表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道楽草子 シナノ路  作者: 月見だいふく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/22

【景色 三:昼食】

道は街道で集落も遠くないが、山深いこの地でさして広い道幅は無い


のんびりできる状況ではなないだろうが、物事には段取りがある

先ほどの妖を、これまた先ほどの道祖神の裏手に仮埋した。



さほど深くは掘れないが、土を盛り、枝を供える。


吹は道祖神に正対し仁王立ちとなって言う「いいあんた、後で埋葬するまでちゃんと護りなさい」

どうやら道祖神を墓守に指名したらしい。



不思議な顔をするのは弥平、逃げて来た男達の一人だ。

男達は仮埋めを手伝い、弥平の先導でそれぞれ名乗った。

弥平(やへい)源吉(げんきち)平助(へいすけ)耕太(こうた)と言うらしい。


吹も名乗る「私は吹、こちらはお香さん、そしてその荷牛はべー子と言うわ、旅の途中よ」


袖すり合おうもなんとやら、お礼も挨拶も名乗りをしないとらちが明かない。

「吹さん、お香さんというんか、いや助かった本当にありがとう。」


男達は4人、この付近のヨダ郷という郷から来たらしい。

”弥平”30後半という所だろうか、中肉中背、自然に皆を取りまとめている。

”源吉”同じく30代くらいだろう、細身できょろきょろしている、妖を恐れているのだろうか。

”平助”少し若いくらいか、体系は丸みを帯びている、後ろに下がって気配が薄い、落ち着いているのかどうか。

”耕太”最も若いっぽい、身軽な感じだ。



自己紹介も終わったところで、弥平が聞いて来たのは妖と対峙した技であるのはまあ自然な事だろう。

「あまり、口外してほしくないんだけど通力よ。」



通力(つうりき)、というのは俗に天狗の力などと言われ、修験(しゅげん)の行者などが会得する神仏の秘術とされる。

仏道の僧が使えば法力(ほうりき)

神道の行者が使えば通力(つうりき)

妖怪が使えば妖術(ようじゅつ)


要は不思議な力扱いで、学問としては成り立っていないのは使用者自身にも何故使えるか分からない故である。

だが有る故に使用者は稀人としての扱いを受ける事となる。


行者の弟子となり数十年修行しても使えぬ者は使えないし、畑仕事しかしていなかった村娘が突然使えるようになる事もある。

そしてなぜか通力の発現は女性の方が圧倒的に多い。


摩訶不思議であるために通力使いと宣伝する者は少なからず居るが、だいたいは詐欺師である。

そんな事情で吹は面倒を避けるため自分の通力は隠すようにしている。


「詐欺師と思われたくないからね」と吹


「あとお香さんだけど、旅仲間、友達よ。」

「御覧の通りの腕っぷしでとても頼りにしているわ。」

「でも人見知りだから気楽に話しかけないでね、用があるときは私が聞くから。」


お香は辺りの様子を伺っていたが、自分の話と言う事で男たちの方を見、吹の言葉に相槌を打った

一言だけ「喋れないわけじゃない」とだけ言った。


「喋るの苦手なの、許してね」吹は笑顔で付け加えた。



お香は仮埋めしている間、杖を持ち、手伝うでもなく周囲を見ていた。

護衛役、用心棒という立ち位置なのだろう。



逃げて来た男達との昼食が始まる。

仮埋めしている間に火を起こし、食事の準備をしていた。


べー子も近くに寄せ、荷を解き草をはんでいる。



「火?この暑いのに?」吹は少し意外な顔で呟く。

「や、お焼きは焼いた方がうめぇんで」と弥平。


「シナノのお焼き?」と吹の声が少し弾む。

「それはあれだ、キノコ餡だな」と年若い耕太が答える、母親が持たせてくれたものだそうだ。


「思ったより美味しい」と頬張る。

お香は既に2個目を食べている。



「普通に山仕事用の弁当に用意したんだが、この騒ぎでなぁ」弥平が無念そうに呟く。

「じゃあこれ普段食べてるのね、いい・・じゃないわ、忘れてた、あの妖はなんだったの?」


「ああそうだわ、いや俺らも驚いてんだが・・・」と弥平達は経緯の説明を始めた。




平和な朝に、それは唐突に現れた。

朝の野良仕事を片付けた頃、北の方から降りて来た。

大きな百足と先ほどの人のような妖、数体の付喪と言われる器物の妖が沢山。


妖たちは手当たり次第に襲いかかって来た。



不意を突かれた郷の者達も応戦には入ったが、妖も強く、多く、らちが明かない。

相談してスワの社に救援を頼もうという事になり・・・


「郷を出たところをさっきの奴に襲われたのね」水筒に汲んできた沢の水をのんで落ちついた感じの吹。

「大きな妖二、三体と数体の小鬼・・・」吹は食べたお焼きの餡の付いた指を舐めながら思案を廻らせている。


「そっだ、いま郷はえらい事になってる」と年若い耕太、表情は険しい。


農民は日々の農作業で普通に筋骨が発達している上、その地方の領主によっては戦に駆り出されたりもする。

近隣の村落同士の争いもある。


子供の喧嘩ではない、大人の集団の喧嘩はただ事ではない。

もちろん熊や猪に素手で立ち向かったりしないが、準備さえすれば強い。


それが農民だ。


その農民が逃げ出す妖・・・・吹の考えがまとまり始めた

(すっごい面倒事だ、かかわりたくない)

挿絵(By みてみん)


三個めのお焼きを口に押込み、呑込むと吹は輝くような笑顔で一言。

「それは大変ね!」


五個目を食べているお香の腕を持ち出立を促しつつお香は続ける

「ごめんなさい先を急ぐので!お焼きご馳走さま」



と振り向き、荷牛べー子を見ると気配の薄い平助が面倒を見ていた。

「おめぇ賢い子だなぁあ、良い子だぁ」近場で牛が好みそうな草を摘み与え、優しく牛を撫でている。

掛け値なしに温和な顔立ちの平助が吹にはしたたかな策士に見える。



「・・・べー子」吹が苦々しく呟く。

べー子は撫でられて気持ちよさそうだ。


急いで逃げ出したかった吹は出鼻をくじかれた。



機を逃さず弥平が詰める。

「見ず知らずの俺らを助けてくれた事はとても感謝してる」笑顔だが、逃げ出そうとする鶏を追い詰めるような弥平。

「通りすがりの郷の騒ぎなど、旅人さんには関係ないよな」細身の源吉が謎の合いの手を入れる。

「急ぐっていうのは何処に行くんだ?俺らには土地勘もある、事が済んだらこちらが礼をするよ」と重ねる弥平。

「郷の旨いもん食ってってくれ」若い耕太も直球で続く。



「いただきましょ」と六個目を食べ終わったお香がぼそりと呟く。

吹はなんとも複雑な表情浮かべる


「・・・蜂の子お焼きはあるのかしら」言葉とは裏腹に吹は沈鬱な顔であった。


**** 余談 ****

お焼き

小麦粉・蕎麦粉などを水で溶いて練り、薄くのばした皮で小豆、

野菜などで作った具材を包み、焼いた食品。

形状は円形で、直径8~10cm程度が一般的。長野県の郷土料理として知られる。

焼き餅、あんびん、ちゃなこ、はりこしなどとも呼ばれる。

**** 余談 ****

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ