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プロローグ

ファン・ライレンの日常は、庭の手入れが中心だった。

庭の手入れなど、別にライレンがやらなくても問題ないのだが、何故か彼の日常になっている。

王宮には大勢の庭師が雇われていたのだが、ライレンは少年の頃から庭師に混じって王宮内の樹木の手入れをしてきた。

別に下々の生活と接触したいとか、情報を入手したいとか、王族気分から脱したいとか、そんな理由は一つもなく、ただ、花や木が好きなだけだった。

ファン王国はアンディーア大陸のやや東よりの中央に位置する国だったが、国土の七割が草原。

その草原のど真中に、王国の首都アルムが存在し、アルムの中心にファン王国王宮があった。

つまり、ライレンの周りには草しかなかったのだ。ライレンは普段から花に接していたい。花を熱望していた。

それは、国王になった、今でも変わらなかった。

二年前、父であった先代が突然死してしまい、急遽、国王に任命された。若干23才の事だった。しかし、政治の大半は親友でもあり従兄弟でもある、ナイハンチ首相に任せてあった。つまり、ライレンの仕事は笑顔を振りまき、ナイハンチの話を聞いて、一言、よし、それで行こう。と言うだけだった。後は国内の有力者とのパーティー。諸外国との付き合い。それぐらいだった。

だから、彼の一番の仕事は王子時代から変わらず、庭の手入れだった。

この日までは。


ライレンはいつものように、庭の手入れをしていた。すると、侍従の一人が彼を呼びに来た。

何でもライレンの従兄弟であり、ファン王国の東隣に隣接している、砂漠の大国ホラーム王国へ大使として赴任してるファン・バイルの息子、ファン・トンハーが突然帰国したと言うのだ。トンハーは従兄弟だが、親友でもあった。ライレン、ナイハンチ、トンハー、そして現王国陸軍司令長官のサイファー将軍の四人が仲良し四人組として、彼ら四人が少年時代から、この王宮で悪さの限りを尽くした、悪友軍団だった。

トンハーと会うのは実に二年振り。ライレンの即位の時以来だった。

ライレンは足はやに王宮広間「蒼い間」に急いだ。侍従の話では、何やら火急の事らしいが、対した事ではないと、ライレンは考えていた。叔父であり、ホラーム大使のバイルに何かあれば、トンハーが帰国せずに使者を発てるはず。政治的に見ても、現在、ホラームとファンの関係は非常に良好だ。だから、ライレンは安心しきっていた。トンハーに会うまでは。


ライレンは一目、トンハーを見て異変に気がついた。もちろん気がついたのは、ライレンだけではない。広間にいた全員だ。何しろトンハーは怪我をしていた。弓で射抜かれたそうだ。

弓と聞いてライレンは猛烈に嫌な予感がしてきた。そして、ライレンの嫌な予感はずばり的中したのだった。

「陛下、一大事でございます。ホラームが滅亡いたしました」

広間内にいた官僚、大臣達はもちろん、侍従や衛士達ですら、驚愕の表情をした。ホラームが滅亡?あり得ない。砂漠の王国ホラームは七百年の歴史を持つ由緒正しき国。

「ミンゴルン帝国の侵略により、僅か十日で、ホラームは地上から消滅いたしました。我が父バイルも母も妹も部下達も全員死にました。ホラームで生き残ったのは私だけでございます」

誰も何も言えなかった。

ファンはホラームと同じく七百年の歴史を持つ国。

地理的条件に助けられ、ファンではこの三百年の間、戦はなかった。平和を絵に描いた様な国だった。異民族の侵略と言われても、現実味が感じ取れなかった。

しかし、トンハーの次の言葉は王宮全員を恐怖のどん底に叩き落とした。

「陛下、ミンゴルン帝国は東アンディーア全域への野望に燃えています。彼ら北方騎馬民族の次なる目標は、

ファン王国です」

ライレンはこの日を境に庭の手入れを行なっていない。


ファン王国首脳は、トンハーが帰国したその日から連日連夜、会議に明け暮れた。答えの出ない、袋小路のような会議を。

議題は一つ。

「北方騎馬民族の大国ミンゴルン帝国のファン王国に対する侵略について」

勿論、ナイハンチ首相とサイファー将軍はやるべき事はやった。ミンゴルンに使者を派遣する。ミンゴルンとファンは同盟国ではないので、常駐大使はいなかったから。そして、ホラームに斥候を出す。

ミンゴルンへ派遣した使者は未だ帰って来ない。何の連絡もない。使者に選ばれた者の家族は毎日泣いて暮している。早まった事をしたと、ライレンも頭を痛めていた。

ホラームへ送った斥候隊は有益な情報を持って無事に帰国を果たした。彼等の情報によると、トンハーの言っていた事は全て事実だった。

ミンゴルン帝国は宣戦布告も無しに突如、ホラーム領内に侵攻。十日前後の日数でホラーム全土を蹂躙。首都ラムズホラームも二日で陥落してしまった。

ミンゴルン軍は三十万の大軍で北方を出立。ホラームが絶対安全地帯と踏んでいたアルパル山脈を騎馬で越え、砂漠の国土のあちこちに点在している、各地のホラームオアシス城砦都市群を各個撃破して周り、最後にラムズホラームを包囲撃滅させた。

ホラーム軍は全土で凡そ十二万。それぞれが、連携を取る前に、潰されていってしまったとのことだった。

そして、ミンゴルンの次の目標がホラームの隣国ファンと言うのも事実らしい。

ホラームとファンはアンディーア大陸の中央に位置していた。そのおかげで二国は東西の掛け渡しとして、貿易で儲け、七百年もの間、繁栄してこれた。

しかし、今、その立地条件の為に、王国は危機に瀕している。ミンゴルンは大陸交通の中心的位置のファンをホラーム同様滅ぼそうとしている。

ミンゴルンにもっと気を配っていればよかった。ライレンは猛烈に反省していた。


北方高原地帯は広く、アンディーア大陸の全敷地の四分の一にあたる。しかし、気候は極寒。土地は痩せ、人が暮らすには適していなかった。その上、北方騎馬民族達は百以上の部族に分かれ、千年に渡って殺し合ってきた。北の民の戦闘力は大陸中原の国々からして見れば脅威だったが、互いに争っている内は何の心配もなかった。

しかし、今から十五年前、北の高原に異変が起きた。

北方騎馬民族の一つ、ミンゴルン族の族長に一人の若者がのし上がった。

若者の名前は、リゲル。

リゲルは人間離れした勇敢さと、信じられない指導力を持ってミンゴルンを指揮。次々と対抗部族を滅ぼし、僅か十年で北方を統一してしまったのだ。

今まで千年かかっても、誰一人なし得なかった北方の統一を僅か十年で。リゲルは北方地帯をミンゴルン帝国と呼び、自らはバーン(皇帝)。つまり、リゲルバーンと名乗った。

それが、五年前。

ファンの先代国王はミンゴルンを危険視し、注意してきたが、二年前に他界。この二年間、ライレン以下新閣僚達はミンゴルンに差程の注意を払わず、安穏と惰眠を貪り食いちらかしてきた。

そのツケが廻ってきてしまった。

平和ボケした、ファン軍は全軍合わして僅か一万二千。戦時特別徴収を市民から集めても、二万には届かない。ファン王国領内に住む騎馬民族達に応援依頼しても、集まる騎馬民族は三千ほど。つまり、ファンは二万三千の兵力で、北の大帝国と対峙しなければならなかった。しかも、ミンゴルン帝国兵士は大陸でも最強の呼び声が高い。対してファンの兵士は三百年間実戦経験無し。大陸一の弱兵だった。

ミンゴルン軍はホラームに十万の兵を残し、残りは北の本国に帰国し始めた。本国にもまだ二十万以上の兵力が温存してある様子。おそらく、ファン侵攻には二十万から二十五万ほどの大軍が予想される。

絶望的だった。


「どうしたらいい?ナイハンチ」

ライレンは途方に暮れれ、幼馴染に尋ねた。

ナイハンチも処置なしと言った風だった。

「自国の力ではどうにもなりません、ライレン。いや、陛下。他国に援軍を要請するしか」

ナイハンチの案はライレンも考えてはいた。しかし、援軍など来るのか?果たして。

しかし、他に方策がない以上仕方がない。ライレンとナイハンチは四方の国々に使者を派遣した。援軍要請の使者を。

ファンの南に位置する南の密林の大国クシャール王国。クシャールの西に位置する砂漠の王国パルク。ファンの東隣、アンディーア最大の大帝国ラー。ラーの東、半島国家コラム。そして、コラムから更に東に海を渡った島国。日輪王国へ。

ライレンは使者を出しまくった。

ファンとの国交がある無し関係なしに。

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