表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第一部 村完成編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/619

74 宴の終わりと新たな始まり

 完成式の宴は夜まで続く。

 夕方、暗くなってくると水路に浮かべた明かりが幻想的に灯り、広場を囲んだガーランドに吊るした明かりや、燃え盛る篝火なども豊かに夜を彩った。

 遠目に見ると大自然の中にひとつの明かりが灯っているように見える。その明かりは夜が更けても灯り続けていた。


「――で、実際ベル嬢とカイさんの進展はどうなのだ、リョウさん」

「どうして僕に聞くのさ……! まだ清らかな友人関係という尊き時間を楽しんでいるそうなので、余計な口出し手出しは無用の見守り推奨だそうです!」

「答えてんじゃん」


 広場で小人達が踊る輪の中、カイとベルが何度目だろう――とても楽しそうに踊っていた。野郎共も先ほどまで広場で楽しんで居たが、今は食事ゾーンの方に小休止で戻り、酒を飲みながら広場の様子を眺めていた。


「成る程成る程、青春を味わうか……!」

「素敵だよねえ……!」

「分からんけど……、……」


 ガンが不思議そうにする。性悪魔女とジジイの魔王が踊っているだけなのに、もっと若い――それこそ昔に読んだ物語で見たような、主人公と姫が踊っているようなきらきらした場面に見える。それが不思議だ。分からないが、なんとなく分かるような気もする。きっとこれは精神が影響している“善い”何かだ。


「成る程、これが青春……?」

「何だガンさん、ついに青春を理解したのか……!?」

「ガンさんついに……!?」

「いや、理解はしてねえ」

「ちょっとあなた達! もう疲れたっていうの!?」

「わ、ベルさん!」


 一曲終えて、ベルがカイを伴い戻って来た。ベルの額には薄っすらと汗が浮かび、火照った頬に輝く瞳で、魔法も使っていないのにいつもより若く見える。


「次はリョウ、あなたが相手をなさい。カイは夜の余興をするそうだから!」

「はい、宴もたけなわという事でそろそろ……」

「わー! 僕か! 頑張ります!」

「では最後に俺達も踊るとするか! ガンさん!」

「まーだ踊るのかよ。もう散々踊ったろ……!」

「もう一度だ!」


 昼から色んな組み合わせでそれぞれ満遍なく踊ったが、ケンの体力は無限なので、面倒臭そうなガンを引っ張っていく。リョウの方も、昔の記憶を総動員してベルをエスコートし、ダンスの輪へと混ざっていった。

 

 カイはそっと楽団小人達の方へと近付き、あらかじめ打ち合わせてあったのだろう。指揮者のように音曲を導き始めた。宴席のフィナーレの直前のような、打って変わった激しく賑やかな演奏。踊る面々も変化に気付き、一層熱が入るように楽しく踊っていく。祭りの熱狂を追い上げ高まる演奏、激しさを増すステップ、全てが最高潮を迎えて――――音が途切れると同時に、辺りは暗闇に包まれた。


 何だと思う間もなく、響き渡る小気味良い破裂音。空に大輪の花が咲く。


「わ……!」

「おお!」

「まあ……!」

「……!」

「モイ~!」


 極彩色、見上げた夜空を埋め尽くす美しい花火。カイの“夜の余興”だ。

 カイの方を見ると、演奏小人達と共に『えへん』という顔をしていた。つられて思わず笑ってしまう。その傍らをベルが駆けていく。


「お」

「おお……!」

「おー」


 感激したベルがカイに飛びついて、頬に可愛らしい口付けを贈っている様子が見えた。思わずニヤついてしまい、それからは配慮して視線を外す。

 花火は暫く続き、終わるとまた明かりが灯り――それこそ夜更けまで祝いは続いた。眠くなった者、体力が限界を迎えた者からその場で横たわってゆく。最後まで起きていた“村長”が、全員が寝静まるとぐるり安否を確認し、それから満足そうにして、自分も眠った。今日ばかりはベッドは必要無かった。全員が共に眠った。


 こうして皆はこの先も幸せに楽しく暮らし――と童話なら結ばれる。だが、童話では無かったので次の朝は訪れる事になる。

 今は誰も知らず。別の場所で新たな“はじまり”が幕を開けていた。



 * * *


 

 緑の大自然を見下ろす、何処よりも高い山頂。

 

 ――――漸く辿り着いた。


 満天の星空が見下ろす中。重く軋み傷む体を引き摺るようにして、山を降りてゆく。真っ暗な大自然の絨毯に、ひとつだけ輝く明かりを目指して。剥き出しの荒れ地を何とか抜けると、辺りに緑が増えてくる。


 静かだ。きっと“あれ”より先に辿り着く事が出来た。


 目が霞む、血が足りない、命が足りない。歩く事もままならない。たまらず倒れ込むと、もう立ち上がる事は出来なかった。


 此処で諦めてはならない。まだ彼らに会っていない。


 立ち上がる事が出来ないから、地を這うようにして進み始めた。小さな地虫が笑う程、緩慢な速度で。それでも、少しずつ。

 山を下った。未開の大地には不自然な、石畳の道が現れる。


 ――ああ、此処を進めば。


 また、這いずり始める。中々進まない、辿り着かない。

 先に命の方が尽きてしまいそうだった。こんな所で終わる訳にはいかないのに。必死で歯を食い縛り、先を見上げると突如夜空に花が咲いた。

 何かの祝いだろうか、美しい、とても美しい花火。


 ああ、居る。彼らはあそこに居る。行かなくては。


 必死で指を動かそうとする。動かない。もうこの身体は限界だ。

 何度目か、歯を食い縛った時。花火に驚いたのか草むらから獣が飛び出して来た。目が合う。


 この小さな命の体を借りよう。


 目を合わせたまま、願うと獣は受け入れてくれた。感謝と共に、傷みきった体を捨てて――――獣の体を借りると駆け出した。

 

 彼らが居る場所までは、後少し。



 * * *



 シャクシャクシャクシャクシャクシャクシャクシャクシャク…………夜明け頃、ガンナーは不思議な音で目が覚めた。


「なん……ッ、重てえな!?」


 広場の屋根の下、床に転がって寝ていたのだが――目覚めれば何人か小人がくっ付いているし、隣で寝たらしいケンの寝相が悪く、腕が腹の上に乗っていて大変重たい。舌打ち、小人が起きないようにそっとずらし、ケンの腕を放り出してから漸く音源を確かめる。


「……!?」


 テーブルの上、豚位の大きさの生物がシャクシャク音を立てていた。恐らくテーブル上の果実や野菜なんかを齧っていると思うのだが、最初は牧場から山羊か羊が迷い込んだのかと思ったのだが、そうそうある事では無いし――そもそも見た事が無い生物だ。


「何だこれ……」


 残り物の匂いを嗅ぎつけてきたのだと思うが、こんな事は初めてだ。周囲に野生動物は多く居るが、村まで侵入する事は殆ど無い。最初はケンやカイの気配に怯えていたし、後からはリョウやベルが害獣避けの魔法を仕込んでいたからだ。


「おい、リョウ! 何か動物が入り込んでる!」

「んえェ……何……?」


 辺りを見渡し、手近にリョウが居たので叩き起こす。眠たそうに目を擦って起きたリョウが、ガンが指差す先を見て目をカッ開いた。


「これはカピバラだよガンさん!」

「かぴ……ばら……?」

「食べられるし美味しい!」

「おお!」


 カピバラと呼ばれたずんぐりとした動物は、飢えを満たすよう一心不乱にスイカを齧っていたが、騒ぎ始める様子に気付いて顔を上げる。そして直後に聞こえた言葉に戦慄した。


『待たれよ! どうか食べないで頂きたい!』

「!?」

「喋った!?」

「いや、違うこれは――直接頭の中に言葉が届いている感じだ……!」

「なんだ、魔法か!?」

 

 キュルキュルとカピバラの鳴き声も聞こえる。だが同時に人語らしいものも頭の中に響き渡る。


『申し訳ない……! あまりにエネルギーが消耗しており……! 目の前に食べ物があったので思わず……!』

「腹減ってたのか。いいよ。別に、食えよ」

「いやうん、食べるのは全然良いんだけど、どちら様でしょうか……?」

『神です』


「あ?」

「は?」


 ぎょっとする二人の前で、再びカピバラがスイカをシャクシャクシャクシャクし始める。その間にも念話のような声は届いていた。


『正確には、別の世界から来た神です。大切な話があります。出来れば皆さんで聞いて頂きたいのですが……』

「ちょ……」

「ええ……」

「…………」

「………………」

 

 ガンとリョウが目を丸くしたまま顔を見合わせる。

 ――――数秒後、慌てて皆を起こし始めた。

お読み頂きありがとうございました!

これにて第一部完結です!(に伴い目次も少し後で弄ります)

二部は明日から開始予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ