08 昼餉
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戻るとガンが殆ど屋根を完成させていた。
緻密に丁寧に葺かれた屋根は、雨を遮ってくれるだろう。
「わっ、早い! ガンさんお疲れ様! ばっちりだよ」
「お、そうかァ?」
「うん、これなら雨が降っても安心だ」
嬉しそうにするガンを労い、肉とタイルを置けば最後の仕上げだけ少し手伝う。はじめてとは思えない申し分ない出来だ。
「ガンさん本当に、上手だよ。やり方しか教えてないのに」
「そんな褒めんなって。調子乗るだろ」
「っふふ、だって本当の事だからね」
屋根の下、今度は石を積んで簡易の竃を作った。自分とガンで一基ずつ。
しっかりした竃も作りたかったが、時間が掛かるし長期で腰を落ち着ける場所を見つけてから作る事にする。
「ケンさんも少ししたら戻るって」
「おう、どうだった?」
「いやあ、まったく後学にならないって事が分かった。あ、ガンさん竃に火を移して貰っていいかな」
「ブッハハ! オッケー」
ガンが火の支度をしてくれている間に、洞窟から自身の背嚢を持ってくる。旅の道具が一式入った、異世界渡りを唯一共にしたものだ。
小ぶりの鍋が大小ひとつずつ。岩塩の塊と幾つかのハーブやスパイスを入れた小瓶や袋。穀物を砕いて乾燥させた携帯食料、こちらの残りは僅かだ。
「折角だしもう全部使っちゃおう」
「それしか無えんだろ? いいのか?」
「うん、良いんだ。此処は食料も豊富だしね」
二人に礼をしたかった気持ちもあるし、久々に人に振舞うと思うとわくわくした。普段ならけちる所を大盤振る舞いする事にする。
「新入り、火出来た。他にやる事は?」
「ありがとう。じゃあこの鍋両方、お水を汲んできてください」
ガンが水汲みに行っている間に、肉に下味をつける。火の加減を整え、片方の竃に先ほど貰った石タイルを置く。丁度良い大きさだ。
「あっ、二人ともおかえり」
ガンがケンを伴って戻って来る。
「今から作るよ。二人共たくさん働いてくれたし、後はゆっくりしてて」
「おまえも働いてただろ。けど手伝う事無えなら見てる」
「俺も楽しそうなので見ている!」
「わー、ちょっと恥ずかしいやつだこれ! 頑張ります!」
わくわく二人が見守る中、調理を始めた。小さい方は湯を沸かし、大きい方の鍋は雉の骨を入れて出汁を取っていく。
「もっと大きい鍋があれば良かったけど、一人旅だったからなあ」
「新入りは色々持って来てんだなァ、おれ着のみ着で来ちまったよ」
「僕は旅の途中で送られたからな。旅装のまま来られたんだ」
「……は、そうか! そういえば持ち込んだ物があったな。忘れていたぞ!」
「…………ケン?」
「おや……?」
「む、…………何だか怒られそうだから後で発表したい。いや、ガンさんに怒られるのは好きなんだが、折角の美味しい食事なので、怒られるのなら食べた後に別腹で怒られたい……」
「……分かった。じゃあ後で怒るよ」
「怒られるの確定なんだよなあ」
出汁の良い匂いがしてくる。見計らって、熱く焼かれた石タイルの上に雉肉を並べていく。じゅうっと音がし、二人から歓声があがった。
「良い匂いだ。美味そうだなあ、ガンさん!」
「ああ。調理見んのもこういう料理もはじめてだが、今までの飯より確実に美味いってのがもう分かる……」
「ははぁ、ガンさんは本当に物を知らないな! 前の世界では何を主食に?」
「煩えな。完全栄養食だよ。錠剤とかゼリーパックとか」
「何だそれは、全然楽しくなさそうだな?」
「食事に楽しさを求めた事は無ぇなァ!?」
いつものじゃれ合いを横目、やはり笑ってしまう。
その間にも出汁から骨を取って穀物の乾燥粉を投入。木の枝でくるくると混ぜつつ、小鍋の湯にはハーブを入れてハーブ茶にする。
「そういえば、ガンさん」
「お?」
「さっき言ってた屋根が完成したら言うっていうのは?」
「やめろ、このタイミングで出すな」
「何だガンさん、何だか分からんが俺も聞きたいぞ」
「ケンは黙って」
「まあまあガンさん、このお茶を差し上げますので――」
小鍋からハーブ茶を竹の湯飲みに移してお渡しする。ケンにも勿論与えた。
「…………美味え。あったけえ水分めちゃ染み渡る……」
「……うむ、此方に来てから無かった味だな。幸せを感じる……」
「でしょうそうでしょう……」
ずず……っ、ガンは憮然と。ケンはしみじみと茶を啜っている。
「……から、 …………ったんだ」
「何て?」
「何と?」
「ケンは黙って」
「どうして俺だけ」
「煩え! ……だから!作った事が、無かったんだよ!」
「……屋根の事?」
雉の出汁粥に味を付ける手を止めて、ガンを見る。
「……屋根に限らず、なんかこう……おれは何も作った事が無えから……生産的な物つうか……その、壊すか殺すしかしてこなかったからよ。……だから、何かそういうもんを、自分が作れたっつうの……はじめてだし、嬉しいな……って…………つか改めて言うとめちゃくちゃ恥ずかしい!」
猛烈に恥ずかしくなったのだろう、ガンが顔を覆って悶えている。此方はなんとも顔が緩んでしまう。
「ガンさん……」
「ガンさん…………何と可愛らしい……」
「ケンさん、分かるよ、分かるけど此処で追い打ちはやめてあげて」
「おまえらどっこいだよ!ばか!」
「すみませんでした」
「わはは!」
ガンがケンを小突いている横で、肉を返して、出汁粥の仕上げもしてしまう。昨日とは打って変わった良い匂いが辺りに広がっている。
なんとなくさっきケンと話してむずむずした気持ちを思い出した。まだ言葉にはならない。
「もう出来るよ」
「おお、じゃあ準備をしようか。ほらガンさん」
「あん?」
「折角だからテーブルと椅子くらい用意しよう」
「ふん」
「わ、ありがとう」
察してガンも立ち上がる。ケンが大きな岩を半分に斬ってテーブルよろしく、ガンも手頃な大きさの石を椅子代わりに3つ運んでくる。
二人が用意してくれたテーブルに竹と葉の器を並べ、鍋と石タイルを運んで来れば食事の用意は完成だ。お玉やスプーンなんて無いから、竹を削った簡易な物で代用する。
「大変お待たせしました。これで完成です」
「おお~! なんか分かんねえけどちゃんとしてる」
「ああ、一気に文化レベルが上がったしとても美味そうだ!」
「二人の口に合うと良いんだけど。こっちは雉肉の石焼き。ガンさんが獲ってくれた雉とケンさんが分けてくれた石タイルを使いました。で、こっちは雉の骨で出汁を取って、穀物の粉を混ぜて味をととのえたお粥です。僕の世界では旅の携帯食として結構よく食べてたやつ。以上です」
「うむ、では、いただこう!」
「おれも」
「はい、どうぞ」
こうして昼餉がはじまった。