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イモウト!  作者: 鍵屋
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五。 異世界への入口って最近じゃ水洗トイレってのもあるけど、やっぱりドアだよね。未来から来たタヌキ型ロボットのアイテムみたいにさ。

 奥まったところにこっそりと作られたエレベーターを管理人さんに動かしてもらい、無駄に豪華な部屋の前にとやって来た。

「なぁ、聞いてもええか?」

「聞かれてもまともな答えが返せると思えませんが」

 俺だけでなく、クリスとキョウのふたりも呆然とその部屋の扉を見つめていた。そう、ドアなんてレベルでなく、扉のソレを。

「どうしたのさ、この程度で怖気付いてるんじゃないよね?」

 一人平然としたカナタに笑われ、俺たちは顔を見合わせた。

 この程度って。俺、お前が本当に妹なのか疑問に思い始めたんだが。俺のあの妹に良く似た、まったくの別人説を唱えてもいいだろうか。

「ハルカ?」

「……ごめん」

 いや、こんなのが二人も三人もいるのはゴメンだ。一人でも大変だってのに。

 今度は俺の考えてることはばれてなかったのか、意味がわからないといった風にカナタは首を傾げた。

「まぁ、いいけど。

 それよりハルカ、何があってもボクから離れないで」

「わかった」

 こんなんでも血の繋がった妹だ、言われなくても身体を張って守るさ。

「それと、変態に何か言われても即答しないでボクに是非を求めるように」

「ん、ああ」

 変態の目的はお前だろう? 俺はお前が不用意に名前を出したから狙われてるだけなんだろう?

 疑問には思ったが聞くに聞けず、素直に頷いておく。

「ほんま、仲ええのぉ」

「全くです」

 既にその他二名になりそうな勢いのクリスとキョウが、俺たちの会話にしみじみと頷いた。

 どうしてこれが仲良く見えるのか、後で二人に聞いておこう。俺にはカナタの尻に敷かれてるようにしか思えないんだが。

「クリスとキョウも、うかつな返事はしないように。ボクはハルカは守っても二人の面倒まで見る気はないからね」

 思い出したようにカナタは言うと、扉に手を伸ばす。きぃ。そんな思ったより軽い音を立てて扉が開いた。


 中は外以上に豪華だった。広々としたリビングにはどこぞの社長室にでもありそうな重厚なテーブル、その前に革のソファーが置かれている。俺たちを呼び出した当人はそのソファーでお付きの人を従えて優雅にティーカップを傾けていた。

 ちょっと前の俺の部屋の様子を思い出して、場所と人が違えばここまで違うのかと凹んでみたりしたのは――今はどうでもいい話。

「遅かったな」

 超絶美形の生徒会長&理事長子息は俺の腕に抱きついたカナタに視線を向け、例の超絶美声な声で言った。カナタは鼻で笑うと、抱きつく手に力を込めた。

「そっちが一方的に呼び出したんだから待つのは当然だよね」

「相変わらず手厳しいな、カナタは」

「なんでも自分の思うとおりになると思ってるなら、考え直した方がいいよ」

 カナタが言うたびに、超絶美形の側に控えた人の顔が険しくなっていく。もっとも、当人の生徒会長は笑顔のままなんだけども。

「ボクとしてはここに来るつもりなんてなかったんだけどね。ハルカが来るっていうから仕方なく来てあげたんだ。

 ハルカに感謝するんだね」

 勝利宣言のように言い放ったカナタに、ついに生徒会長――でなくてその隣にいる人がキレた。

「藤堂カナタくんっ! 君は誰に向かってそんな口をきいているんだねっ!」

 どこかで聞いた覚えのある独特な口調に、思い出そうと頭をフル回転させるけど思い出せない。どこで聞いたんだっけ?

「誰にって、ユウイにだね」

 そんな前じゃない気がするんだけど。

「会長を呼び捨てにするとは! 不敬だぞっ!」

 あー、えっと、喉まで出てきてるんだけどな。

「不敬? 冗談はよして欲しいな。

 それにボクがユウイにどんな言葉を使おうと、あんたに文句を言われる覚えはないし」

 確か入学式の時だったような……。

「手打ちにしてくれるっ!!」

「ああ、真正Mの副会長か」

 静まり返ったその空間に怒鳴る声と俺の小さな呟きが響いた。ええっと、もしかしなくても俺、まずい事言ったんだろうか?

 副会長は顔を真っ赤にして俺を睨みつけると、壁際に立てかけてあった木刀を手にとった。それも、なんでそんなものがここに?って聞きたくなった「京都」のロゴ入りの。

「弟が弟なら、兄も兄だなっ!」

 先をびしっと俺たちにつきつけ、今にも振り下ろしそうな勢いで怒鳴る。

「あーあ。ハルカってば、いつもはボクに騒ぎを起こすなって言ってるのにね」

「いや、コレは俺だけのせいじゃないだろ。お前が怒らせたりしなけりゃこうはならなかったはずだ!」

「酷い。お兄ちゃんってば、可愛いボクに責任を擦り付ける気なんだね」

 押し付けてるのはカナタだろう。怒鳴りたいのを我慢して、カナタを庇いつつ後退る。

 こんなのでも一応妹、庇わないわけにいかないってのが辛い。

「素晴らしいね、藤堂キョウダイは。ますますこの手に欲しくなった」

 くくつという笑い声がしたかと思うと、あまり聞きたくなかったセリフが聞こえた。この超絶美声な主は間違いなく、生徒会長だろう。

 生徒会長は思わず惚れそうな笑みをこっちに向けた後、控えていたもう一人に顔を向けた。

「佐和、村崎を」

「かしこまりました」

 無表情。そんな雰囲気の人が無表情で副会長に歩み寄ると、どこからともなく取り出した鞭で床を叩いた。

 こんな光景、入学式の時にも見た気がする。

「木刀を置いてこちらに来てください。ご褒美の鞭がありますよ」

 ぱしぃっ。痛そうな音を立てて再び鞭が床を叩く。

「佐和くんっ!」

 さっきまでの怒りはどこに行った!? そう問い返したくなる勢いで副会長は木刀を放り投げると、鞭の人の足に縋りつく。

「床ではなくこの私を叩いてくれたまえ」

「ええ、承知しております。ユウイ様のご命令ですから」

 視界に入れたくもないそれに顔を逸らすと、鞭の音と嬌声のような声が聞こえた。

 木刀があるのも謎なら、なんで鞭を常備してるのかも謎だ。あの真正Mな副会長のためだけに常備されてるんじゃないって思いたい。

 だからって他に用途があるかって言われるとかなり謎なんだが。

「わぁお、あの佐和って人、使い慣れてるぅ」

「カナタ! そんな光景、見てるんじゃないっ!」

 楽しそうに言ったカナタを引っ張って、優雅にソファーに腰掛けたままの生徒会長に近付く。

 俺としてはこれ以上この場所に居たくない。カナタに変態がうつりそうで嫌だ。鞭で俺を叩きに来るんじゃないかって予感すらする。

「あの、俺たちを呼んだ理由は何なんです?」

 俺の言葉に、生徒会長は笑みを浮かべてくれた。怒ってるわけじゃなくてほっとした。

「君たちを執行部に指名した。

 そこのふたりには是非を聞いたが、君たちは強制だ。俺の側にいれば色々と便宜を図ると約束しよう」

 強制という言葉に嫌な予感がしたけど、生徒会長&理事長子息の便宜はかなり魅力的だ。しかもカナタの本性を知ってるとなれば尚更。カナタがいつまで俺の側にいる気なのか知らないけども、学校行事の際に執行部なら色々と便利だろう。

 カナタの顔色を窺おうと横を向くと、カナタの笑顔が目に入った。

 はっきり言って、かなり怖い。

「そうやって地位と金で何人も隷属させてきたんだね。やっぱりボクの判断は間違ってなかったみたいだ。

 ハルカ、ああいう危険人物に近付いたらダメだよ」

「残念だが隷属させてなどいない。大抵の者は自ら下にくだるのでね」

 毎日顔をつき合わせていると忘れそうになるが、カナタはさすがに超絶美形な会長には劣るが十分に美形である。男子校にいて違和感がない程度には中性的な美形であるんだが――そんなふたりが笑顔で睨みあうのは心臓に悪い。

「だからそれは、金と地位に目が眩んでるからだね。ボクのハルカなら絶対にしない行動だよ」

 いつ俺がお前の所有格で語れる存在になったよ。

 ……と、文句が言えない過去が簡単に思いつく程度には俺はカナタの所有物だ。中学の時も、カナタの暴走を止めるための人身御供に……。あー、思い出すだけでも泣けてくる。

「それはどうかな?

 藤堂カナタ君、賢い君ならどちらにつくのが得策なのかわかるね?」

 えっと、ちょっと待ってくれ。状況を整理させてくれ。どこをどうしたら、生徒会長とカナタが俺を取り合うような状況になるんだ?

「ハルカはもちろん、ボクの見方だよね?」

 だけど俺が状況を理解するより先に、椅子に座ったままの会長とは対称的にカナタは俺につめ寄ってきた。

 だ、誰か俺を助けてくれるような人は……。

 助けを求めるために辺りを見回して、クリスとキョウに思い切り首を横に振られた。

 確かに俺が向こうの立場なら同じ行動を取ったかも知れないけど。出会って一週間の友情だけど。

 ……悲しい。悲し過ぎる。

「こぉら、そこ! いたいけな少年を苛めて遊ぶな」

 いっそカナタからも逃げて、自分を見つめる旅にでも出てしまおうか。そんな考えが俺の脳裏に走った時、呆れた声が部屋に響いた。

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