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第4話

「まず外周だ。牧草地を確認してから牛舎、最後にディゴの家に踏み込む」

 手短に方針を告げると、ダンスは3人の先頭に立ってゆっくりと牧場を囲む柵に近づく。木の板と杭で組み上げられた柵は、記憶よりも波打ち、不揃いに見えた。キティアラは目を細めて集中を高め、逆にパイパーは目を大きく見開いて周囲を窺っている。


 母屋から一番遠くにある扉にたどり着いたダンスは、力を込めて扉を押した。今朝までこの扉は、ディゴの生真面目な性格を表すように音もなく滑らかに開いたはずだ。だが今は、蝶番と板がこすれあう不気味な音を立て、不承不承その口を開けた。


 足首ほどの高さの牧草が生えた見晴らしのいい牧草地だったそこは、今では肩の高さまで伸び放題の雑草が茂っている。


 姿勢を低くしたダンスはゆっくりと剣の鞘を払い、パイパーを振り返ると、

「100歩離れてついてこい。キティアラから目を離すな」

 と低い声で指示を送る。パイパーは緊張しているのかしきりに唇をなめていたが、指示通りキティアラと共にその場にとどまった。キティアラは油断なく左右を見回している。


 ダンスは草をかきわけ、踏みしだきながら進んでいく。地面は急に盛り上がり、小高い丘を形成していた。丘を登るにつれて草の背丈は低くなっていき、頂上部分にはほとんど生えていない。膝をついたダンスは、手をかざしてゆっくりと牧草地全体を見渡した。


……いたか。


 丘のふもとまで進んできていたパイパーとキティアラを、手招きで呼び寄せる。パイパーに見つけた場所を指し示して、二言三言作戦を告げた。


「頼んだぞ」

 パイパーの肩をたたくと、ダンスは丘を下り始めた。一方のパイパーは、バックパックから組み立て(テイクダウン)式短弓の金属パーツを取り出し、準備を始めた。経験の少ないパイパーにとって、最もプレッシャーがかかるのは「待つ」ことだ。明確にやるべきことを指示された今、パイパーは落ち着きを取り戻していた。


 ダンスは腰をかがめて大きく回り込み、草陰に身を隠した。


 ーーバキン、バキン!

 ラチェットが回り、クランクが鳴る。低い金属音が2度響くと、3つの金属パーツはパイパーの手の中で武骨なリカーブボウに姿を変えた。


 その音を確認したダンスは、標的に向けてじりじりと間合いを詰めていく。


 と、空気を切り裂く鋭い矢鳴り、次いでくぐもった吠え声が響いた。

 ダンスは一息に草むらを飛び出すと、地面すれすれから薙ぎ上げるような斬撃を放った。

 

 剣は標的の後ろ脚を断ち切り、胴体にも存分に斬り込んだ。相手が倒れる前に剣を引き抜き、ダンスは首にとどめの一撃を加えた。

 

 剣の血をぬぐっていたダンスのもとに、パイパーとキティアラが駆け寄ってきた。

「さすがダンスのおっさん、動きに無駄がない」

「パイパーの射撃あってこそだ。あのおかげで動きが止まったからな」


 見事な連係プレーで相手を仕留めたダンスとパイパーは、手短にお互いを評価する。こういうときは、年齢も経験も関係ない。大事なのは目的のために何ができたか、だけだ。

 キティアラはそんな二人のやりとりを見届けると、二人の共同作業の結果に近づいて行った。

 

「それでさ、おっさん。これは何なの?」

今さらながら、気味悪そうにパイパーが尋ねる。それはそうだろう、キティアラが検めているその生物は、『壁』の内側では見たこともない姿をしていた。


 大きな動物の皮を剝がしたような、それか口から手を突っ込んでぐるりと裏返したような。つまりは「本来身体の内側にあるはずの筋や腱、内臓が体表にある」状態だ。頭の両脇からは、ねじれた角らしきものが生えている。

 

「牛だな。もしくは、牛だったものだ」

 キティアラはひとしきり『牛』を調べ終えると、二人を振り返った。

「あの老人が言った通り、変貌したのは今朝がたとみていいだろう。牧場の柵や牧草も、今朝まではああはなっていなかった筈だ」

 『壁』の内側にあったもの――生き物にせよ、人間が作った建物にせよ――が壁の外側に出ると、「変貌」してしまう。

「『壁』が、この変貌からおれたちを守ってくれてるってわけだ」


 そして今のように『壁』の外にいるときは、キティアラが、だな。

 ダンスはディゴと別れ、牧場に足を向けたときのことを思い返す。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 ――キティアラは両手を空にかざし、いくつか複雑な図形を描いた。

「確かに、牧場のあたりに大きな『壁』の崩れがある。早めに対処しないと、もっと広がるかもしれん」

 目を細めて牧場のほうを見やったキティアラは、さらに告げた。

「『壁』防御の礼式を施す」

 キティアラは先ほどとは違う図形を宙に描き、両手をパシンと打ち合わせた。

「これで、『壁』から外に出ても安全だ。私のそばを離れるなよ」

 

 ◆◆◆◆◆◆◆ 

 

 ダンスとパイパー、そしてキティアラは、牧場から畑、そして牛舎を丹念に調べて回った。『牛』は牧場に2頭、6頭は牛舎に座り込んでいた。ダンスとパイパーは、一頭一頭念入りに息の根を止めていった。

 

 まだ調べていないのは、母屋だけ。そして、残りの数字は『1』だ。

 ダンスは母屋の扉をゆっくりと押し開けた。



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