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第17話

「待てよ、キディアス」


 声をあげたのはパディルだった。

 

「このガキに殺されかけたのはこっちなんだぜ。質問する権利は俺にある」


 言ってやった、とばかりのすまし顔をしているパディルだが、額から左目、左頬と自分の弓が跳ね返ってできた打ち身でひどい見た目になってしまっている。効果は半減だ。

 

 眉をひそめて不満を表現したキディアスを、ダンスは目顔で抑える。子供相手にキディアスお得意の詰問調では、話してくれるはずのことも引っ込みかねない。

 

「よう、ドルグって言ったよな。おれパディル」


 パディルはドルグの正面に回り込むと、どっかりとあぐらをかいて座り込んだ。ダンスとキディアスは壁際に下がって、まずはパディルのお手並み拝見というところだ。

 

「弓、撃ってきたのはお前だろ。いい腕じゃんか、危ないところだった」


「なあに、当てる気はなかったからな。もし本気なら一撃必殺よ」


 褒められたドルグは、強がりながらも素直に笑顔を浮かべた。弓の修業は過酷だから、射手ならばその腕を褒められて悪い気はしないはず。パディル、まずは1ポイントというところか。


「そうだろうな。お前より上手い弓使いって、いるのかい?」


「村では3番目というところか。わしはまだ若い故な、伸びしろはまだまだある。いずれ村一番の使い手になろうさ」


「村? 村ってどこだい?」


 素知らぬ顔をしながら、村という話題に食いついていくパディル。なかなか巧妙だ。

 

「そうだのう。ここから西に歩いて川を渡り、さらに歩いて、わしの足ならまる1日というところか」


 目を閉じて顎をこすり、指を折りながら道筋を思い出して答えるドルグ。

 

「信じられんな」


 たまらず、それまで黙っていたダンスが割り込む。


「『壁』の外側は危険だ。村といえるほどの人数が集まって生きていけるとは思えん。せいぜいひと家族かふた家族、要は10人くらいがせいぜいのはずだ」


 へえ、という表情でドルグがせせら笑う。

 

「そうかね。わしもわしの両親も、村で生まれたんだがな。まあ、信用しないのはそっちの勝手」


 よいしょ、とドルグは両ひざに手をついて立ち上がった。

 

「さあ、おぬしらの用事も済んだようだから、帰らせてもらうぞ。構わんな?」


 パディルとキディアスから、非難するような視線が集中する。明らかにダンスのせいで、交渉は失敗したわけだ。

 

「すまん。気を悪くしたなら謝る」


 あわてて頭を下げるダンスだが、残念ながら後の祭りだ。

 

「一応言っておくが、わしが戻らなければ村の住人総出で探しに来るぞ。わしがここにいることは、連中は知っとる。わしより腕の立つ射手が、みすみすおぬしらを逃してくれるとは思えんな」


 ぴしりとくぎを刺すと、ドルグは弓と矢を拾い上げた。そのまま部屋を出ると、ゆっくりと階段を降りていく。

 

「待ってくれ、ドルグ」


 声をかけたのはキディアスだ。

 

「最後にひとつだけ。なぜお前たちは、壁守かべもりを嫌うのだ」


 振り返ってキディアスを見上げたドルグは、ふんと鼻を鳴らした。

 

「おぬしら壁守が、我らを追い立てたからよ。我らが『石の街』から追われたのは、おぬしらのたくらみのせいだ、と教えられておる」


「わかった。もう引き止めん」


 ドルグは階段を降り終わり、ダンスが破った扉から外へと出ていった。キディアスは振り返ると部屋の扉を閉じた。

 

「いいのか、帰してしまって」


 パディルが問いかける。

 

「ドルグの村人が追ってくるという話、あれは本当かどうかはわからん。ただ、ハッタリだとしてもそのリスクを冒すわけにはいかん」


 苦い顔で答えるダンス。余計な口出しでせっかくのチャンスを逃した自覚ははっきりある。

 

「いや、収穫はあった。山ほどな」


 意外にも、キディアスは笑顔だった。

 

「気づいたか? ドルグは『壁防御』の礼式に守られていない。にもかかわらず、彼は変貌した様子はない。まったくだ」


 新たな知識を得た喜びと、自身の存在意義を疑う苦悩が同居する。キディアスの銀色の顔には、そんな複雑な表情が浮かんでいた。


「じゃあ、私が魔術院で教えられて育ち、お前たちにも施してきた礼式というのはいったい何なんだ。魔術師メイジとは、何者なんだ」


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