第7話
「キティアラ、聞きたいことがある」
魔術院の建物を後にしたダンスは、待ちかねたように口火を切った。
「そうだろうな。それで、何から話そうか」
「まずは報告以外のところからだ。あの金、75ドゥカットは一体何なんだ」
「見ての通り、あの場所にいるはずがないダンスのことを、見て見ぬふりをするための代金だ」
高過ぎる。75ドゥカットといえばかなりの大金だ。
「参考までに話しておくが、あのドゥパルドという小男には『金を受け取る』以外の選択肢はない。金を渡したのは今回が初めてじゃないからな、もう断れないんだよ」
もらういわれがない金を受け取ってしまうと、こうやって縛られるのか。自分が会話の主導権を握るつもりだったダンスだが、予想外の展開に思わず鼻白んだ。
「それで、次の質問は報告の話でいいのか」
と促され、しかたなく質問を重ねる。
「あの報告。おれはてっきり『任務には失敗した』という報告になるんだと思っていたが、そうじゃなかったな。報告の内容は、事件が起きた時と場所、壁が『崩落』したこと、あとは」
ダンスは言葉を切った。仕方がないと思っていることだとはいえ、改めて口に出すには抵抗がある。
「あとは、人間が1人と牛が8頭という損害についてだ。ここにも疑問があるぞ、あのときキティアラは『喪失9、回復9』と言った。喪失はわかるが、回復というのは何なんだ」
「もう少し落ち着いて、整理してから質問したほうがいい。まあ、答えよう」
キティアラはあくまで冷静なまま、自分のペースを貫いて淡々と話し続ける。
「まず報告の内容についてだ。魔術院が求めているのは、あの時で報告したものですべてだ。彼らはそれ以上は必要としていない」
キティアラが何を言っているのか、ダンスは呑み込めなかった。報告として必要なのは、あれだけなのか? 本当に?
「今回は、突発的に『崩落』が発生したわけだよな。その結果、牧場が犠牲になった」
「その通りだ」
「『崩落』関係のことを報告したのはわかる。わかるつもりだ。だがその前に、本来なら『壁の定期点検、巡回ができなかった』ことが報告されるべきじゃないのか?」
「ダンスの立場なら、当然そうだろう。その上で、私は『あれがすべてだ』と言った」
ダンスは沈黙した。キティアラも口を閉じたままだ。2人は無言のまま向かい合って立ち尽くしていた。
そして、やはりダンスが先に折れた。
「つまり、おれたちがやってきた『壁のメンテナンス』は何なんだ。不要なことだったとでも言うのか?」
「それはまだわからない。繰り返すが、今彼らが求めているのは、あれがすべてなんだ」
キティアラは言葉を継いだ。
「ダンス、あんたは評判通りの男だ。生き残るために臆病になることができる。私が思うに、臆病とは考えることができるということだ」
そして、これが最後の一言だった。
「指名してまで、パーティを組んだ甲斐があった」
キティアラは踵を返し、石畳に響く靴音とダンスだけがその場に残された。




