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〔コント〕主人がオオアリクイに殺されて一年が過ぎました

作者: M

鶴木:思い込みが激しい想像力の塊。

加賀美:最低限の発言で、いかに鶴木をいじるか模索中。

多摩:ツッコミ役。鶴木や多摩とのやりとりが、なんやなんやで楽しい。



鶴木「なあなあ。昨日、謎のメールが届いたんだが。」


 鶴木が真剣な顔でスマホを取り出した。


加賀美「……ん?」


多摩「どんなメール?」


鶴木「これだ。書き出しは『こんにちは、私は三十歳人妻です。』」


多摩「ただの迷惑メールじゃないか。」


 多摩は興味なさそうに座るが、加賀美が食いついた。


加賀美「これは暗号……」


多摩「え?」


鶴木「やはり、そうか! 怪しいとは思っていたんだ。」


 鶴木はスマホを握りしめて、身を乗り出す。


加賀美「……初めましての時、最初はなんて言う?」


鶴木「俺なら『初めまして、私は鶴木です。』だな。」


多摩「まあ、普通は名乗るよね。」


加賀美「つまり、『三十歳人妻』は名前……」


多摩「え?」


鶴木「やはり、そうだったか。」


多摩「え?」


鶴木「だが、名前にしては変じゃないか。」


多摩「そうだよ。普通そう思うよね。」


加賀美「……これはコードネーム。」


鶴木「確かに、その可能性は否定できないか。」


多摩「否定できないんだ……」


 呆れる多摩。


鶴木「このコードネーム、誰なんだ?」


加賀美「妻も歳も『さい』と読める。」


鶴木「確かにっ!」


加賀美「そして、人は『ひと』。数字の『一』を表す。」


鶴木「そうかっ! となると、これは『三十さい一さい』。」


 鶴木は一瞬停止する。


鶴木「ん? 足して三十一さい?」


多摩「なぜ足した。」


加賀美「三十一は素数。そして二の五乗から一を引いた数……」


鶴木「お、おおおぉ。今度は引くのか。そうか。」


多摩「突然、謎数学が始まったよ。」


 納得する鶴木に呆れ果てる多摩。


加賀美「……五乗だから五月、つまり五月三十一日。」


鶴木「すごい暗号だ。」


多摩「それ、何の日だよ。」


加賀美「『歳』に関係する日……」


鶴木「誕生日だ! 五月三十一日が誕生日の知り合いがいないか調べてみる。」


 鶴木はフレンドの検索を始めた。


多摩「なぁ加賀美。その理論だと三十一は全て五月にならないか?」


加賀美「……シー。いま面白い所なんだから。」


多摩「こらこらこら!」


鶴木「いない……。俺が誕生日を知らない奴かもしれない。」


加賀美「……又は『妻』に関係する日。」


鶴木「となると、五月三十一日が結婚記念日の人!」


多摩「いやいやいや。誕生日より結婚記念日のほうが知らないって、普通。」


 再び鶴木はフレンドを検索する。


鶴木「いた! 先生の結婚記念日が五月三十一日だ。」 


多摩「逆になんで知ってる!?」


加賀美「それだ……」


多摩「お前も、それだ、じゃねえよ。」


鶴木「つまり、『三十歳人妻』は先生ってことか。なんて高度に暗号化された名前なんだ。」


多摩「コードネームだけに高度(こうど)に暗号化ってか。うるさいわ。」


加賀美「面白い……」


 加賀美はニヤリと笑う。


鶴木「っていうか、二行目は? 『いきなりのメール失礼します。お互いにとって良い話だと思って連絡してみました。』と書いてある。」


多摩「やっぱり、迷惑メールじゃん。」


加賀美「いいや。先生のメールとして考えると……」


鶴木「先生が俺に『失礼します』なんて言わない。なら、『いきなりのメール』もメールじゃないってことか。」


加賀美「……メールという英語には『鎧』という意味もある。」


鶴木「なん……だと?」


加賀美「郵便も鎧もM・A・I・L。」


多摩「本当? ……うわ、マジだ。」


 多摩は自分のスマホで調べて驚いた。


加賀美「……暗号っぽいだろ。」


鶴木・多摩「確かに。」


 鶴木と多摩が思わずハモる。


加賀美「……『いきなり』は急ってこと。」


鶴木「そうか、つまり急は『九』! 『いきなりのメール』は九つの鎧ということか。」


加賀美「『失礼』の礼は『零』……」


鶴木「ということは、零を失うということか!」


多摩「は?」


鶴木「まとめると『いきなりのメール失礼します』とは、九つの鎧に零が無いってことだよ!」


多摩「? つまり、どういうことだってばよ?」


 鶴木は再度停止し、落ち着かない視線で加賀美を見る。


多摩「お前。結局、何も分かってないじゃん。」


鶴木「あ、その、すまん。」


加賀美「……源氏八領。」


 加賀美の呟きに鶴木の瞳が再び輝く。


鶴木「源氏八領! 先生の授業で聞いたことがある。清和源氏に代々伝えられていたと言われる八つの鎧だな。」


多摩「今度は謎日本史が始まった。」


鶴木「分かったぞ。源氏八領は本来九つの鎧だったが、零番目の鎧が無くなったから、八つしか伝わっていない。そういうことだな!」


 鶴木の早口に拍車がかかり、加賀美は答えずに笑うだけ。


鶴木「そうに違いない。九つ目の源氏の鎧だとしたら、これはすごい発見だぞ!」


多摩「ごめんな。何を熱弁されているか僕には全く分からないんだが。」


鶴木「間違いなく国宝級のお宝だよ。」


加賀美「……だってさ。」


 加賀美は、嬉しそうな顔をして多摩を見る。


多摩「もう、おちょくるのはやめてやれよ。」


加賀美「……もうちょっと。」


鶴木「なら、『お互いにとって良い話』という所も暗号だな。源氏に関係する……っていうか『お互い』だから、もう一方がいる。だったら平家か。平家のお宝もある!? 源平のどちらにも良い話とは一体なんなんだ?」


 鶴木の手が興奮で震えている。


加賀美「……違う。『とって良い話』だよ。」


鶴木「はっ! そうか。『お互いに奪って良い』とも読めるのか。」


多摩「想像力が逞しすぎる。」


鶴木「『連絡してみました』も分けて考えるべきだな。『連絡』とは繋ぐこと、『みました』は目撃すること。つまり、世代を繋ぎながら監視をしていると言うことかっ!」


多摩「どうしてそうなる。」


 多摩はもうツッコミを諦めた。


鶴木「二行目をまとめると、源氏の鎧には幻の九つ目が存在し、源平で盗りあっていた。それは時代を超えて監視され続けているということか。」


多摩「こんなメールでそこまで読み込めるか、普通?」


加賀美「……実に面白い。」


 加賀美の笑みに、多摩は深い溜息を吐いた。


多摩「もういいだろ。」


加賀美「……そうだね。楽しかった。おしまいにする。」


 加賀美がからかったことを謝ろうとした、その時。


鶴木「じゃあ、次の行の『主人がオオアリクイに殺されて一年が過ぎました。』ってのは何だ?」


多摩・加賀美「え? アリクイ!?」


鶴木「いや、『オオアリクイ』だ。」


多摩「どっちでも良いよ。」


鶴木「良くない。暗号だぞ。」


加賀美「ちょ、ちょっと待って。全文見せて。」


 さすがの加賀美も慌てる。


多摩「え? もしかして本当に暗号文?」


鶴木「ああ。次が『毎日の孤独な夜に身体の火照りが止まらなく……』。」


多摩「なんだ、やっぱりただの迷惑メールじゃんかよぉ!」


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