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第15話

「パイパー、撤退するか。無理は禁物だ」


 やっと立ち上がったパイパーに、ダンスが声をかける。もしダンス自身がこんなコンディションだったら、まず任務中止の判断をするところだ。

 だがパイパーの若さが、その慎重さを退けた。

 

「いや。大丈夫なんだ、ダンス。もうすっかり」


 パイパーはトントン、と足踏みをしてみせ、荷物から組み立て《テイクダウン》式の弓を取り出し、てきぱきと組み立てはじめた。バキン!と音がして金具が合わさるとラチェットがミシミシと軋み、弦がピンと張られた。どうだ、とダンスを見返す。

 

「わかった、いいだろう。でも俺が少しでも無理だと思ったら、すぐ撤退するからな」


 くぎを刺すと、ダンスは荷物を担ぎなおし、キティアラを促して歩き出した。『壁』を超える際のパイパーの転倒で期せずして小休止することになったが、本来時間の余裕はそれほどない。

 

 『壁』の向こう側では、どんな些細なことでもリスクになり得る。日が暮れてからの行動は避けたいと考えると、早朝から動きはじめたとはいえ無駄にできる時間はない。

 

「大丈夫、だよな……」


 パイパーは、左手で弓を何度も握りなおしていた。あの感覚、左手の肉と皮が骨から剝ぎとられるような感覚はおさまっているが、どうにも違和感が残っている。気がつくと、手のひらにじっとりと冷たい汗をかいていた。パイパーは左手をズボンでこするように拭くと、ダンスとキティアラのあとに続いた。

 3人は目的のダンジョン、かつてディゴの牧場だったその場所へと近づいていく。

 

 先行するのはパイパー。弓を手に、油断なく左右に目を配りながら牧場の母屋へと近づいていく。後ろからはダンスとキティアラが続く。

 

 と、そのとき突然。空を切り裂く甲高い音が響き、牧場柵のそばで反射的に身を伏せたパイパーの頭上を矢がかすめた。

 

 何者かが、パイパーを狙って続けざまに矢を放つ。矢鳴りがうなり、牧場柵に1本、2本と矢が突き立つ。


「くそっ!」


 パイパーは身を隠した牧場柵の陰から顔をのぞかせると、構えた弓に矢をつがえ、狙いを定める。母屋の2階を見上げ、キリキリと弓を引き絞る。弓を握る左手を握りなおす。いやな汗で手が濡れる。そのまま射手の姿を探すパイパーだったが、そこで異変が起こった。

 

 短弓を握り締めていた左手から、まるで自分のものではないかのように力が抜け落ちる。左手首がねじれて返り、いっぱいに引き絞られた力が乗った弓は弾けるようにパイパーの顔めがけて跳ね、つがえた矢は宙に向かって飛んだ。自分の弓でしたたかに顔を叩かれたパイパーは、うめき声をあげて地面に倒れた。


「ダーーーーンス!」


 倒れたそのまま、パイパーが叫ぶ。


 その叫びを聞くまでもなく、ダンスは走り出していた。背中から下ろした丸盾を頭上に構え、一気に庭を横切って母屋へと走り寄る。射手がどこにいるかまでは見て取れなかったが、パイパーへと射かけられた矢の射線には角度がついていた。母屋の2階に射手がいるなら、真下は死角になる、という読みだ。

 

 走るダンスの身体を矢がかすめる。射手の注意がそれたと見たパイパーももがくように起き上がり、母屋へ向けて走るが、方向はダンスとは逆だ。パイパーを狙った矢は大きく逸れた。

 

「キティアラ!むやみに動くなよ!」


 最後尾に残ってじっと様子を見つめていたキティアラに声をかけ、ダンスは腰の剣を引き抜くと、母屋のドアを蹴破って屋内に躍り込んだ。


 ねじれた蝶番が上げるきしんだ金属音に混じって、2階から慌てたような足音が響く。

 

「さあ、次はこっちの番だ」


 剣を握り直し、ダンスはゆっくりと階段に足をかけた。


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