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第一話 9/5その1

夏の日差しは徐々に薄れ、暑さも穏やかになり始めたこの頃。


夜になればコオロギが美しい音色を立てて合唱を始めだす。


私は自分にはやや不釣合いなソファーに身をゆだねて、孫の帰りをぼんやりと待つ。


意識を記憶の深海に埋める。


・・・・ノイズの様な感覚が全身をかけめぐり、私は手にしていたグラスを無意識に落とす。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




そんな感覚に身をゆだねているうち、玄関が騒がしくなった。







「おかえり、静香。」

「ただいまー。どうする?夕食すぐ作ろっか?」

「ああ、そうしてくれるか。」

小刻みに台所から包丁の良いリズムが聞こえ始める。





「今日は出かけないのか?」

「今日はね。明日は遅くなるかな。」

「じゃあ明日は私も外で夕食は済ましておくよ。」

「あ・・・」


言い出しにくい様な顔つきで静香がこちらを見る。


「ん・・どうした?」

「んー・・明日ちょっと会ってほしい人いるんだけどさ」

「・・・そうか。」


私はなんのことだかすぐに察しがついたが、あえてこの話は続けたくなかった。









「はい、お待ちどうさまっ」


ペッパーとオリーブオイルが程よく効いた良い香りが食卓を包む。

食事を一通り運び終わり二人で食卓に着く。

形式的ないただきますの合図と共に食事を始めだす。


「ふむ、うまいな。」

「あったりまえでしょー!だ〜れ〜が作ったと思ってんの。」

「はは。」


たわいもない会話と、今日合った出来事などを話している途中一瞬間が空く。






「・・・でさ」


直感的にわかった。明日来る予定の男の話だろう。


「祐二の事、今まで何度か話してたよね。」

「・・・」


私は聞こえないそぶりを見せながらたんたんと食事をする。


「はっきり言うけど私達、将来的には正式に婚約したいと思ってる・・・。」


私は尚も食事をする。


「で、やっぱり一度ちゃんとおじーちゃんにも会って話ししてもらいたいから・・・。」

「・・・そうか。」


沈黙がしばらくの間食卓を包む。







こんな日が来るのはわかっていた事だった。

私が怖いのは孫を取られてしまうという事ではない。

精神的孤独に陥った時、理性をいつまで保っていられるかが心配だった。


「・・おじーちゃん、怒ってる?」


静香は半分おびえたような目つきで恐る恐る私の顔をうかがう。


「いや、すまない。ちょっとぼーっとしてただけだよ。」

「わかった、明日はその男と三人で食事をしながら話すとしようか。」

「ありがとう・・・ごめんね?」

「静香が悪いわけじゃない。悪いのは私だ・・・。」


いつまでも忌まわしい呪縛から逃れられない私の我侭なのだ。


くだらない私の我侭で静香を不幸にするわけにはいかない。


自分に強く言い聞かす。




「じゃあ・・・明日の夕方6時にレストラン三日月で・・」

「そこにそいつも来るんだな。」

「うん。」

「わかった。」









食事と会話を一通り済ますと静香はテーブルを片付け台所で食器を洗い出す。

私はこれ以上居間にいてもなんだか落ち着かなかったので、疲れたから寝ると言い部屋に篭った。

静香がここまで育った事はうれしい事だし、新しい家族を築く事は喜ばしい事だ。

無音な部屋に篭って目をつむると、走馬灯の様に今までの静香との生活を思い出してしまう。













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・・・。














今日はやたらとノイズがひどい。

あぁ・・・今日は9月5日か・・・どおりで朝からおかしいわけだ。

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