第11話
「キティアラ、今度こそ説明してもらう」
言葉こそ冷静だったが、短く切ったダンスの口調には苛立ちが籠っていた。視線はキティアラの金色の瞳に注がれ、微動だにしない。
「改めて聞くが、キティアラはあの台帳に何が書かれているか、いや何が書かれていないかは知っているんだな」
キティアラは無言で頷く。
「初対面のときみたいに、『そうだ』『違う』みたいに調子よく返事してくれないんだな」
パイパーの棘を含んだ言葉にも、キティアラはちらりと視線を投げるだけ。その表情……うっすらとした笑顔は崩れない。
「説明はしない、だが質問はしよう。ダンス、パイパー。お前たちはあの台帳を読んで、理解したな?」
キティアラのペースに乗るのは癪だが、それ以上にダンスの胸に巣くった疑問は大きかった。
「『壁』の修復は行われていない。先日の任務だけじゃなく、80年も前からずっとだ。じゃあ、おれたちが任務だといわれてやっているのはいったい何なんだ?」
「あれにも意味はある。喪失したものは必ず回復しなければいけない」
喪失9、回復9。台帳はそう記録していた。
「喪失と回復、それについてももちろん聞きたいことはある。だが、まずは『壁』のことだ」
ダンスは押し殺した声で言葉を継いだ。
「壁はおれたち人間の生活を守り、冒険者と魔術師は壁を守るために命を懸ける。そう信じていた、馬鹿みたいにな」
「くどいな、ダンス。それを理解したお前は、どうするんだ? 冒険者ギルドに告発するか? それとも『壁なんてインチキだ』ってビラでも配って触れ回るか? どちらにしても、何も起こらない。お前は消されて、ゼロになるだけだ」
キティアラは、もう笑っていなかった。
「それとも、本当は何が起きているのかを突き止めるのか。私と一緒に」
ダンスは大きく息を吸い込み、一歩前に出た。溺れかけたときになんとか息継ぎできたような気分だ。……いや、もっと深いところに首を突っ込んだだけかもしれないが。
「いいだろう。話に乗ってやるよ、キティアラ。ただし条件がある」
条件、と聞いて眉をひそめたキティアラに向かって、ダンスは要求を突きつけた。
「まずは次の現場だ。『壁』で何が起きるか、今度こそ自分の目で見てやる。『喪失と回復』だな」
キティアラは小さく頷いた。さらにダンスは言葉をかぶせた。
「それから、隠しごとはやめてもらう。この先わかったことは、3人で共有だ。もし破ったら、その場で話は終わりだ」
「3人?」
「今さら抜けるなんて言うなよ、なあパイパー?」
「しょうがない、つきあうよダンス」
キティアラは二人に告げる。
「次は3日後の夜明け、あの前哨地だ。お前たちが見たいもの、私が見せたいもの、私たちが知りたいものを探す。『壁』の真実の姿だ」
「引き返すなら今だ。だが、そうした瞬間お前たちはまた『数えられるもの』に戻る」
踵を返したキティアラに、ダンスは答えを返さなかった。もうその必要はなかった。去っていくキティアラの後ろ姿を眺めながら、無意識にその足どりを数えていた。
もう、『数えられる』存在に甘んじるのは終わりだ。




