第六幕 「私と意地悪従者と初デート」
今日私、フィアは上機嫌だった。
珍しく上機嫌だった。それは、何故かと
言うと……。
「フィア様早く食事食べてください片付きません」
……この腹黒メイドめ。人の上機嫌に水を差そうと
するとはなんという奴だ。
「……フィア様全て口に出てますが覚悟は出来てますか?」
ヤバッ!! 心の中で呟いていたハズがつい口に出してた。
じりじりと迫ってくるリルカに私はオロオロと怯えるしかない。
弱者って強者にいじめられる運命なんだなと心から思う。
って自分で弱者って認めちゃったよ……。
何か現実逃避したい。現実逃避ついでに、なんで私が朝から
上機嫌だったかの理由を話しておこう。それは、私の従者アルカ・
レアンが私のダンスの腕がかなり上がったご褒美で好きな物を
おごってくれることになったのである。
「フィア様準備はできましたか?」
「……チッ」
この腹黒メイド今舌打ちした――!! ってかリルカとアルカ
ばちばち火花散らしてるよ!? 何か怖いよこの二人……。
「……フィアに手を出したら殺すからそのつもりでいろよな貴様」
何か不穏なセリフ聞こえたああああ!! リルカ殺気むき出し
すぎるよ。本当に何であんな優しい乳母から腹黒要素を兼ね備えた
娘が生まれたのかいまだに疑問だ。
私はずっとここにいてもリルカの餌食になるだけなので、アルカに
手を引かれながら屋敷を後にすることにした――。
今日は珍しく私は女物の衣装である。まあ公式には私が家出をした、と
なっているので顔が見えないように薄いヴェールをかぶせられてるけど。
初めて着たんじゃないかと思うかわいらしいワンピースを着せられている。
アルカは一体何を考えているのだろうか。
今日は何を食べようか本当に楽しみだ。私は甘いものが大好きだから、お腹
いっぱい甘いものを食べたいと思ってる。ダンスの練習がかなり大変だったから
(アルカがかなりスパルタだったし)このくらい甘えてもいいよね。
「ねえアルカ、本当に何でもおごってもらっていいの?」
「ええ。約束ですからね」
「やった~!! まずぼ……私クレープ食べたいクレープ!!」
「はいはい」
アルカは私の嬉しそうな様子に苦笑しながらも屋台でいちごと
チョコレートとバニラアイスのクレープをおごってくれた。
久しぶりの甘いクレープの味に私の口元も自然とほころぶ。
アルカは自分は食べてもいないくせに何故かいつもは見せない
優しそうな視線を向けていた。
何の気まぐれだろうか。今日はいつもより優しい気がする。
「アルカ、もう一個食べてもいい?」
「もちろんだ。一個と言わず二個でも三個でも食べるといい」
あ、敬語が消えた。そっか。私と二人っきりだからか。
ん? 二人っきり? ……ひょっとしてこれはデート、なのだろうか。
小説でしか見たことがないが、男性と女性が出かけるのをそういうとは
知っていたけれどまさか自分がすることになるとは思わなかった。
ああ、記念すべき初デートがこんな腹黒な奴だなんてちょっとショックだ。
「――フィア、今失礼な事考えなかったか?」
「……滅相もございません」
チッ。なんて勘のいい奴だ。口に出してなかったからなんとかごまかせたようだ。
愛想笑いをしたら無言で睨まれた。怖いよこの人……。
「ほら、行くぞ」
「ふえっ!? な、何どこへ!?」
いきなり腕を引っ張られて私はびっくり仰天する。一体どこへ連れて行かれるのだろう。
と、思っていたらやってきたのはさっきのクレープ屋の前だった。
「食べるんだろう?」
「あ、ありがとうアルカ」
私はホッとして微笑んだ。腕を掴む力が緩んだのでさらに安堵する。
アルカの腕力は当然だが女の私よりかなり強かった。
彼の事を疑う訳ではないが、もしよからぬ事を考えて私に狼藉でも
働こうものなら女である私が叶うはずがない。
そういう考えには至らなかったようで本当によかった。
アルカは結局五つもクレープをおごってくれ、それから芝居にも連れてってくれた。
意外といい奴なのかもしれない。ちょっと私の中でアルカの評価が変わった瞬間だった。
ただ、帰った後にリルカの機嫌が異常に悪くてなだめるのが大変だったけど――。
今回はほのぼの中心を目指して書いてみました。
フィアとアルカの初デートです。まあフィアはまだ
アルカの事が好きではないんですが。
ちょっとだけアルカが進展したお話です。