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第三幕 「あんたらあたしに仕事させる気あるの!?」

 私、フィアは今困っていた。

……大変困っていた。

 かなり困っていた。

困るあまり、頭が現実逃避してしまうくらいに。

 彼らは、私に仕事をさせる気があるんだろうか。

リルカとアルカはまだ睨みあっていた。

 無言で、火花を散らしながら。

カリカリと羽根ペンを走らせる私だが、

しだいに苛立つ気持ちを抑えられなくなってきた。

 できることなら羽根ペンとインク壺を二人に

投げつけてやりたいくらいだ。

 後が怖いのと、絶対に自分で片付けさせられる

からしないけど。あの腹黒メイドはそういう子だ。

 絶対にやったが最後させるに決まっている。

首にしないかって? できるわけないじゃないか。

 彼は祖父や父に優秀なメイドだと思われ、

いや思わせているのだから。

 実際には、私の着替えとか手伝わないし、

私が散らかしたら(故意でも過失でも)自分で

片付けさせるし、私つきのくせに飲み物や食べ物

もってくるくらいしかしてくれないし。

 今だってかえって仕事の邪魔してるし。

「邪魔するなら出てってくれないかな」

 つい私は口を開いてそう言ってしまった。

口ゲンカをしていた二人が一斉に私を見る。

「フィア様、一つお聞きしたいんですが」

「何だよ!!」

 イライラしている気持ちを逆なでするように、

リルカはかなり冷静な声で聞いてきた。

 私は怒鳴るように言いながらペンを進める。

「私とアルカ殿どっちが大事ですか?」

「どっちも大事じゃねえよ!! 仕事の

方が大事だわ、二人とも出てけ!!」

 あまりに腹が立ったため、私は二人を猫のように

つまみあげると部屋の外に蹴りだした。

 二人が入ってくる前に鍵をかけて

ようやく一人になることに成功する。

 ざまあみろ。やっとやってやった。

え? 言葉が汚い? 気にしないでほしい。

 あんまりストレスがたまりすぎている時に

綺麗なお上品な言葉ばかり使えるはずがない。


 三時間後、あらかたの仕事を片付け終えた私は、

(全部は終わらなかったけど)休憩のために

腕を振りまわしながら部屋の外に出た。

 捨てられた子犬のような目の二人をスルーして、

私は食堂に向かうことにした。

 ついてこようとする二人を睨みつけてやめさせる。

私はあの二人からしばらく離れていたかったのだ。

 また仕事の邪魔をされたらたまったものではない。

いつもは、リルカも一応メイドとしての分はまきまえて

いるから、めったに仕事のじゃまなんてしないのだけれど、

アルカが私のそばにいるから邪魔せざるを得なかったようだ。

「まったく……疲れるったらないよ……」

 ぶつぶつ言いながら私は食堂に行くと、好物の蜂蜜が

たっぷりかかったパンケーキとミルクティーを頼んだ。

 キッチンメイドは、私のことをやっぱり男だと

思っているのだろう。ちょっと赤くなりながら

頭を下げ、てきぱきとそれらを作ってすぐに出してくれた。

 サービスなのかチョコレートクッキーまで置いてある。

私はお礼を言うと、すぐに一口口に運んだ。

 ……おいしい。すごくホッとするような味だ。

疲れていた分、それらはすごくおいしく私に感じさせた。

 キッチンメイド達がちらちらと私に熱っぽい視線を送っていたので、

やっぱりあの二人は置いてきてよかったなと私は思った。

 純朴な優しいメイド達にトラウマは与えてはいけないと思う。

「あの、フィア様……」

「何?」

 私がにっこりと笑うと、きゃあきゃあとなおさらメイド達が

騒ぎ始めた。私には女たらしの素質でもあるのだろうか、

彼女たちの顔はさっきより増して紅い。

 いや、そんな素質あっても嬉しくないけど。

「リルカ様は、今日はいらっしゃらないのですか?」

「ああ。あの子はいつもそばにいるから置いてきた。

いまはいいんだよ」

 その後、私はメイド達と仲良く話をして気を良くし、

さらに仕事をするために部屋に戻ることにした――。


 部屋に戻る途中、私はアルカとリルカがまだ

睨みあっているのを見て立ち止った。

 注意しようと口を開きかけた、その時。

「フィアに近づくな!! 従者ふぜいが!!」

 リルカが敵意むき出しでアルカを怒鳴りつけたのだった。

完全に猫かぶりを解いてしまっている。

 リルカはめったには敬語を崩さないのだ。

よっほど彼が気に食わないのだろう。

「お前だってメイドふぜいだろう」

 リルカが本性を現したのを見て、アルカも口調を崩した。

私の前では口調をいつも崩しているけれど、リルカの前では

初めてなので彼女の顔が驚きに染まっている。

「私は、かなりの間フィアに仕えてる!!

 お前より先輩なんだ口のきき方に気をつけろ!!」

「でも、メイドであることに変わりはないだろう」

 言い合う二人に割り込むことができず、私は

どうしたらいいのだろうと考えていた。

 盗み聞きする趣味はないのだけれど、このまま

行ったら両方に睨まれる気がして進めない。

「とにかく、必要以上にフィアに近づくことは

許さないからな!! 私が!!」

 ぴしゃりと言いきったリルカが姿を消し、

しばらくしてから私は部屋に戻った。

 部屋にはすでにアルカがいて、冷めたお茶と

お菓子を片づけていた。

 それはリルカが持ってきてくれたものだが、

私はお腹がいっぱいだったし、彼は彼女の

持ってきたものをなんとなく食べたくなかったのだろう。

「毒、入ってないと思うぞ」

「入れそうですよね? 彼女」

「……そうかも」

 もちろん私にはいれないが、彼が食べるのを見越して

もしも毒を盛っていたら?

 リルカならやりかねない。

毒じゃなくてもしびれ薬とか平気で仕込みそうだ。

 彼に毒を入れそうではないかと聞かれた

私は否定することができなかった。

 彼女が、本性を現して喚き散らすのは、

私以外では彼が初めてだったのだから――。


リルカは下街育ちなので、本性を現すと

男言葉みたいな言葉を使います。

 今回は初めてフィアにのんびり

他のメイドとお話しながら

お菓子食べつつリフレッシュしてもらいました。

 でも、彼女の苦難はまだ続きます――。


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