第十話 ない。
俺は必死に探した。
あれがないと確実に怪しまれるのは俺だからだ。
見つからない・・・見つからない・・・。
焦燥感が俺をひどく襲う。その焦燥感が行動にも出てるせいか、やたらと動きが荒くなる。
「祐ちゃん、うるさいわよ!」
下から母の声がする。
そんな事おかまいなしに俺は探す。
どういうことなんだ。
なんでないんだ。
訳がわからない。
あれは確かに俺の部屋にあったはずだ。
ああ・・・困った。どうする。どうしよう。
どうしようどうしよう。
「・・・・くそ!」
俺の憤りは声になって出始めてきた。
思えば昨日の井沢さんが死んだ事から何かがおかしくなってる。
佐藤とかいう刑事まで俺の所に来る始末だ。
その時、下が少し騒がしくなった。
修二が帰ってきたんだろう。
「祐兄うるさいよ!」
修二が何か言ってるが、俺はそんな事にいちいち返事をしている余裕がなかった。
それを無視したせいか反発した声が返ってくる。
「祐兄聞いてるんかよ。うるせーよ。」
「・・・修二か、おかえり。」
俺は仕方なく返事をした。
それだけ言うと修二は部屋に篭ったようだ。
俺はそんな場合じゃなかった。
あれが・・・あれがないと・・・・。
見つからない・・・。
やっぱりあれは・・・。
俺はさっきのそっけない返事の謝罪もかねて修二の部屋の前にいた。
「修二。」
「なにー?」
「たまには部屋の整理ぐらいしろ。」
「はぁ?なんでいきなり・・・。訳わかんねーってーの。」
「・・いや。俺も部屋の掃除をしてたからな。」
「そうなんだ?」
これでさっきの言い訳が多少ついたか。
それと修二のやつ、父さんの墓行ったんだろうか。
今日も何か墓に変わった物がなかったかどうか聞いてみる。
「墓参り、行ったか?」
「・・・い、行った行った。花は添えなかったけど、拝んできたよ!」
行ったのか・・・。
「そうか。」
俺はそのまま質問を続けた。
「父さんの墓、何かあったか?」
「何か?いや、、、花が添えてあったくらいだけど・・・。」
花・・・俺が昨日添えたやつだろう。
でも墓参りに行ってるなら、おかしな物はなにもなかったって事だ。
やはり昨日タバコがあったのはたまたま命日で父の古い友人か何かが添えた物だったんだろう。
「そうか。」
それだけ言うと俺は部屋に戻った。
これだけ探して見つからないという事は、もうこの部屋にあれはないんだろう。
誰かが持ち去ったのか、俺がどこかに置き忘れたのか、どこかに落としてしまったのか。
明日・・・・今日歩いたルートをくまなく探しに回ってみることにしよう。
そう考えながら俺は床に就いた。