恋する少年 その3
雑踏の多いい道を、ゆっくり進んでいく。
ハルトはシャルの手を握って、迷わないように先を歩く。
たくさんの人の声がする中で、鳴き声が聞こえてくる。
シャルは、その鳴き声のする場所を探す。
街の光が届かない、建物の間からするのがわかった。
「ねえ、ちょっと来て」
「え、あ……」
ハルトは何も答えられないまま、シャルに引かれる。
薄暗い、路地の方に進むと、まだ幼い少女が泣いて、座り込んでいた。
すぐに、シャルは少女のもとに近寄る。
よく見ると、膝に擦り傷のような跡がある。どこかで、転んだのだろうか。
「どうしたの? 大丈夫?」
シャルは優しく声をかけながら、少女の足のけがを治すために魔法をかける。
そんな姿をハルトは後ろから見て、思う。
ハルトがシャルを好きになった理由は一目惚れだ。だけど、関わっているうちに、シャルの真面目なところが好きになった。優しいところが好きになった。無邪気で可愛いところが好きになった。ハルトは気づいたら、シャルの色んなところを好きになっていた。
膝のけががシャルの魔法によって治る。しばらくして、少女は落ち着くとゆっくりと言葉を話す。
「わたし、まいごになちゃって、こわくて……」
「そっか、なら、私たちが一緒に親探してあげるよ」
「ほんとうに!」
「うん、任せて、すぐに見つけちゃうんだから!」
シャルは自分の力で立ち上がり、シャルの手を握る。
ハルトは少女に聞こえないように、シャルに呟く。
「親どこにいるかわからないけど、どうやって探す?」
「う~ん、確かに、どうしよう」
すぐに見つかるはずがない。幸い、まだ日が暮れてないから、見つかる可能性は高いがそれでも、この人々の中から探すのは大変だ。
「あ!」
「どうしたの?」
「いいこと思いついた!」
ハルトはそう言って、すぐに少女に近づく。
「名前はなんて言うの?」
「わ、私、シャーロット」
「そうか、シャーロット高いところは好きか?」
「うん! すき!」
「そうかそうか、なら行くぞ!」
ハルトは少女の小柄な体を持ち上げて、肩に乗せる。
「うわーたかいたかい!」
少女は手を叩いて喜ぶ。
「それじゃ、シャーロットの親を探すぞ!」
「おー!」
ハルトとシャーロットかけ声を合わせた。シャルはその姿を後ろから見て、微笑んだ。
△
「シャーロットちゃんの親はいませんかー!」
「いませんかー!」
「お母さん! お父さん!」
街に光が灯り始めている。そろそろ空が暗くなり、花火が始まってしまう。そうなると、この声が花火の音で聞こえなくなってしまう。その前に何とか、親を見つけなくてはならない。
たくさんの人が、ハルトたちの方に視線を向けるが、その中にシャーロットの親がいないのはすぐにわかる。
人の中をかき分けて、急いで進む。
ハルト達は、街の中心で足を止める。
「ここなら、人が行き来するから見つかるかもしれないな」
グルシア王国の中心には、大きな鈴がある、
これは、過去に起っていた戦争に行く人々を見送るためのものであり、帰ってきた時の祝福の鐘でもある。今ではもう、鳴らすことはない。それほど、この国は平和なのだ。
ハルト達は、変わらず声を出し続ける。
だけど、シャーロットの親は見つからない。
「どうしよう。このままじゃ、見つからないよ」
「仕方ない。この手は使いたくなかったけど、使おう」
シャルはそう言って、手を上にあげる。目を閉じて、すぐに開く。
「シャーロットちゃんの親はいませんか!」
シャルは叫ぶ。その時、手から空に向かって、長く伸びる噴水のように、火花が飛び散る。
ハルトは、目を見開いた。
街の人が一斉に、シャルの方に視線が向いた。
魔力を失い。火花は、空中ですぐに消滅する。
すると、人々の中から、一つの声が上がる。
「シャーロット!」
その、声は何度も響き、ハルト達の前に現れる。
鼻にちょび髭を生やし、きっちりとした黒い服を着た中年の男だ。
「シャーロット様、やっと見つけました」
男の肩を上下にしてる姿を見ると、必死に探していたのがわかる。
「あ! じーだ!」
嬉しそうに、その男に指さすシャーロット。
「あなたが、この子の親ですか?」
「わたくしは、シャーロット様の親ではなく担当執事です」
その言葉を聞いて、シャーロットが貴族ということに気づく、シャルとハルト。
「良かったな、シャーロット、ちゃんと見つかって」
「うん!」
ハルトの頭の上で、シャーロットは嬉しそうに頷く。
「本当にありがとうございます」
「私たち、普通のことをしただけですから」
「そう、そう次から気をつけろよシャーロット」
「うん! わかった!」
何度も何度も頭を下げる執事に、ハルトとシャルは対応に困る。
ハルトはシャーロットを下ろして、執事に渡す。
「それじゃ、行きますよ。次は迷子にならないでくださいね」
「うん! 赤髪のお兄ちゃんと美人のお姉さんありがとう!」
大きく手を振るシャーロットに、手を振り返して二人は見送った。
△
「はあ、良かった。見つかって」
ハルトは安心とため息が出た。隣のシャルも同じ思いだった。
「で、どうする?」
「そうだな、花火見よう。まだ、間に合うから行こう!」
そう言って、ハルトはシャルの小さな手を握る。
シャルが握り返したのを感じて、ハルトは走った。
太陽の日が沈んだら、花火が上がる合図だ。それに、何とかハルトは間に合いたかった。
太陽は、建物の間から人を照らす。
「急ぐから、さっきみたいにしていい?」
「いいけど、どうやって……え!?」
シャルはハルトに突然、持ち上げられて、驚きの声を上げる。
肩ではなく、お姫様抱っこのようにシャルを持ち上げた。
「絶対、間に合って見せる」
「う、うん……」
人の間を縫うように走り抜け、薄暗い路地を走り抜け、階段を駆け上がった。
真剣な表情で走るハルトの顔をシャルは頬を赤くして、じっと見つめた。それに、ハルトは気づかない。
△
そして、花火が上がる前に女神の噴水にたどり着いた。
ハルトはその場で座り込み、シャルは女神の噴水から見える景色を見渡した。
「わー! 綺麗! ハルトも見なよ!」
「はあ……はあ……わ、わかったよ」
シャルに呼ばれて、ゆっくり立ち上がるハルト。
街の全体に黄色の光が輝き、まるで星を眺めているような感じがした。
空を見上げれば、月と星が見える。
「綺麗だな……」
口をつくように自然と出た。
隣に視線をちらりと見る。身を乗り出して、景色を見るシャルがいる。
ドキッと、心臓が弾ける。
ハルトは、深呼吸をしてシャルの方に体を向ける。
「しゃ、シャル、話しがあるんだ」
「な、なに……?」
太陽の光が、弱くなっていく。
「お、俺……シャルのことが好きだ!」
日が完全に沈んだ。空に向かって一直線に白い煙が飛ぶ。
「だ、だから付き合ってください!」
「……」
その時、パンと乾いた音が国全体に鳴り響き、空に花が咲いた。
シャルの答えは、花火の音に搔き消された。だけど、ハルトの耳にはしっかり届いた。
二人は、打ち上がっている花火を見上げている。
ハルトは胸を撫でるような気持で、シャルの魔法と同じくらい綺麗な花火を見上げた。
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