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道楽草子 シナノ路  作者: 月見だいふく


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3/22

【景色 二:遭遇】

妖気(ようき)(けが)れ。


(あやかし)と吹が呼ぶこの存在は、生き物の法則の外に居る。

故に首を飛ばしても生き永らえる者もおり、人々は恐れ遠ざける。

挿絵(By みてみん)

吹とお香は、その妖と対峙する。


哄笑と共に手にした赤子の頭を振り回してくる妖。

その妖の攻撃を杖をもって防ぐお香、吹はお香の背後に居る。



「娘っ子!逃げねぇのか!!」先ほど転がり込んできた男達が叫ぶ。

妖はその種類にもよるが、大の男でも逃げねばならぬ相手だ。



男達から見えるのは妖とそれに対峙する二人の娘

一人が杖を使い攻撃をかわし、もう一人はなんと鈴を手に舞っている。


「・・・何をしてんだ?」と森から逃げて来た男の一人が言う。


「踊りか?」

殺意を向けた者が目前にいるのに、鈴を手に踊っている娘。


男達は目の前の事態に戸惑っていた。



妖の哄笑、激突音、鈴の音でこの場は喧噪に溢れている。

ついでに逃げて来た動悸や乱れた呼吸などで細かな事には気も回らない。


が、不意の風が男たちにさやぎ、声が響いた。


「こ・妖わ、私タチがアテ・しま・・・あ・た方はアゼンなコに居てくだだだだ」

と耳元で囁くような 声が、雑音交じりで聞こえた。


「え、なんだ?」

「聞こえたか?」

「お、おう風がしゃべってんぞ」

「どうなってんだ・・・」

聞こえるわけのない声が聞こえて戸惑う男たち


「こりゃあれだ、巫女さんじゃねぇか」

「スワの巫女さんもなんか変な事やんべぇ」

「じゃなんだ、あの戦ってる娘か?俺ら助かんのか?」

戸惑いは治まっていないが、状況を考える冷静さを取り戻しつつある。


「あ・牛のトコがい・で・」とまた風が囁く。


見ると、娘たちが引いてきたと思われる荷を背負った牛がいる

なんとこの騒動で怯えるでもなく道端の草を食っている

「・・・胆の座った牛だな」


見ていると念を押すように風が囁く

「あで、話を・キカせてもらラらス」

風に声を乗せる吹の術だが、音はキレイではない。


息も落ち着いてきた男たちも腹を据えたような目で妖と娘たちを見る。

「・・・助かったのか?・・・」

男たちは風の声に従うことにした。



男たちが牛の方に移動する様子を確認すると、吹の意識はいよいよ妖に集中する。



妖は男たちを追ってきたのだろう、だが街道に出たところでこの娘たちと遭遇し、その吹とお香に向かう。


敵と判断したようだ。



手にある童子の顔を武器として攻撃してくる

威力は凄まじく、細い木ならば一撃で粉砕されるが、それを受けるお香の杖はなぜか折れない。


背後で舞う吹

ちょうどお香を軸に回っている感じだ。


お香が防ぎ、吹が舞う。

吹は舞い、鈴を鳴らす。


「ありゃ巫女さんの舞のようだな」

牛の傍からのぞく男が呟く、そこから見える吹が吹が鈴を鳴らしながらくるりと回った時。


「踊ってる娘もあれだが、杖でバケモンの相手してるのもてえしたもんだな・・・」

一目散に逃げて来た自分達と違い、相対している娘たちに素直に感心している。


「バケモン慣れしてるんじゃねぇか」

男たちがすっかり野次馬と化した頃、樹々の間から一陣の風が吹に向かった。


「お香さん整いました」少し息を切らせながら吹が告げる。

「やって」妖をいなしながら答えるお香。

「ハイ!」掛け声とともに足元に鈴を投げる。


両手の鈴は吹の肩幅より少し広めの地面に刺さる。

手から離れても鈴の音を絶えない、風が鈴を鳴らしているのだ。


風の中、吹は鳥が翼を広げるよう姿で立つ。

風の動きが恣意的に妖の周囲を囲んでいるようだ。


気のせいか妖の動きが鈍い。



お香の杖が風を追うように勢いを増す。

風が吹とお香と妖を囲むように吹き、妖の動きを抑える。


吹はいつの間にか木の枝を持っている、舞のさなかに手折ったものだ。

風と共に舞う吹は、そのまま枝を風に乗せるように妖の方に投げた。



俊敏な動きを見せていた妖だが、枝は鋭く妖の胸に刺さる。

風の音に混じり妖の悲鳴が奇異に響いた刹那、お香は杖の石突きで激しく打つ。



崩れ落ちる妖、両手の童子顔はまだ猛り叫ぶ声も少し弱い。

しかしそれもお香の杖の石突が粉砕する。



「おおおぉ」と牛の傍で見ていた男達も妖が倒されたのをみて思わず声を上げた。


倒れた妖、荷牛とそこにいる男達、道祖神、街道と周囲の樹々と吹は無表情で周囲を確認している。

他に妖気や穢れの気配が有るのか、無いのか。


無いと判断したのか、吹が地面に刺した鈴を拾い、舞が終わるように静に鳴らすと風も勢いも弱まる。

しかしこの場にはある種の緊張が残っている。



一つは当然、戦いの直後であり、妖の遺骸もある。

もう一つは吹たちに助けられた男達、命が助かり一安心という風情ではない、なにか獲物を見つけた獣のような雰囲気がある。



「あ、あんた方、妖より強えのか」と荷牛の所から男達が寄って来た。


お香は男たちに不愛想な視線を与える。



「人にも獣にも色々いるように」いつの間に拾ったのか、森の草木を沢山抱えた吹が割って入る



「妖も色々いて、弱いのは相手にできるけど強いのには勝てないわ。」

拾ってきた木の葉を先ほど倒した妖にかける。


木ノ葉や草で妖の体が見えなくなるまで覆う、結構大変だ。



「俺たちの話を・・・」と男たちが言いかけたが

吹は自分の口元を人差し指で抑え、沈黙を要求する。


「手伝って」と妖を覆うのも手伝わせた。



すっかり気を飲まれている男たちは従うしかなった。

鈴を取り出し、木の葉をかぶせられた妖の周りを鈴をシャラシャラと鳴らしながら回る

「シナノの妖ならばシナノの草木で眠るのが良いでしょう」


頭の位置で止まり、鈴を長めに鳴らすと妖の姿が変わった。

長大で異様なな体躯であったが、草木の下にあるのは不自然さのない老婆の(むくろ)だ。


「・・・どいうこった?」

様子を見ていた逃げて来た男達の弥助が呟く。


(けが)れを祓ったの」と吹、何か物憂げな表情だ。



妖は色々ある。

生まれついての妖も居るが、未練を残して死に、穢れに憑かれた者が彷徨い変化するモノもいる。


「後でちゃんとお弔いしないとね」と吹



後片付けを一段落させ、男達に事情を聞こうと思った吹に香が声をかける

「吹、お腹が空いた」


軽く硬直する吹に対し、男たちが勢いよく声をかける。

「手持ちあるんで、ぜひ食って下さい!」


夏の日差しはまだ昼前という所だろう、樹々の向こうから聞こえる川のせせらぎに、キビタキの声が戻ってきた。


**** 余談 ****

キビタキ

スズメ目ヒタキ科ヒタキ亜科に分類される鳥類の一種。

日本では夏鳥として全国の山間部で基亜種のキビタキが普通に見られる。

「ピッコロロ、ピッコロロ」と美しい声で鳴く。

**** 余談 ****

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