【景色 四:作戦】
”唐突に現れた複数の妖が人里を突然に襲った”これは組織だっている居ると言う事ではないか?
”助けを呼びに言った所すぐに追ってきた”何やら組織だった妖が人里を襲っているのだろうか?
(お焼きで割に合いそうもないわね)自分でも血の気が引くのが分かる。
(心の底から逃げたいけど・・・)と吹は周りを見ると、郷の男たちは若い娘にすがるような目を向ける。
お焼き美味しかった、さりげない食が充実しているのは暮らしが整っている証。
郷にある生活、当然家族もあるのだろう。
実りある暮らしがあると言う事は土地に根付いた努力が、数世代に渡りあると言う事。
もちろん自分の命も惜しい。
様々な思考感情を巡らせて吹が絞り出した言葉は
「そんなたくさんの妖、私達だけで祓えないわよ」と先ずは買いかぶられない事に釘を刺した。
弥平もそこまでの期待はしていない。
「そんじゃあ!」藁にもすがる思いの弥平達の表情は明るくなる。
「皆さん協力してくれますよね」吹は妖祓いの段取りを考える為、頭の中は大忙しになった。
状況確認し、行動を思案する。
妖に詳しい吹が中心になるが、郷の状況は弥平達に依る。
森に夕刻が訪れる頃一応の段取りがまとまった。
夕刻とはいえ季節は夏であり、まだ充分に明るい。
「いいですか、分からない事だらけなんですからくれぐれも柔軟な行動をお願いしますよ」
段取りが決まる頃にはすっかり吹が頭領だ。
お香は何もしない聞いてるだけ・・・と言うより周囲の様子を伺い続けている。
段取りは聞いてすらいないかもしれない。
方針を決め、動き始めるのに多少の時間がかかったのは仕方ないだろう。
二手に分かれる、郷に戻る組とスワに応援を呼ぶ組だ。
「数体の妖なんて私たちだけじゃムリ」と言う吹の言葉を入れたのだ。
「無理もねぇ」と弥平の理解は早かった。
源吉と耕太がスワに向かい、弥平と平助が吹たちを連れて戻ることとなった。
弥平が源吉と耕太に念を押す「いっか、スワさ行ったら社の八重様とこさ行け。ヨダさ妖が現れて暴れてると言えば分かってくれる」
心配そうに二人を送る弥平だが、人の心配もしていられない。
というか郷に残った妻子の方が心配だ。
吹、お香、弥平、平吉は郷の方に移動。
移動しながら、吹とお香は弥平、平助と更に詳細を詰める。
「しかし吹さんホントにやるんですか」心配そうな弥平が聞く
「大丈夫なんかなぁ」と平助はべー子を牽いている。
「分からないわよ」吹も不安なのだろう、不機嫌な顔を隠しもせずに言う。
「でも現状で私の思いつく最良の手よ、皆さんには頭のタガを外してもらうわ」
吹、お香、弥平、平吉はヨダ郷に向かう山道の山小屋に入った。
この小屋で討ち入りの準備を始める。
旅装をしていた吹とお香は衣装を変えている。
頭に鉢巻、手甲に脛当て動きやすい侍のような袴姿となったお香は手に薙刀を持っている。
胴丸は付けていない。
動きやすさを優先しているようだ。
薙刀は昼間持っていた杖の先に刃を装着したものだ。
対して吹は白い水干に緑の袴、烏帽子をつけた姿に太刀を佩く。
太刀は先ほどから抱えていた長物の袋に入っていた。
着替えた衣装を見た弥平は
「吹さん、やはり巫女さんだったや」
吹は苦笑いで返す「巫女じゃないの、そうね、白拍子」
「え?、違うんで?」弥平はきょとんとする、男は衣装に詳しくないものだ。
「神様に仕えてないからね、まあ旅芸人みたいなもの」と吹
実の所吹は旅の道々、旅芸人的な事もするが、商いもし、実の所妖退治もしたことはある。
路銀を稼ぐために色々しているが、下手な事を言って全力で頼られたくないと思っている。
もっとも報酬の件はいま計算中だが。
「所で吹さん、お腰の刀は先ほど大事そうに抱えていた袋に入っていた物?」と弥平が聞いて来た
「そうよ、私の旦那様」と吹は太刀を愛おしそうに撫でながら意外な返答を返した。
なぜか吹は自慢気だ。
「だん、あ、あ~なるほど」と笑顔に切り替える弥平。
なるほどなるほど、世間にはいろんな方が居るらしいしな・・・と弥平は飲み込んだ。
この状況で機嫌を損ねられても困る、と弥平も思っている。
日が傾き始める頃となった、吹たちは準備を急ぐ。
「それでは弥平さん、郷へ案内してください」と吹。
「妖たちに気取られないと良いのですが、まず無理でしょうね」両手で持った太刀を額につけ独り言のように呟く。
「わかったが・・・」と弥平は心許ないらしい
「信じて、とは言いにくいけどここまで来たら信じて」吹は言う。
「必ず時間稼ぎはする」乗り掛かった舟と覚悟するのは吹の方だろう。
妖達を抑え、スワからの応援を待つと言うのが基本方針だ。
弥平達から郷の様子は聞いた、しかし半日経って同じ状況とは限らない、というか変化が無い訳が無い。
不確定要素の多い敵に対し、見知らぬ味方。
「悪い予感しかしないって奴ね」吹は小声でお香に話しかける、表情の乏しいお香だが微笑を返してきた。
半月浮かぶ夜空を背に、森の樹々から夜風がそよぐ。
段取りと言っても出来る事は限られる、郷は今妖に襲われているのだ。
戦力を整える等と言う余裕は無い。
出来ればべー子を安全な場所に待たせたいが安全な場所などわからない。
吹、お香、弥平、平吉そしてべー子は正面から里に入る。
「正面から、堂々と声高らかにね」と吹、目が座っている。
これが段取りである。
弥平さんと平吉さんはべー子の傍でこの鈴を鳴らしててください。
「どんな感じで・・・」という弥平に
「私も鳴らすので、その調子に合わせて下さい、まあ景気づけなので気楽にお願いします」
「・・・わかった」弥平と平吉はうなづいた。
季節は夏、草叢では月夜の夏虫が元気に鳴いている。
虫が鳴く夜、夜は妖の時間ではないだろうか。
**** 余談 ****
白拍子
平安時代末期から鎌倉時代にかけて起こった歌舞の一種。及びそれを演ずる芸人。
主に男装の遊女や子供が今様や朗詠を歌いながら舞ったものを指す。
素拍子とも書き、この場合は無伴奏の即興の舞を指す。
**** 余談 ****




