですね。捜索願出した方がいいと思います。見つかれば笑い話になるんですし。」
「そうよねぇ。おばさん、今から電話してくるわね。」
「あ、そういえば修二君は何か知らないんですか?」
「修二も祐二を探すって行って、今日朝早くから出て行ったわ。いつもの修二なら祐二の事あまり気にする子じゃないのに・・・。」
「そうなんですか。」
修二君も祐二を探してくれてるんだ。
そうよね、実の弟だもの。私より心配になるのは当たり前だわ・・・。
捜索願を出しに部屋へ行ったおばさんが戻るまで、しばらく玄関で待ってる事にした。
「警察に事情を話しておいたわ。詳しい事はまた直接行かなきゃいけないみたい。」
「そうですか。」
「静香ちゃんもあまり祐二の事で気を張りすぎないでね。」
「はい・・・。一応心当たりの場所をまた適当に回ってみます。」
「そう・・・。気をつけてね。」
私は軽く会釈をし、祐二の家を後にした。
私は心当りと言ったが、そんなものはデートで回った場所くらいしか思いつかない。
普通に考えて私に理由がわからない祐二の失踪なのに、二人でデートで回った場所に祐二がいるわけがなかったが私と祐二をつなぐ点はそこでしか考えられなかった。
・・・・なんだろう。
昨日からやたらと背後が気になる。
しかしそんな場合ではなかった。
「やっぱりここにもいない・・・。」
当然だった。
でも淡い期待の分、仕返しが痛かった。
思いつく場所は全て回ってみた。
そして彼が見つからない度に私の心がどんどん削られていく感じがした。
どうしよう。どうしよう。祐二・・・祐二・・・。
パニック状態に陥り私は今にも泣き出しそうな顔だったのだろう。
街行く人々は私を見ては怪訝な顔をしていた。が、所詮は他人事。いちいち声を掛ける者などなかった。
そんな孤独感がより一層私の心を蝕んだ。