第7章
【第七章】
荊楚のある勢力から、模擬戦の申し出があった。場所は酉陽の荊楚側。
そこで須哩は、酉陽を手中に収める必要があった。
「成都を取れたんだから、大丈夫だよね。」
「総戦力を考えたら問題ないと思いますが、巴蜀内の発展と直接関係のない模擬戦に消極的な将もいるかもしれません。彼らは、集まらないのでは。」
「そもそも、今期、この巴蜀をしっかりと開拓し支配することが我らの主な方針でしたし。」
「昨日の成都攻略で、巴蜀内に空城はなくなり、すべてしっかりと劉璋様の支配下に入りましたので、後は農耕と思う者もいるかと。」
「でもさ。」
惹州公がいう。
「ここにいる面々は他州の動向を理解していると思う。今は馬騰勢力と劉備勢力が直接対決で関中・江漢で争っているけど、孫権と曹操、袁紹が劉備側についていることを考えると、この大戦はいずれ終わると思う。その後、兵はどこへ向かうかな。」
「うむ。巴蜀への侵攻の可能性を完全に否定することはできませんな。殿の外交手腕により、他州からの恨みや妬みは買ってはおりませんが、人の欲にはキリがない。」
一同はその不穏な未来を想像して頭を抱えた。
「模擬戦を経験し、更に力をつけ、侵略者から巴蜀を守る。その力をつける必要を、諸将にわかってもらわねば。」
「とりあえず、明日、酉陽を落とそう。司令官、諸将に指示を。」
翌日、酉陽の前は兵で埋め尽くされた。昨夜の幹部たちの不安は杞憂であった。これが、須哩なのだ。惹州公をはじめ、幹部たちが皆に良かれと思案を重ね、その上で指示を出していることを皆が信じている。信じるからには、皆、動くのだ。
「殿、州都・成都の攻略に引けを取らぬ集まり具合です。」
「酉陽陥落まで、時はかかりますまい。」
開戦の合図の後、瞬く間に酉陽は落ちた。対岸からの妨害がなかったことも理由の一つであることに間違いはないが、それにしても、須哩一同の流れるような用兵は、またしても見事なものであった。間違いなく、須哩は力を付けてきた。
「さてと。」
惹州公が言う。
「一つの節目が終わった。これからは外敵からこの巴蜀を守る為、皆が更に強くなる必要がある。その意識を共有していこう。模擬戦はそれに向けた貴重な鍛錬の場。」
「勝ち負けで一喜一憂するにとどめず、どうして勝てたのか、どうして負けたのか。どのように改善できるのか。それを皆で考える雰囲気を作り上げていきましょうぞ。」
【章末】