抹茶とチョコモナカ
私は、抹茶アイスが好き。
いや、好きというより他の味を食べない。食べたことがあるのなんてバニラとチョコとストロベリーぐらい。ピスタチオ味なんて選ぶ人が怖いぐらいだ。
そんな自分が嫌い。
新しい味を食べてみたい。笑われてもいいから夢を追ってみたい。嫌われてもいいから自分の思いを叫びたい。好きな人に好きって言いたい。
でもできない。自分のせいで波風立つのが怖いから。失敗するのが怖いから。
そんな勇気ない自分が嫌いだ。
バニラじゃなくて抹茶が好きなのは、きっとそんな自分に対してのちょっとした抵抗なんだろう。
そんな私も本音が話せる親友がいる。
「ごめんね!待ったよね」
少し駆け足で手を振りながらきた。親友のあずきちゃん。小学生の頃からよく一緒にいた。周りの人とは関われない私にも話しかけてくれた。それからもずっと仲良くしてくれてる。
「全然大丈夫!早く行こ」
私は、あずきちゃんの手を取り近くのカフェに入った。
「ほんとに、雰囲気あってないよね。このカフェ(笑)」
あずきちゃんは「アイスどれにする?」と聞きながら苦笑いしていた。
このカフェは、ずっと前に畑が無くなってできた。田舎のこんな町に合わないようなオシャレな店だった。私は、このカフェが好き。このなんか浮いている中で自信を持ってやっているのが私にないものを持っている気がするから。
「そんでどうしてそんな顔暗いの?」
あずきちゃんは、「ほれ」と私の抹茶アイスを渡しながら聞いてきた。
「そんなに私暗い(笑)」
私は「ありがと」と抹茶アイスをもらいながら言ったが、実は心当たりがあった。
私は、趣味なんてなくて仕方なくずっと勉強をしていた。だからそれなりに偏差値が高い高校に行った。
あずきちゃんは、料理の専門学校に行ってしまったから今の私には、友達がいなかった。
新しい味を食べる勇気すらない私には、新しい友達を作るなんてできる訳がなかった。
「あずきちゃんはさ、友達できた?」
私は、溶けそうなアイスを一口食べて聞いた?
「そうなの!めっちゃ面白い子がいてね……」
あずきちゃんは、チョコミントアイスを忘れたかのように楽しそうに話し出した。
その時の抹茶は、なぜかとても苦く感じた。
あずきちゃんは、私と違って新しいものはすぐに手を出すタイプで色んな経験から一番を選ぶ人だった。アイスも私が必ず抹茶を選ぶ中あずきちゃんは、新しい味を頼んでいた。そして「やっぱりチョコミントが一番よね」が口癖になっていた。あずきちゃんには、失敗に恐れない勇気があった。そんなあずきちゃんが、少し怖くて好きだった。
でも今日は、違った。楽しそうに話すあずきちゃんが私にとって新しいの味のアイスのようだった。今までずっと一緒にいたのに、急に遠くに行ってしまった感じがした。
「チヨちゃんはどうなの?」
あずきちゃんは、口に着いたチョコミントアイスを拭いながら聞いた。
胸の奥が冷たくなった。なんて事のない質問なのに今の自分の全てに対してどうなのと聞かれた気がした。
「ごめん!」
私は、逃げ出すように店を出てしまった。あずきちゃんが「ちょっと待って!」と止める声が背中に当たった。
気づいたらいつもの川岸に来ていた。
帰り道は、いつもこの川を見ながら帰っていた。
すると懐かしいギターの音がした。
「チヨじゃん!元気?」
さとるは、ギターをケースにしまいながら言った。
「相変わらず下手だな」
さとるの隣に座りながら言うと不機嫌そうに
「お前のためにやってない」
とさとるは言った。
さとるは、中学生の頃家が近いからよく一緒に登下校していた。さとるは、なんでも話を聞いてくれた。いや、聞いてたより聞き流していた。でも私には、それで良かった。
よく「付き合ってるの?」と聞かれたが付き合っては無い。でも聞かれる度に、なぜかいつも胸に雲がかかってる気がした。
さとるの趣味は、ギターで時間ができれば、この公園で弾き語りをしていた。
「またギターやってんの?」
私は川に石を投げながら聞いた。
「またも何も好きだからね」
どこから出したのか分からないチョコモナカのアイスをかじりながらさとるは言った。
「趣味があっていいね」
ため息混じりに私が言うと
「やってみるか」とさとるが、ギターを渡してきた。
さとるよりも成績が良かった私は、さとるにできることならできるだろと思った。
現実は違った。さとるが言う通りに指を動かしてるつもりが、全く音がならない。
やっぱり新しいことをする事は好きじゃない。
少し落ち込んでたら
「最初はそんなもんだよ」
とさとるが真面目な目で言った。
こんな真面目な顔をしているさとるを私は見たことがなかった。なぜか少し胸の雲が晴れた気がしたなった。
「そっか」
私は、少し不貞腐れてギターを返し「それ、よこせ」と手を出すとさとるは「バカ」と手をはじいてから、またチョコモナカをかじって「欲しけりゃ自分で買え」と言ってきた。さとるのくせにムカついた。
「ていうかそもそもなんでここにいんだよ?」
さとるは、チョコモナカをまたかじって聞いてきた。
私が「あのね…」と言いかけたらさとるが
「また変なこと言われたんだろ?」
と聞いてきた。
「なんで?」
私が思わず聞き返すと
「だってここにきた時涙目だったし、隣に座ってくる時はだいたい愚痴を言ってくるじゃん」
さとるは、以外と人を観察しているところがある。
さとるは、あずきちゃんと違ってなんでもすぐに手を出すというより、周りの人を見て動くタイプだった。だけど周りに合わせる私と違って周りを見てから自分で考えて動くような人だった。だからよく人とは少しズレた視線でものを言っていた。さとるには、自分を突き通す勇気があった。そんなこいつに、少し憧れていた。
さとるに今日あずきちゃんとカフェに行ったことからここに来るまでのことを全て話した。
「ふーん」
さとるは、興味無さそうな乾いた相槌をした。
「さとるは、新しい友達できた?」
私は、少し俯いて聞いた。
「まぁぼちぼち」
さとるは、「あれピック、、、?」とポケットに手を入れながら言った。そして
「ていうかなんでそんな友達欲しいのさ?」
と続けて言った。
私は、何も言えなかった。でも考えた事がないわけじゃい。私なりの答えはある。それは、友達を作るという目的があれば自分を変えれると思ったからだ。
あずきちゃんやさとるみたいに私も、新しい味を頼めるぐらいの勇気が欲しかった。でもそんなことさとるには言えなかった。
「なんとなくだよ」
私は、少し投げやりに答えた。
元から自分に自信がある人に、自分を変えようとしている人の気持ちが、わかるわけが無いと思った。
その時さとるが
「無理に自分を変えようとしてない?」
とギターを抱えながら言った。
「なんでよ」
少し間が空いてから私は聞いた。するとさとるが
「いやなんかさ、友達の話になってから俯いてたからさ、新しい友達を作るのが辛いんじゃねぇのかなって」
私の中で木漏れ日がさした気がした。いつも自分を否定して変えることばかり考えていたから今辛いのは、友達を作れない自分が悪いと思っていた。友達を作ること自体が嫌なのかも知れない。そう思ったてたら続けざまにさとるが
「人といるのが嫌ならそもそも俺とかと話さないだ
ろうし」
と流れる水を見ながら言った。
また私の胸の雲が晴れた。
「たしかにそうかも」
なんとか私は、絞り出した声で言った。
「俺は今まで通りのチヨが好きだよ」
さとるが、少し顔を赤らめながら言った。
そして向こうの川岸を見ながら続けた
「チヨは、いつも安定なものを選ぶから絶対失敗しないし、あずきとか俺ってどんどん進んじゃうけどチヨを見たら冷静になって引き返せるし」
さとるが珍しく真面目に話していた。
「いつもあのカフェに行くと抹茶しか頼まないからたまにそれでいいのかって思うけどそんなとこも面白くて好きだよ」
面白くてというのは、少しムカついたがそれも気にならないほど涙が止まらなかった。
でも辛い涙じゃない。私の全てが肯定された気がした。悩んでたことが全て洗い流されてる気がした。
さとるが「ごめん変なこと言ったかな?まじごめん!」と焦っている声がしていた。
そしたら後ろから
「なぜ私の友達を泣かせているのかな?」
と低い声が聞こえた。あずきちゃんは、怒ると声が低くなる。
焦ったさとるが
「違うってまじで!ちょっと聞いて、、、」
と言ったのを遮って
「さっき急に飛び出してごめん!」
とあずきちゃんに頭を下げた。
「私は、自分を変えることに必死だった。だから自分のことが嫌いだった。だから自分のことを考えたら嫌になっちゃって。でも今なら素直に受け入れられる気がする」
私はとにかく思ったことを言った。
あずきちゃんは、さとるの胸ぐらから手をおろしながら
「なんかよくわかんないけど良かった。私変なこと言って傷けたんじゃないかって思って」
私は、ほんとごめんと謝り続けてあずきちゃんは「もう気にしてないよ」と笑ってくれた。
さとるは「俺悪くなかったろ」と言ったが、私もあずきちゃんも聞いていなかった。
「じゃ帰ろっか」
あずきちゃんは、先に歩き出した。
私は、さとるに
「さっき抹茶ばかり選んでて面白いって言ってたよね」
と詰め寄った
「いや、そういう意味で言ったんじゃなくて」
さとるは、後ろに下がりながら言った。
私は許す気はなかった。でもやっぱり私は抹茶アイスが好きだ。安定で絶対失敗しない抹茶アイスが好きだ。
「ねぇさとる?」
私はさとると話していてもうひとつ気づいたことがあった。
「ごめんって」
さとるは、焦りながら言っていた
「もういいよ」
私は許す気はなかった。
でもそれより伝えたいことがあった。自分の気持ちを受け入れたい。そのために。
「私、さとるのことが好き。付き合って」




