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グルシア王国の人々  作者: フォッツ
一人目 恋する少年 ハルト
3/7

恋する少年 その2

 普段より、街が賑やかだ。

 たくさんの人が行きかう中、ハルトはギルドの前でシャルと待ち合わせた。普段通り、何も変わらぬ服装で。


「ちょっと早くきすぎたか」

 

 しばらく、賑やかな街をハルトは眺めていた。シャルと今日は祭りを楽しむ、ただそれだけで、ハルトはわくわくするように楽しみだった。

 ふと、ハルトの頭の中に初めて、この国にやってきたことを思い出す。

 

「初めて、ここに来た時の街もこんな風に見えたな……懐かしい」


 過去を思いだし、微笑む。

 一年前に最強の冒険者になると決めて、初めてこの国にやってきたハルトも今と同じようにわくわくとしていた。

 今では見慣れた街の賑やかさも、初めて見た時は、ハルトの目には、祭りのように賑やかで楽しそうに見えた。

 ハルトは自分でもそう思うくらいに、初めて、冒険者ギルドに来た時は生意気だった。

 その時のハルトは、一人でダンジョンを攻略できると思っていた。一人で強大な力を持つ魔物に勝利できると思っていた。だから、色んなパーティーに誘われても、断り続けた。自分は一人で戦えるとハルトは思っていた。

 だけど、初めて死にかけて気づいた。一人の人間に持てる力は限りがある。だから、仲間が必要なんだと。

 ここで、死ぬんだと悟った。ハルトは諦めていた。そんな時、ハルトの目の前に天使が舞い降りた。

 ぼやける視界の中、ハルトは確かに見た。綺麗な炎が魔物に向かって、火花を散らして、飛んでいくのを。ハルトは初めてその時に、恋に落ちた。

 

「あはは、俺ってちょろいな」

 

 こんなにも、間抜けな自分を思い出し、自然と笑いがこみ上げた。


「ハルトー!」

 

 雑踏の中から自分を呼ぶ声がした。視線を向けるとそこには、シャルがいた。

 ハルトは、シャルを見てドキッと心臓の鼓動がなる。

 普段とは違う服装のシャルが、ハルトには新鮮に思えた。

 白い服に青いスカートを穿いたシンプルな格好だが、ハルトはこれも良いと頷いた。


「待った?」

「い、いや、全然待ってないよ」

「そっか、ならさっそく行こう!」


 シャルに手を引かれ、デートが始まった。


 

「うーん! うまい!」

 

 頬を抑えて、シャルはクレープを頬張る。

 この国の周辺で採れる果実を白いクリームと一緒に、鉄板の上で焼いた薄い生地に巻いたスイーツだ。緑の果実、赤の果実、青の果実と色とりどりだ。

 

「ハルトのも、美味しい?」

「これ、めっちゃうまいよ!」

 

 ハルトが食べているのは、シャルと種類が違い。チョコのクリームが使われている物だ。

 

「私にも分けて」


 そう言って、シャルは小さな口を大きく開く。

 ハルトの心臓がバクバクと鼓動した。


「え、あ、へ……」

「ほら、早く」

 

 ハルトは、ゆっくりクレープを前に出した。すると、シャルがぱくりと一口食べる。


「美味しい!」

 

 満面の笑みで、そう言うシャルに、ハルトは顔を真っ赤にする。

 

「どうしたの?」

「い、いや、なんでもないよ」


 そう言って、恐る恐るシャルが食べた部分に口をつけて、食べた。


「お、美味しいね」

「でしょ!」

「そろそろ、次行こうか」

「うん!」


 △


 人の流れが、街の中央に向かっている。そこを、ハルトとシャルは逆らいながら進む。なぜなら、この道を抜けた先にハルトが決めた目的地が一つあるからだ。人の流れの間をどんどん、進んでいく。

 気づいたら、ハルトはシャルの手を迷わないように強く握っていた。無意識に。

 

「ハルト、本当にこの道の先にあるの?」

「うん、あるんだけど、人が多すぎて」

「私は、別に他の所でもいいけど」

「絶対、シャルが喜ぶと思うんだ。だから、任せて」

「うん。わかった……」

 

 シャルの握る手が、強くなったような気がしたハルト。

 その時、ハルトは顔を思いっきりぶつける。どうやら、人にぶつかったらしい。

 

「ごめんなさ……」


 そう言葉を出そうとすると、喉に詰まる。ハルトが顔を上げると、そこには全身黒服の男がいた。髪の隙間から、見える突き刺すような視線にハルトは、怖気付き、言葉が詰まったのだ。


「だいじょ――――」

「ごめんなさーい!」


 黒服の男は口を開き、何かを言いかけた時、ハルトは情けなく全力でシャルを連れて、走った。

 後ろのシャルも少し、震えていた。



 走った勢いで、ハルトが目的地にしていた魔法道具の店にやってきた。

 なぜここを、目的地にしたかといえば、シャルは魔道具が好きだからである。

 今日は祭りで、この店に置いてある魔法道具は安くなっている。だから、シャルに一つだけ買ってプレゼントしようという、ハルトの考えだ。

 ハルトとシャルは肩を上下しながら、店の前に立つ。


「はあはあ、こ、ここだよ」

「はあはあ、こ、ここって魔法道具店?」

「そうだよ。今日はシャルに一つ買ってあげるよ」

「ほ、本当!!」


 疲れを忘れたように、喜ぶシャルの姿を見て、ハルトは安堵する。

 

「なら、早く中に入ろ!」


 手を握ったまま、シャルに引っ張られて、店の中に入る。

 ちりんと鈴の音が鳴った。中には、たくさんの魔法道具がコレクションのように並んでいる。

 それを見て、シャルは歓喜の声を上げる。


「うわー! いっぱいある! どれにしようかな」

 

 ずっと、握られていたシャルの手がほどける。その時に、ハルトは気づく。


「いつから、俺はシャルの手を握っていたんだ……」

 

 頭の中で、今までのことを遡るように思い出す。

 

「ハルト! こっち来て!」

 

 シャルに呼ばれて、思考を止める。


「お、おう」

「これ、綺麗だよね」

 

 シャルが指さす、物は髪飾りのような、形をしていて、綺麗に窓から入る光を反射していた。


「そうだな」


 目を輝かせるシャルの横顔を見るハルトは、ドキッとまた心臓が弾けた。

みた

「あのー!」

 

 シャルはこの綺麗な魔法道具が何なのかが気になり、店員を呼ぶ。


「はい、はい」

 

 奥から、優しそうなおばあさんが出てきた。

 

「あの、これってどうゆう魔法道具ですか?」

「これは確か……『太陽の髪飾り』といって、お守りみたいなやつだよ。だから、人気がないんだよねぇ」


 ほとんどの冒険者は、実用的に使える道具にしか、興味がない。だから、お守りと聞いて、これを買う冒険者はいないだろう。


「そうなんですね。ちなみにどうゆうお守りなんですか?」

「それも、わからなくてね」

「そうなんだ。私、これ買います!」


 ハルトは、えっと声を出す。


「本当にこれ買うの? 実用的じゃないよ?」

「こうゆう、謎の魔道具って面白いじゃん、後綺麗だし」


 シャルはそんなことを言うが、ハルトはよくわからない。


「まあ、シャルがそれでいいなら」


 △

 

 ハルトとシャルが店の外に出た。太陽は傾き始めている。

 シャルは髪にさっき買った太陽の髪飾りをもう付けている。

 

「そろそろ、日が落ちる時間かな? 花火ももうすぐってことだよね」

「花火が綺麗に見えるところ知ってるから、そこで見ない?」

「いいよ。そうしよ」


 花火が綺麗に見えるところ、そこがハルトが最後に告白する場所である女神の噴水だ。


「じゃ、行こうか」


 ハルトは、勇気を振り絞り、シャルに手を差し出す。


「うん」


 それにそっとシャルが手を置く。

 女神の噴水を目指して、二人は歩き始めた。

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