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『巴蜀戦記』  作者: 昇龍翁
9/18

第9章

【第九章】

 辺り一面の霧が視界を遮る。静かな朝。東の山の端に朝日がゆっくりと登り始めた。

 そこに一陣の風が吹き抜ける。霧が流され朝の光に照らし出されたのは、大地を埋め尽くす程の兵器部隊の大集団。

 その朝、その景色は巴蜀州の三ヶ所で見られることとなる。漢安、徳陽、そして平康。それぞれの城周辺に夥しい数の軍勢が息を殺して時を待っている。


 「暁の大攻勢」の始まりである。


 総勢130に迫る須哩の諸将。彼らは指揮官・瓊の計画に沿って夜の内にそれぞれの戦場へ兵を進めた。

 一番小振りな徳陽へは、指揮官・昇の率いる飛龍軍の七十数騎。

 漢安へは、太崙隊、悦楽隊、矢魔那隊の3隊。

 平康へは、美松隊、憤怒士隊、威怨隊の3隊。


 開戦は辰巳の刻を四半過ぎた時。それぞれの部隊長に伝えられていた。そして、徳陽近くの丘の上の陣で、昇が大太鼓を打ち鳴らす。

 朝の空に響き渡るその大音声を合図に、それぞれの部隊長が、颯の如く駐城部隊を排除する。瞬く間であった。続いて大地を揺るがすほどの地響きをともなって、数十もの兵器部隊が突入する。

 まず、漢安が墜ちた。続いて徳陽、そして平康。多少の時間差はあったものの11分の内に全ての城を支配下に収めた。

 巴蜀、完全制覇。巴蜀への転封の際、目標に掲げていたものの一つは、この時、達成された。


 その頃、軍勢・常滑に所属していた諸将が、須哩への合流を果たした。初期より思いをそろえて活動してきた彼らの合流は、大きな喜びであり、大いに皆を勇気づけた。巴蜀を統括する一大同盟の誕生である。

 一方で、中央は合流した彼らの所領を計上する術を持たず、最優秀勢力の判定には反映されなかった。これを計上していたら、間違いなく全土一位ではあったが、惜しくも判定は全土二位であった。二位に伴う恩賞が須哩の全ての将に届けられた。


「所領を守り発展させることのみに力を傾注した。他勢力を欺いたり打ち殺したりすることなく民の笑顔の為だけに動いた同盟が他にあるだろうか。中央の判定に異を唱えても仕方ない。我ら自身がこのことを認識し、誇りとしよう。」

昇が言葉にする。

「そうね、何よりも私たちの団結力は揺るがない。早朝であってもこれだけの部隊が集まってくれる。勝敗よりも、それが確認できたことが、私は何よりも嬉しい。」

と、惹州公も笑顔になる。

「常滑のご一同の合流は、さらに心強い。荊楚との模擬戦でさらに力をつけ、他州からの侵略を許さない、盤石の巴蜀としましょう。」


 苦労人である青年剣士・羅宗は、中央からの恩賞の額に不満を述べながらも、楽しげに鍛錬を重ねている。杓は、模擬戦準備の進捗に気を配っている。常滑を率いて合流した悟公は、配下に酉陽周辺への幕舎建設などの準備を促している。それぞれが歩みを止めない。立ち止まらない須哩。出来ることをやり続ける。彼らの目は常に未来に向けられている。 


【章末】


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