第十二話 消えた祐二
昨日から祐二からの電話がない。
こんな事は初めてだった。
デートするか、会えない日は一本の電話が毎日必ずあった。
それが昨日、今日と続いてない。
昨日、私の祖父と一緒に食事をする約束の事が嫌で、てっきり連絡をしなかったのかと思ったが二日続けると少しおかしいと思い、私は彼の家に向かった。
軽快のよいチャイムの音と共に廊下をバタバタと走ってくる音が聞こえる。
「はーい、どなたかしら。」
「あ・・・橘です。」
「あら、静香ちゃん!どうしたの?」
「あの・・・祐二さん、ご在宅でしょうか?」
「祐ちゃんねぇ・・昨日の夜遅くに出かけてから戻ってないのよ・・・。」
「ぇ・・・。」
どういうことだろう。なんだか嫌な予感がする。
「夜中のー・・・2時頃だったかしら?ちょっと忘れ物したって行ったっきり戻ってこないのよ。おばさんてっきり静香ちゃんといるのかと思って・・・。」
「そう・・なんですか。」
「静香ちゃんも知らないのね・・・あの子ったらどこほっつきあるいてんだか。」
「連絡がなかったのでちょっと気になって来てみたんですが・・・。」
「連絡もしてないの?・・・おかしいわね。」
「ですよね・・・。」
「戻ったらすぐ連絡するよう言っておくわ。」
「はい。私も見かけたらすぐおばさんに電話しますね。」
「わかったわ。・・・それにしても・・・ちょっと心配ねぇ。」
「・・・はい。」
そう言って私は軽く会釈をした後、彼の行方を探す為に彼の会社へ赴こうとした。
つながらない・・・・。
何度かけても彼の電話はコールもならさない。
電源が切れてるのか、電波の届かない所にいるのか・・・。
「おや、橘さん?」
私を呼ぶ声に私はすぐ反応した。しかし呼び方があからさまに違ったので淡い期待は瞬間に打ち崩された。
「あ・・・長谷川・・・さん?」
「やぁ、もう夜になるってのに、こんなとこで何してるんだい?」
「ええ・・・ちょっと人を探してて・・・。」
「そう。」
彼は長谷川 秀一さん。私の会社の少し先輩で、すごく仕事ができると有名な人だ。
一時期は私と彼が出来てるんじゃないかとか噂にもなったことがあったが、それも今では笑い話にしかならない。
「長谷川さんは何を?」
「うん、ちょっと後輩に呼び出されてね。」
「そうですか。」
「じゃあ僕はこっちへ行くんで、また会社で。」
「はい、また明日・・・。」
そういうと彼は路地の向こうへ消えて行った。
彼は人当たりもよく、後輩先輩からよく好かれているようだ。
そんな事をぼんやり考えながら私は祐二の会社に向かって行った。
まだ受付に人はいたようだ。
「こんばんは。私、橘 静香というものなんですが、服部 祐二さんは今日出社されてますか?」
「失礼ですが、その服部様とはどういったご関係でしょうか?」
「えっと・・・恋人・・・です。」
「すみませんが、ご家族かそれを証明できる物がないと個人の事を他人様に紹介する事はできないんです。」
「そうですか・・失礼しました。」
「すみません。」
私は軽い会釈をし会社を後にした。
困った・・・彼の行方を知る手がかりがなくなってしまった。
今日はあきらめて家へ帰ろう・・・。
私はとぼとぼと家に向かって行った。
そんな時私はふと背後に気配を感じる。
ハッと振り向くがそこには誰もいなかった。
神経が過敏になっているのだろうか。そこには怪しい人影などいないのだが、何故か気配が漂っていた。
私はじわじわと襲う恐怖感を拭い去るためにも走って帰った。