肉片
僕はあの日生まれて初めて人の肉を食べた。
食人、カニバリズムなんて言われてるその行為を不本意ながらではあるがしてしまった。
細雪が降り本格的な冬が始まる事を実感する日、僕は学校に行く道の途中踏切でスマホを弄りながら踏切のバーが上がるのを待っていた。
降りしきる雪、赤くなる頬、吐くたび白くなる息かじかんだ手。
何気ないいつもの日常で始まって終わる、そのはずだった、それが一気に変わったのはそのすぐ後だった。
急に周りの人が叫びだした、それと同時に電車が大きな警告音を鳴らした。
なんだと思い僕はスマホから目を離し前を向く、その行動を今後一生外後悔するとは知らずに。
聞きなれない、大きな音鈍く重く嗚咽すら覚えるその音は今後永遠に僕の耳の中で反響し続ける。
途端僕の頬には体温の通ったとても暖かな液体が付着する。
僕は驚きのあまりその場に倒れ込み呆然としながら大口をあけていた、足元に伝ってきた赤い鮮血は僕の周りに跋扈する。
すると、どんな神のいたずらか宙を舞ったその肉の断片が僕の口の中に入り込み、そして飲み込んでしまった。
僕はそれを拒否しないといけなかった、衣服のついた肉片は黄色い脂がのっていて、見る者はそれをグロテスクと言うのだろう、避けるのだろう。
ただ僕はそれを受け入れてしまった、その肉片を咀嚼せず飲み込んで……おいしいと思ってしまった。
途端僕の何の変哲もない平凡な日常が非日常に変わり果てた。
きっとあの時僕はそれに魅了されてしまったんだと思う。
彼は俺にそう言った。
なんの変哲もない空虚な部屋、椅子と机、防弾ガラス越しに座る男そしてその男の後ろにいる刑務官がここを刑務所の面会室であることを再認識させる。
俺の目の前に座る男は優しい顔つきをしているが、それと相反する歪なほどの拘束具が彼の異常さを物語っていた、彼が暴れたら彼の後ろの刑務官じゃどうしようもないだろう。
「も、もういちど話を整理しましょう九条林檎さん、あなたは学生時代の食人によりあの異常とも言える大量殺人を犯したんですか?」俺は震える声でそう言った。
九条は呆れたように空を見上げて言った「だから何度もそうだって言ってるでしょう、僕おんなじ話を何回もするの嫌いなんですよ藤野空さん」
すると九条はいきなり頭を防弾ガラスに叩きつ言った「あんまりおもしろくないと、もう面会なしにしますよ?」先ほどまでの優しい笑顔がまるで嘘のように恐ろしく見える、額から垂れた血がその勢いの強さを物語っている。
俺は急いで頭を下げた、今まで誰の面会も拒絶していた苦情が初めて面会に応じたんだ、この機を逃すわけにはいかない。
「失礼いたしました。九条さん話を続けましょう」そう言いながら俺も勢いをつけて目の前の机の頭をぶつけた、頭がじんじんと痛み鼻からは鼻血を垂れ流していた。
刑務官に押さえつけられていた九条が驚いたようにこっちを見て言った「あぁ実に建設的な話をしようね」そう言った苦情はとてもいい笑顔で笑っていた。
だが底なしの悪意と言える深淵が九条の姿を借りて俺に笑いかけているようで、俺は全身で身震いをした。




