表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

ストップ安のボケ、ストップ高の知性

作者: jin kawasaki
掲載日:2026/03/15

スタジオの空気は、独特の「熱」を帯びていた。

大型モニターには、来月に迫った国際的なスポーツ祭典のプロモーション映像が流れている。カメラが切り替わると、司会を務めるベテラン芸人の上岡が、鋭い眼光を雛壇に向けた。

「さあ、経済評論家の先生によりますと、この大会期間中はスポーツ関連株が軒並み跳ね上がるそうですが……。どうですか、このビッグウェーブ。乗っかって一攫千金狙いたい人!」

上岡の煽りに、スタジオがワッと沸いた。

その喧騒が一段落した瞬間、雛壇の端に座るお笑いコンビ『ミスマッチ』のボケ担当・佐藤が、ゆっくりと手を挙げた。

「いやー、僕もね、もう目星つけてるんですよ。今回の大会で間違いなく『爆上がり』する銘柄」

「お、佐藤。お前、競馬以外に株もやってんのか?」

上岡が意外そうに眉をひそめる。

佐藤は自信満々に鼻を鳴らし、カメラを指差した。

「ズバリ、『痔の薬』を作ってる製薬会社の株です。これは固い」

一瞬の静寂。

次の瞬間、上岡の鋭いツッコミが飛んだ。

「なんでだよ! 選手がハードな練習で尻でも腫らすんか! どんな過酷な競技想像してんねん!」

「違いますよ上岡さん、ファンの方ですよ」

佐藤はさも当然といった顔で、椅子に座るジェスチャーを加えながら続ける。

「みんな、熱狂してテレビにかじりつくでしょ? ずっと座りっぱなしで応援するじゃないですか。動かない、でも興奮して血流は激しくなる。結果、お尻への負担がクリティカルヒット。日本中が『座りすぎ』で、お尻のレスキューを求める……。ほら、需要のサンライズが見えませんか?」

「見えるかボケ! どんな経済予測やねん。もっと爽やかにスポーツを楽しめ!」

スタジオが爆笑に包まれる中、上岡が「ったく……」と頭を振った。

その隣で、清楚な紺のワンピースに身を包んだ現役大学生アイドル・一ノ瀬舞が、人差し指を顎に当てて小さく頷いていた。

「……でも、佐藤さんの視点、あながち間違いじゃないかもしれません」

凛とした声がスタジオに響き、カメラが舞を捉える。彼女は難関大学に通う現役大学生としても知られる、グループきっての知性派だ。

「えっ、一ノ瀬ちゃん? まさか今の『お尻理論』に乗っかるの?」

上岡が呆れ顔で聞くと、舞は上品に微笑みながら言葉を続けた。

「いえ、さすがに痔の薬に一点張りはしませんけど……。でも、普段運動しない層が急に感化されて体を動かしたり、逆に長時間応援で同じ姿勢を続けたりすることで、『湿布』や『消炎鎮痛剤』の需要は確実に伸びると思うんです。いわゆる『にわかアスリート特需』ですね」

「……にわかアスリート特需?」

「はい。中継を見て『よし、俺も明日からジョギングだ!』と張り切ったお父さんたちが、翌日に膝や腰を痛める。あるいは、佐藤さんが仰ったように、長時間観戦による血行不良からの肩こり。スポーツ用品そのものより、その『余波』をケアする薬品メーカーの株価に注目するのは、投資戦略としてはむしろ堅実かもしれません」

一ノ瀬舞が淡々と、しかし説得力のあるトーンで語り終えると、スタジオの空気が一変した。

佐藤の突拍子もないボケが、彼女の「インテリジェンス」というフィルターを通した途端、妙な現実味を帯びてしまったのだ。

「……おい、佐藤」

上岡がボソリと呟く。

「お前の汚いボケが、一ノ瀬ちゃんのせいで『鋭い経済予測』みたいに聞こえ始めてるやんけ。営業妨害やぞ」

「あ、これ僕の株も上がっちゃいます?」

佐藤が調子に乗って身を乗り出すと、上岡はすかさずシャットアウトした。

「お前の株は万年ストップ安や! 次行くぞ、次!」

華やかなセットの裏で、モニターの数字が激しく動いている。

祭典の足音は、意外な場所にも熱を運び込もうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ