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グルシア王国の人々  作者: フォッツ
世界に絶望する作家 ホージン
5/7

世界に絶望する作家 その1

 街は賑やかだ。だけど、路地の中は相変わらず湿った空気が流れている。

 街の明かりも、太陽の光も届かぬこの路地で生活している人たちが存在する。

 行き場もなく、ただそこに理由もなく居続ける野宿者がいる。

 そこには、一人の男が座り込んでいた。

 細身のある体に、ぼろぼろの服を着ている。虚ろな目でずっと、地面を見ていた。

 名をホージンという。

 この世界が美しいことを知っているのに、ホージンが今見ている世界は汚れていた。

 

 △△


 ホージンは作家だ。

 世界を歩き、たくさんの景色を見てきた。それを、本にしている。

 景色の絵を描き、その場所がどんなところなのかを、自分の感想を入れつつ、説明する本を出している。

 その本は『美しい世界の見方』というタイトルで、世界の美しい景色を題材に書いた本だ。中には、一日中夜が続く国の景色だったり、黄金の麦畑が広がる景色だったり、空に浮いている国の景色だったりと、本当にたくさんの景色がその本には載っていた。

 これが、どうやら、大人はもちろん、子供の中でも人気な本になった。

 まだ、世界の一部しか知らない子供だからこそ、この本に惹かれたのだろう。

 子供たちは目を輝かせて、その本を捲る。

 ホージンも旅をしてる時は、子供たちと同じような気持ちで旅をしていた。

 世界は綺麗で美しい、そんな世界でホージンは今、絶望した。


「はあ……」


 深く、重いため息が自然と出た。

 

「なんで、私は生きているのだろう……今、あの子は何をしてるのかな?」


 △△


 ホージンは旅をやめて、グルシア王国で一人の女性と結婚した。

 出逢いは、たまたまだった。

 街の中にある、とある酒場が出会いだった。

 その日の酒場は、たくさんの人がいて込み合っていたから、相席をすることになった。

 そこにいたのが、ホージンの結婚相手だった。

 ホージンが席に座る前に女はすでに酔っていた。机の上でぐったりとしている。

 綺麗な長い金髪の髪と緑の瞳が特徴的な女だった。


「大丈夫ですか?」

「う、痛い……頭が……」

「すいません! この女性に水を!」


 そうやって、声を上げると酒場の店員はすぐにコップ一杯の水を持ってきた。

 店員から水を受け取り、コップの縁を女の口に近づける。


「飲んでください」

「う……」


 コップを受け取り、ゆっくりと喉に流していく。コップの水がなくなった頃には、女は話しを聞いて、返せるぐらいにはなっていた。


「どうして、こんなに一人で飲んでたんですか?」

「そ、それは……嫌なことを忘れたくて」

「どんな、嫌なことを?」

「……」

「言いたくないなら、無理に言わなくて大丈夫です」

「……男がらみです」

「なるほど……とても、美しいのにその男は見る目がないですね」

「そうゆうことじゃ、なくて」


 女が何に悩んでいるのか、ホージンは全くその時はわからなかった。

 ホージンは女の体に痣があることに気づく。


「どうしたんですかこれ」

「そ、それは……その男に……」


 女はそれ以上、言わなかった。

 その夜の帰り道、ホージンは女を背負って、宿へと送った。

 背中で女は、涙を流しながらずっと「自由になりたい」と呟いた。

 

△△


 宿の食堂で、朝食をとっていると長い金髪の髪を縛り女が遅れて、ホージンがいる席に腰をかける。

 ホージンは、山菜スープを飲みながら、柔らかいパンを食べた。

 

「あなたが、昨日ここまで連れてきてくれたの?」

「大変でしたけど、何とか」

「ありがとうございます。なんとお礼したらいいか」

「別に、いいんですよ」

「でも……」

「なら、名前を教えてください。私はこうゆう出会いを大切にしたいんです」


 ホージンは、世界を回っているからこそ、人と出会っても短い関係で終わってしまう。だからこそ、名前だけでも憶えて、大切に記憶しておきたいのだ。


「なら、私の名はフィスです」

「僕の名前はホージン。世界を旅してるんだ」

「そうなんですね! 私、その話し聞きたいです!」

「でも、長いですよ?」

「いいです。私、ずっと聞いてられると思います」

「そうですか。わかりました。それでは……」

「ちょっと待ってください。私、良い所知ってるのでそこで話しませんか?」


 朝食を終えて、二人は宿を後にする。

 雲一つない空は青一色だ。

 フィスに連れられて、来た場所は、女神の噴水だった。

 

「景色が綺麗ですね」

「そうでしょ。ここに来ると、嫌なことも全部忘れられるんです」


 金髪の髪を靡かせて、フィスは口角を上げて、景色を見渡した。

 ホージンはフィスのその姿が美しいと思えた。

 

「それでは、この景色を絵にしながら話しましょうか」

「絵も描けるんですね」

「後で、宿に置いてきた世界の絵を見せましょうか?」

「お願いします」


 フィスは、また笑顔に笑う。昨日の暗い表情が嘘みたいだった。

 絵を描くための厚紙と絵具を取り出し、書き始めると同時にホージンは今までの旅の記憶を話し始めた。


△△


 ホージンが見てきた景色は、フィスにとっては、ありえないものもあれば、想像するだけで綺麗と思うものもある。

 長い時間、話しているのにフィスはずっとホージンの横で楽しく話しを聞いている。

 そんな、フィスの姿にホージンはだんだんと惹かれていった。

 話していて、ホージンも楽しいのだ。

 日が傾き、空の色が変わり始めた。


「今日は一旦、宿に戻りません?」

「私は、まだ、話しを聞いていられますよ」

「明日もここで、話しをします。まだまだ話は長いのでね」

「なら、一旦戻りましょうか」


 二人はゆっくりと歩きながら、話しをして、宿に戻った。

 その日から、毎日、女神の噴水でホージンは旅の話しをした。

 一日中、夜が続く国の話し、空を浮かぶ国の話し、黄金畑に囲まれた村の話し、それ以外にも、たくさんの人に出会い、別れた、旅の話しを長々とフィスにした。

 そして、ホージンの長い話は、一月が経つ頃には終わりを迎えていた。


「――――こんな感じで今に至るのです」

「終わりですか?」

「そうですね」

「寂しくなりますね……」


 長い長い旅の話しが終わるということは、そうゆうことなのだ。

 フィスの表情が、沈むように暗くなる。

 

「大丈夫ですよ」


 ホージンはフィスの背中にそっと手を置く。

 フィスは知らない。なんで、ホージンが一月もずっとこの国にいるのかを。

 ホージンは、一つの国に滞在する日は決まって五日間だ。

 だけど、今回は一月も同じ国に滞在している。

 その理由は、ホージンの足にある。

 たくさんの場所を歩いて、旅したホージンの足には痛みがあった。一歩進むだけで足が悲鳴を上げる。

 最初は、一日、二日休めばすぐ直った。だけど、だんだんと足の痛みが消える時間が長くなった。回復魔法も試したが治らない。この国の医者に定期的に通っても、治ることはない。

 そして、ホージンは決めたのだ。この国で旅を終了することを。 

 ホージンはフィスに、すべてを伝えた。


「そ、そうなんですか?」

「僕も、もう年だしね」

「いいんですか? 旅をやめてしまって」

「いいさ、旅はいつか終わるものだと思ってたから、それが今なんだなって……」

「そうですか……」


 ホージンは立ち上がり、笑顔で言う。


「これから、本でも書こうかな、僕が旅をした冒険譚てきな。あはは」

「いいですねそれ、うふふ」

 

 フィスも、楽しそうに笑うホージンにつられて、笑みがこぼれる。

 そして、ホージンはフィスに手を差し出して、一言だけ言う。


「好きです」

「私も同じです」


 フィスはホージンの大きな手に手を置いた。

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