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援軍

たまには庭の手入れでもしてみるか。

そう思ったライレンは着替えを済ませ、王宮の巨大な庭園に出た。

今、ファン王朝は出口の見えない袋小路に入り込んでいる。やがて、王国を滅ぼそうと、地平線を埋め尽くすばかりの騎馬軍団がこの国に来襲するだろう。

しかし、それを防ぐ手立てがない。この王国には、自分で自国を護るだけの軍事力を持っていない。

実に情けない話だ。七百年もの歴史を誇る国が。いや、その歴史こそが元凶だったのだろう。アンディーア大陸の貿易の拠点と言う自負が。金で何でも解決出来ると言う無責任が。今、国を滅ぼそうとしている。

結局、援軍要請の使者を大陸中に送ったが、この半年、返事は一ヶ国も返ってこなかった。

王宮にいると滅入る。だから、ライレンは久しぶりに庭園に出た。花や草木でも弄っていれば、もしかして、良い考えでも浮かぶかもしれない。

ファンは草原の王国。普通、この様な時はファン人は馬で遠乗りをする。親友のサイファー将軍も毎日の様に草原を疾走していると聞く。しかし、ライレンは花だった。こんな時は、酒でも女でも馬でもなく、花だった。

ライレンが庭園に出た、その時。侍従が飛んで来た。

ナイハンチ首相が呼んでいるとのこと。火急との事。ライレンは仕方が無しに、もう一度着替えをして、王宮へと戻って行った。


「陛下。お喜びを」

ライレンが大広間に入ると侍従長のリンペイが祝辞を述べた。他の侍従や官僚達も笑顔でライレンを迎えた。

戸惑うライレンにナイハンチ首相が近寄り

「ライレン!ラー帝国から使者が到着したぞ」

と叫んだ。職務中はライレンを陛下と呼ぶナイハンチが臣下の前でライレンと読んだ。ナイハンチもよほど嬉しかったのだろう。

「ラーは援軍を送るそうだ!」

ナイハンチの言葉に歓声が起きた。ライレンは、そっと目を閉じた。ラーが兵を送る。助かった。ファンは滅亡の危機を脱した。ライレンは喜びを噛みしめた。

砂漠の国パルクや密林の大国クシャールから援軍が来なくてもいい。ラーからさへ来てくれれば。

パルクやクシャールは、ファンへの出兵の確率は少ないと、ライレンもナイハンチも見ていた。何故なら、パルクとクシャールはホラームと国境を隣接しているからだ。ミンゴルンと戦うのに、遠くファンまで来る必要がない。寧ろ自国で迎え撃ちたいはず。だが、ラーは違う。ラーはファンの東隣に隣接している。ファンが陥落したら、次はラー。ラーとしては是非ともミンゴルン軍をファン領内で留めたいはず。

ライレンはラーの皇帝に感謝の書状と贈り物を送った。


半年後。ついに、待ちに待ったラー帝国軍が国境を越え草原を進軍してファン王国首都アルムに到着した。

ライレン、ナイハンチ、サイファーらが出迎えに王宮正門まで出てきた。案内して来たトンハー准将の報告では、ラー帝国軍閥最大勢力を誇る、シュ家の次男、シュ・レイゲン将軍が指揮官との事。レイゲンの噂はファンまで流れてきている。戦の天才らしい。

彼が連れて来た兵は千名。

ライレンは援軍派兵の礼を述べ、更に本隊はいつ、ファンに到着するのかを尋ねた。

シュ・レイゲンはライレンに丁寧に挨拶をすると、静かに語った。

「陛下。本隊はこの、今、陛下の目の前に控えております千名だけでございます。他には一兵たりとも派遣はされません」


希望が湧いていただけに失望は激しかった。

増援はない。

この、シュ・レイゲン将軍の言葉は死刑の宣告に近かった。

ラー帝国はアンディーア大陸最大の大帝国。唯一、ミンゴルンと互角に戦えるだけの戦力を有する国だった。

おそらく、ラー一ヶ国で二百万の兵力を保有していると推測できる。ミンゴルンのファン遠征軍は推定二十万。対するファン軍は市民を借り出しても二万。ミンゴルンの十分の一。当然、ラーとしては二十万から二十五万は堅いと、ライレン達は見ていた。それが、千名。たかだか千名。

「陛下。あれは観戦部隊でございます。ファン軍と共闘するつもりは毛頭ないでしょう。だからこそ、戦略の天才と名高いシュ・レイゲンを派遣したのです」

サイファー将軍の言葉にライレンは失意の底に落ちてしまった。

ラー皇帝はファンを見捨てたと。


実はラー帝国内部でも援軍派兵に関しては揉めに揉め、簡単には答えが出なかった。

ラー帝国では、ファンと違い、リゲルバーンがミンゴルンを統一した時から、この事を予想して作戦を練り練ってきた。

作戦としては二段構え。第一戦はファン領内。第二戦はファンとラーの国境線。しかし、ミンゴルン軍の情報を収集する内に、彼等とファン領内で戦う事があまりに無謀だと言う事が判明してきた。

理由は一つ。ミンゴルン軍全軍が騎兵と言う事。

対するラー軍の七割が歩兵。二割が騎兵。一割が工兵その他。そして、ファン領内の殆どが草原と言う事実。ラーの大軍をファンに派遣などすれば、ただ単に、損害を増やすだけなのではないのか?草原は騎兵にとって一番活躍できる場所。ならば、森林や山岳の多いラー領内で一大決戦を敢行した方が得策なのでは。

結局、ラー領内決戦案が進められる事になった。

ラー軍参謀本部にはもう一つ、気掛かりな点があった。

それは、あまりにも早くホラームの首都が陥落した理由が不明な点だった。

いくら、ミンゴルン軍は大軍でしかも電撃作戦だったとは言え、ラムズホラームは中央アンディーア最大の城塞都市のはず。加えてミンゴルン軍は全軍が騎馬軍団。城塞戦は不得手のはず。それが何故、僅か数日で、あの大城塞が落とせたのか?

ラー軍部には、ある仮説があった。もしかして、リゲルバーンはアレを手に入れたのではないだろうか?もし、リゲルバーンがアレを手中に収めていれば、ファンなど一蹴され、ラーもかなりの損害が出る。

最初、ファンには誰も派遣しない方針に決まっていた。だが、アレがあるのか、ないのか。確認の為、シュ・レイゲンが派遣される事になった。

彼の任務は、ミンゴルン軍の実力と士気の見定め、そして、アレの確認。

シュ・レイゲンには一切の戦闘への関与が禁止された。任務遂行のみに全力を尽くす。千名の兵士はシュ・レイゲンの護衛だけが目的だった。

ラーにしてみれば、ファンなど関心外だった。


ミンゴルン軍が集結しているとの情報が、ファン領内に住む騎馬民族からもたらされた。情報はミンゴルン領内から流れてきた様子だった。ライレンは何も出来ず苦しい日々を過ごしていた。

そんなある日、ナイハンチが血相を変えてライレンの部屋に飛び込んできた。

ライレンはミンゴルン軍が進軍を開始したのかと思った。しかし、ナイハンチの言葉はライレンの想定外の事を伝えた。

「ライレン!海の彼方の国、日の昇る国、日輪王国から援軍が到着した!それも、五千人も!五千のサムライがやってきたんだ!」

ライレンは始め、ナイハンチの言っている事が理解出来なかった。



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