第25話
ダンスたち3人を連れたレキサ一行は、入り口の門をくぐり、村の奥へと歩みを進めていく。決して豊かではないが丁寧に手入れをされた畑が広がり、その向こうには人家が軒を連ねている。
初めて見る村の様子に目を奪われていたダンスの衣服の裾を、誰かが引っ張った。見ると、4~5歳くらいの男の子だ。
「おじさんたち、誰? どこから来たの?」
見上げるようにして、少年が尋ねる。いつの間にか、同じくらいの年齢の子供たちが何人も集まってきていた。ダンスはレキサの顔色をうかがうが、押しとどめる様子は見られない。
「ん、おじさんたちはね、街から来たんだよ」
「街? 街ってどこ?」
そこでレキサが割って入る。
「こいつらはな、『壁』の向こうから来たそうなのじゃ」
「うっそだあ! だって、みんな『壁』の方に行ったらダメだって言うじゃん!」
「そうだ、お前らは『壁』に近づいてはいかん。こいつらもな、『壁』の禁忌を犯したから、村長のところに連れていくのじゃ」
レキサが怖い顔を作ってそういうと、子供たちはキャーキャーと大騒ぎしながら駆け出して行った。
その後ろ姿を眺めながら、パディルはレキサに問う。
「禁忌だから村長に、っていうのは本当なのか?」
「半分は本当じゃ。子供というものはああやって脅かしておかないと、いくら説明しても言うこと聞かんじゃろ。おぬしらを村長のところに連れていくのは、禁忌とはかかわりがない。そもそも村人ではないおぬしらに、禁忌は関係ないじゃろ」
禁忌という大それた言葉をどれだけ信じているのか、レキサはあっさりとそう言い、さらに言葉を継いだ。
「村長はな、壁守が本当にいるなら話をしたい、といっておるのじゃ」
レキサは歩みを止めた。村の中心にあたるのだろうか、こぢんまりとした広場のように開けた場所だ。大きなベンチと焚火を燃やせる火床、家畜のえさを入れる桶、商品を並べられるテーブルやカウンターなどが並んでいる。
「ちょっと、そのへんに座って待っておれ」
レキサはそう言い残すと、ダンスたちの武器を抱えて一番大きな家に向かって歩み去った。レキサに従っていた村の男たちは、三々五々バラバラと立ち去っていく。ダンスたち3人だけがその場に残された格好だ。
ダンスとキディアスはベンチに腰掛け、パディルは誰かを探すように周囲を見回している。
「捕虜……というわけではないのか。ホッとしたが、拍子抜けだな」
とキディアス。確かに、意外なほどいい扱いだ。
「しかし、平和な村だな。これまで『壁』の外は危険がいっぱいだと思い込んできた自分がバカみたいだ」
「そうだな。それに、もっとわかることがあるぞ」
とキディアスはカウンターやえさ桶を指さした。
「あれは村の外からくる者たちが使うんだと思う。そうでなければ村の真ん中に動物のえさ桶は置かないし、この程度の大きさの村でわざわざ市場は開かないだろう」
ダンスは腕を組んでうなった。なるほど、そういうものの見方もあるのか。
「もしそれが正しいとすると、『壁』の外にはこの村以外にも人が住んでいて、そこから隊商が来ている、ということになるな」
「その通りだ。この村、おそらく人口は100人いるかどうか。その規模では、完全な自給自足だけで生活を成り立たせるのは難しいはずだ」
「となると、まだまだ未知の人々や村、街があり得るってことか。面白いな、パディル」
ダンスはそう言いながら振り返ったが、そこにパディルの姿はなかった。
「しまった、あいつ……!」
ダンスは慌てて立ち上がったが、タイミングの悪いことにレキサが広場に戻ってきた。
「さあ来るのじゃ、村長がお会いになる。ん?あの若いのはどうした?」
レキサはきょろきょろと周囲を見回している。あの様子だと、おそらく村側にさらわれた、というわけでもなさそうだ。気にならないわけじゃないが、パディルのことだ。何かあっても上手く乗り切ってくれるだろうさ。
ダンスはキディアスを促し、レキサと共に村長の元へと向かった。




