第8話 行方不明だった旦那様が帰還した!
「殿下っ! ご無事だったんですか!」
クラウディアはライベルトに駆け寄ると、彼はリビングの椅子に深く座って笑みを浮かべた。
すると、アクアとレオは走って彼のもとへ向かった。
「よく耐えたな」
「おかえりなさいませ、殿下!」
(あれ、殿下と呼んでいるの? お父様とかでは……?)
クラウディアの考えを読んだように、ライベルトは両膝に双子を一人ずつ乗せて頭を撫でながら言う。
「七年ぶりか。そなたがパトリシオと共に挨拶に来たのは」
「ええ、ご無沙汰しております」
(『幽霊騎士』として第二王子が戦場に出ることを国内で知る者はほとんどいない。それゆえ何かあった時のために、叔父上から私が殿下の所在や状況は把握することになっていた。叔父上から直々に教育を受けていた私が……)
クラウディアは第二王子ライベルトの頭脳として叔父パトリシオと共に働く予定だった。
それがまさか殿下の妻になることになろうとは思わず、彼女も戸惑ったのである。
「なぜ私がそなたの結婚相手になったのか、聞きたいようだな」
「はい。元婚約者であるポール様のお申し出をなぜ受けたのか、彼は『幽霊騎士』であるあなた様に無礼を働いたはず。なぜ……」
すると、彼はポールからの手紙を取り出してクラウディアに伝える。
「あやつはこの私の正体を知らぬままお前の嫁ぎ先を斡旋して面白かったな。私が承諾したのは、もちろんこの子らのためだ」
「殿下のお子、でございますよね?」
「答えは半分YESで、半分NOだ」
「え……?」
アクアとレオは興味がそがれたのか、ライベルトの膝の上にいながら二人で手遊びをしている。
「二人の母親はノアだが、父親は私ではない。私は引き取って王位継承権を持たぬ養子にしたまで」
(本当の子では、ない……? では、二人のお父様は一体……)
クラウディアの疑問に答えるように、ライベルトは語り始める。
そこの表情は少し切なげにクラウディアには見えた。
「ノアはこの屋敷に侍女として行儀見習いに来て、そして二人の子を身籠った。その父親は、戦地で死んだ私の部下だった」
(そんな……じゃあ、ノア様はご自身の父上だけでなく、恋人まで……)
「責任を感じた、などと綺麗ごとをいうつもりはない。だが、ノアは病に伏せ、この子らを育てることもできなかった」
「それで、殿下が……?」
クラウディアのその言葉に静かに頷いた。
「ほとんどはジベルや侍女たちが面倒を見ていた。私はこの子が成長する場所を提供する。それだけだ」
そう言葉にしたライベルトだったが、彼がうわべだけで子育てをしていたわけではないことがクラウディアにはすぐにわかった。
(こんなに懐いていて、ただ場所を提供していただけじゃないはず。きっと殿下は二人に愛情をしっかり向けていらっしゃる)
「何人かの母親候補はいたが、二人と合わなかった。そうしていた矢先、お前の婚約者からクラウディアの嫁ぎ先になれと手紙が来たのだ。なぜ、子息一人が他人の嫁ぎ先を決められると思ったかは謎だがな」
(ポール様はなかなか世間知らずなところあったけれど、婚約者だった人間とはいえ嫁ぎ先を決められるわけないのに、さすがのお方だわ……)
ライベルトはさっと立ち上がると、双子たちを抱っこして床に降ろした。
そして、クラウディアのもとへ行き、頭を下げる。
「殿下!?」
「この子たちは初めて自分たちの内に私以外の者を入れた。それはそなたを母親代わりとして認めた証だろう」
ライベルトは婚姻届を見せてペンを差し出した。
そこにはすでにライベルトの署名が書かれている。
「そなたの両親にもパトリシオにも承認は得ている。私と共にこの子らを育ててもらえるか?」
「叔父様にも承諾をすでに!?」
「ああ」
すると、アクアがクラウディアに抱き着いた。
「なに!? ついに『けっこん』するの!?」
「あ、アクア様!!」
その言葉にクラウディアの頬は赤くなっていく。
(殿下と結婚……それに双子の子どもたちの子育て……私にできるのかしら……)
クラウディアは不安になると、ライベルトは彼女の耳元で囁く。
「私はそなたの聡明なところ気に入っている。私に恋をしないか?」
「で、殿下!?」
甘く蕩けるようなその言葉に、クラウディアの頬はさらに赤くなった。
『稀代の悪女』と呼ばれた彼女の幸せはここから始まる──。
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<2025年10月3日1時25分>
最終回を一部改稿しております。