【通力 四:決着】
信じられないモノが目前に現れる、それは今日沢山見たが、今も目前というか信じられない状況に吹と水弥はいた。
もの凄くゆっくりと舞台が壊れ、水柱と共にまだ上昇している吹と水弥。壊れた舞台の先にというか下にいるのはハチメンである。
見える景色と同様に思考もゆっくりとなっているがさらに上から声が響いた。
「吹、水弥!風と水を呼べ」と声がする、天狗、カヤだ。
竜巻だ、竜巻に巻き込まれて空を飛んでいると認識した吹。
そして響いて来たカヤの声、そう、出来る事などそれしかない。
「水弥!」と叫んだ吹だが、聞こえたのかどうか。
水弥ももこちらを見て口を短く動かした、多分”はい”と言っている、意思は伝わっている、と、思う。
足元などもうない、多分傍から見ると空でもがいているだけにしか見えないだろう。
吹き荒れる暴風と打ち付ける雨粒の中、出来る事はもう舞うしかない。
それでも鈴を鳴らし、風を呼びこむ吹。
呼応するように祓いの風が巻き起こり、渦を巻いて吹と水弥をさらに上空へ押し上げた。
「考えられない風だろう、衆の囃しがこれほどの通力を呼んでいたのだ」カヤは天狗の翼を広げ、空を飛んでいる。
天狗の力は凄いなぁ、やはり飛べたんだ・・・と吹は感心する。
「強い力を呼んでいたのに、お前たちの不器用さは見ておられなかった」カヤは上昇する風の中、むしろ吹と水弥を抑えるように上に陣取り声を伝える。
「あの水柱は母様の仕業、空でお前たちを受けたのは私、そしてな、ハチメンを転ばしたのはスワの主殿だ」とカヤは笑っている・・・天狗の面でよく見えないが。
この暴風で何故声が届くのだろう、多分あいつらの桁外れの通力なんだろうなぁ・・・と吹は思う。
「だが強い風を呼んだのは吹、そして水弥は今スワの水と空の水を呼び込んでいる」
「何が起こるんだ?」と笑いを含んだ言葉を残してカヤは遠のいた。
吹と水弥はまだ上昇している
鈴を鳴らしつつ両手を広げ体をねじり舞を舞う、足元が無いとこうも不自由な物かと思う。
水弥も一緒だろう右手に大ぶりな榊の枝、左手に大幣
もう音も聞こえない、風も感じない、面前にる水弥しか見えない、水弥も吹しか見えない。
思考が追いつかず状況を理解できないが漠然と見当違いな事を感じ「空って上に上がると暗くなるのか」と呟いた
その時と上昇が止まっているのを理解した。
もう落ちるしかないだろう。
地上、、つい先ほどハチメンが転倒して吹きあがった巨大水柱は八重も見ていた。
風と水で竜巻が起こり、その中に吹と水弥がいる
一陣、処ではない風が山々から吹下ろされ、社や館を通り抜け、お水の所で渦を巻き上昇する。
ハチメンと言う怪異が荒玉の神のように顕現している。
暴風の中にいる荒ぶる神という
だが八重ものんびり観戦とはいかない、そんな状況ではない。
社の者たちに町衆郷衆の救助と収容、怪我人の手当、しかし目前のハチメンがいる。
八重には判る、この吹き込む風は祓いの風だ、穢れのハチメンにはつらかろう。
しかしこの数百年の穢れは耐えているし動いている。
この吹き込む風をどうにかして奴を倒せないものか。
救助、手当、攻撃、穢れ、祓い、館、社、必要な事が交錯し全くもってまとまらない八重はハチメンと風を睨んで自失状態であったが、社の者や町衆、館の指示を待つ声のおかげで意識を保てた。
「大丈夫じゃ、お前たちはよくやっておる面前の敵は吹と水弥に任せておけ」と声が聞こえた
「ミツハ」八重は声の主は判った。
だが声の主は居ない、上昇気流に乗ってスワのお水も吹き上げられ、そして地域一帯に雨のように降り注いでいるが、その雨からミツハの声が聞こえた。
「解りました、出来る事をやりましょう」と八重は何度目かの腹を据えた。
ハチメンの動きは間違いなく鈍い、それはこの風のせいだろう、そしてこの風は上空で雲となり稲光も呼んでいた。
風に翻弄され、雨も豪雨という勢いで吹と水弥を叩きつけていた、通力を練ってはいたがもう潮だ。
手が届くほどに接近した時、水弥は吹に抱き着いた。
「風も随分優しくぶつけて来たわね」と吹は鈴を捨て水弥の頭を撫でた。
水弥は笑顔を吹に向けた、怖くないわけがないが、この娘も覚悟は決まっているようだ。
「死なばもろとも!で良い!?」吹はすぐそばにいる水弥に叫ぶように語る
「はい!」水弥も同じくもはや絶叫だ強風と豪雨で会話もままならない。
「この刀はね!私の夫なの!」と叫んで吹は佩いていた太刀を抜いた。
「なんですか!」今回は聞こえなかったらしい。
稲光と雷鳴が同時に起こる
吹は水弥に何かを語り、水弥は吹に抱き着いたまま笑った。
吹は刀を手に下、ハチメンの方を見る、水弥はその吹に強く抱き着く。
刀を手に水弥を両腕で抑え、強風の中制御できない体を制御して落下の方向を決めた。
数度の稲妻が鳴り響くなか、吹と水弥は落下した。
地上では八重が負傷者の保護優先に指揮を執っていた。
ハチメンは風に煽られ、鈍くもがく様に歩いている。
館の武者たちが長弓を引きハチメンに矢を放つ、これもハチメンの動きを鈍化させていそうだ。
稲光はスワの町にも鳴り響いていた。
光と音がほぼ同時に鳴り響き、平時なら家屋に隠れ布団をかぶって恐怖するような轟音だが八重が見渡す限り周囲の人々は空とハチメンを凝視していた。
館の武者も矢を放つ手を止め、炊き出しや負傷者保護をしていた者たちも気が付くと稲光に魅入られていた。
そのうち、どこからともなく地響きのような唸り声が聞こえて来て、それがハチメンのモノと知れた時、ハチメンからほのかに霧が湧いて来た。
穢れの霧だ。
ハチメンを凝視していた町衆はこの時、風がやんでいることに気が付いた。
地響きが巨大な狼の遠吠えのような声になり雷鳴に負けないような声でハチメンから空に向かって放たれ始めた。
お香は八重の傍にいたが、何を感じたのかお水に、ハチメンに向かって駆け出した。
瞬間、特大の稲光がハチメンに、墜ちた。
不思議な雷と言って良いのか、背の高い構造物なのだから当然と考えていいのか。
ともかくも穢れの塊であるハチメンが一撃で”粉砕”された。
ハチメンの体が、付喪と死霊の集合体がばらばらとスワの町に降り注ぐのと同時に雷の中心、ちょうどハチメンの真上から青空がひろがった。
「清めの、祓いの、雷」と八重
ハチメンが討たれて喜ぶべき所だが、八重が感じているのハチメンとはまた違う恐れと畏敬の念だった。
これは神代の出来事ではあるまいか。
お香は付喪が落下するお水のほとりに立ち空を見ていた、落下物が多いが何かを探しているのは明白であり、それが何かは明確だ。
「吹!」
見つけた、このままなら水面に落下するであろう位置に人間二人の影があった。
お香が水に入った時、またもスワの水面が盛り上がった。
「主様!」八重はいち早く気が付いた。
スワのお水の主様とされる巨大鯰である。
お水の主様はそのまま吹と水弥を迎えに行くように飛び上がり落ちて来る吹と水弥の落下速度を落とした。
そしてそのままお水に落とされた。
お香がそのまま泳いで吹と水弥の元に行き、程なく町衆も船で救助に行った。
吹と水弥は気を失っていたが、命は別状なかった。無傷とはいかないが。
災厄と奇跡を目撃した町衆と郷衆、館の者、当然社の者たちも生きて帰った奇跡の主役たちを大歓声で迎えた。
無事な者など一人もいないが、皆命一つを喜んだ。
吹の刀はお香が探し、回収した。
付喪だったガラクタが山の様に落ちているが、ハチメンが立っていた場所にそのまま刺さっていた。
お香が刀を拾った時、晴れ上がった空の青と周囲の山々の緑、白い積雷雲もそそり立ち夏の日刺しに彩りを加えていた。
**** 余談 ****
稲妻
大和言葉のいなづまの語源は、稲が開花し結実する旧暦の夏から秋のはじめにかけて雨に伴い雷がよく発生し、
稲穂は雷に感光することで実る、という信仰が生まれ、雷を稲と関連付けて稲のつまと解し、稲妻などと呼ぶようになったといわれている。
日本書紀には「雷電」と記された史記があり、奈良時代より雷と稲との縁が窺い知れる。
大和言葉「かみなり」の語源は、昔、雷は神が鳴らすもの、と信じられていて「神鳴り」と呼ばれたため。
**** 余談 ****




