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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第六部 天界編

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613 愛のきらきら

「ちょっと、一体何事なの?」

「モイッモイッ!」


 主人であるベルに問われ、集会所へ戻って来た長老が姿勢を正した。きりりと引き締まった表情と強い眼差しで熱弁をふるいはじめる。地上の方では、相変わらずモイモイと赤ちゃん一揆が続いていた。


「……成る程、それは良い提案ね」

「何だ? 何と言っておる?」

「小人達が赤子を引き取り育てると言っているわ」

「何と……!」


 通訳を聞いて皆が目を丸くする。


「え、44人だよ!? 大丈夫!?」

「モイッモイッモイ~!」

「基本的に一世帯で一人預かり、双子と三つ子も一世帯ずつで預かるけれど、大変な所はちゃんと皆で手伝うそうよ」

「既に小人の子供達が居ますがその辺りは大丈夫ですか……!?」


 人間達からすれば、渡りに船のような話だ。が、人間が居るのに小人が引き取るのは『それでいいのか』とやや思ってしまうし、彼らの負担も気に掛かった。


「小人の子供達は、もう人間でいう10歳~11歳位なのよね。十分大きいし、彼らも赤子の受け入れを熱望しているわ。仕事の手伝いと子育てもするそうよ」

「モイモイモイ~モイモモッモイ!」

「小さい内は小人の家でそのまま暮らせるし、大きくなるまでには新たな棲み処も建てられるだろうと言っている」

「それなら確実に間に合うな」


 ちゃんと色々考えてきてくれたらしく、皆が真剣な顔で吟味している。


「ふむ。人間としての教育は、学校を作って私やジスカールが先生をすれば何とかなりますか……」

「そうだね。これは素晴らしい話だと思う。今後小人も増えていくし、小人に育てられれば小人語も習得出来るんじゃないかな」

「ああ、そうか……!」


 小人達は二年で成人を迎える。その頃には新たに世帯も増えて小人はどんどん増えていくだろう。そうなると小人語は習得しておいた方が絶対に良い。


『すてきなことです! わたしもさんせいですよ!』

『そうですね。私も良いと思います』

「モイ~!」

「ケン様、如何?」

「ふむ、そうだな……」


 皆は殆ど賛成のようで、可決の為にベルがケンを促した。ケンも反対ではないが、軽はずみに決めて良い事ではないのでじっくりと考えている。その時、外の一揆を眺めていたガンが口を開いた。


「ケン、勿体ぶらずに決めちまえよ。後から問題が出てきたら、おれ達がサポートすりゃいいだろ」

「まあそうか」

「あいつら、確実におれ達より良い親になるぜ。見ろよ」

「うん?」


 見ろよと言われて同じように外を見る。相変わらず、長老以外全ての小人がモイモイと一揆をしていた。


「うむ、まあ熱烈ではあるな?」

「あァ、そうか。おまえは見えねえんだッたな」

「何だ?」

「愛の魔法だよ」

「愛の魔法?」


 ケンが怪訝にする中、ベルが理解し微笑む。リョウやカイ、メイやタツなど魔法が使える面々も外を覗いてみるがよく分からない。


「おら達にも――見えねえな……?」

「そうだね……?」

「わたくしは視えていてよ。ガンナーも妖精と縁があるから視えるの」

「ああ、そういう……!」


 遅れてジスカールも外を見る。首を傾げてから、抑制具を外して『神の眼』で視てみた。今度はガンの言っている事が理解出来る。


「――視えた。これはガンナーの言う事が正しいね」

「だろ」

「どんな風に見えるの?」

「一言で言うと『愛』だよ。小人達から、愛の感情が煌めき溢れている。心底赤子達を歓迎し、祝福し、迎え入れたいと思っている証明だ」

「おれ達はあんな風に溢れてねえからなァ」

『はい、あのあいはほんものですよ』


 マモ神が笑顔で太鼓判を押す。彼らには愛があって自分達には無い――というか、世話をする算段が付かずに焦ってしまいそれ所ではなかった。物理的に仕方が無い事ではあるが、こうも違いを見せ付けられては白旗である。ケンが小さく笑うと、長老の方を見た。


「――では小人らに任せる。当然村の仲間、家族として俺達も手伝う故、何かあればいつでも言ってくれ」

「モイ~!」


 長老が嬉しそうに飛び上がり、ケンに握手を求める。その小さな手をがっちりと握り返し、今度こそ大きく笑った。その後、外で結果を待ち構えている小人達に伝えてやると一斉に歓声が上がる。


「うむ、人間の赤子についてはこれでひとまず安心だな。小人達とベル嬢を筆頭に、皆支えて準備を進めておいてくれ」

「モイッ!」

「よくってよ」

「神よ、他にはあるか?」

『はい。今日の所は後、スケジュールの調整だけです。何せリョウとメイの結婚式がありますからね』

「……!」


 結婚式と聞こえて、リョウとメイ、マーモット神も跳びあがった。


『我が友、お花には聞いてくれましたか?』

『はいっ! おしどりばなは、あといっしゅうかんでさきますよ!』

「わ……!」

『リョウ、メイ、お花が咲いた後のいつに結婚式をしますか?』


 メイの故郷の結婚式では、おしどり花は欠かせない。だから式も咲くのを待っていたのだが、神のお陰で正確な開花日が分かった。


「え、え、ええと……っ!」

「リョウどんが、花冠を作った後になるもんで……ええと……!」

「大丈夫よメイ! ドレスや指輪の準備は殆ど済んでいるわ……!」

「会場の設営も数日あれば大丈夫だぞリョウさん!」

「えーと、えーと、今日何日!? 11月13日!? えーと……!」


 勿論準備はしていたし、そろそろとは思っていたが『花が咲いたら』という曖昧な猶予があった為、急に言われると焦ってしまう。


「リョウ氏ィ! 11月22日はどうでござるッ!?」

「その日だと何かあるのカグヤさん!?」

「拙者の世界では語呂合わせで『いい夫婦の日』と呼ばれていたでござるッ!」

「わあ!」

「わああ……!」


 何とも素敵な響きに、皆が『良いんじゃないか』という顔をする。


「20日に花が咲いて、22日に結婚式か! 9日後と思うと急だが良い! 良いぞ!」

「メッ、メイさんどう!? 僕はいいと思うけど!?」

「へぇ! お、おらも良いと思いますっ!」

「よし! では確定だ! 各々結婚式の準備もするように!」

『きゃあ! ぜったいいきますう!』


 確定に集会所が湧いた。マモ神もはしゃいで何度も跳びはね、長老も地上の小人達に結婚式の予定を伝える。再び先程とは違う歓声が大いにあがった。


『22日――ですね、はい。大丈夫です! 私も我が友と参列します!』

「わあ、ありがとう神どん達……!」

「うはは! これで神前で愛を誓えるのう~!」

「神前(物理)なのちょっと面白えんだよなァ」


 カピバラの神が手帳らしきを取り出し、予定を書き付ける。それからページを捲ったり戻したりして、顔を上げた。


『では赤子の引っ越しは来月、12月中に行う形で良いでしょうか? 準備期間が足りないというなら、何とか一月頭位までは延ばせますけど……』

「そのリミットは何なんじゃ?」

『今現在で、あの赤子達は生後3~4ヶ月といった所です。ニンアナンナ様が、早い子は5ヶ月頃から“はいはい”が始まるので、それまでにはあの実から出した方が良いと……』

「ああ~!」


 皆の脳裏に赤子達が入っていた鬼灯ほおずき型の実が浮かぶ。寝返り程度なら余裕だが、たしかに“はいはい”は難しいだろう。


「なかなか物理的な理由であったな……! では、長老は早めに小人らと相談し、また希望の日取りを神達に伝えるよう……!」

「モイーッ!」


 長老が深く頷き、足早に集会所を後にする。すぐにモイモイと賑やかな気配が戻っていったから、すぐにでも今後の計画を立てるのだろう。


「さて、本日の取り決めは以上か?」

『はい、そうですね。皆さんお疲れ様でした!』

「宜しい! では解散!」

「おー」


 解散が宣言され、ぞろぞろと皆帰り始める。が、ベルがマモ神を捕まえた。

 

「マモ神は少し残りなさい」

『はい! なんですか!?』

『私は良いのですか……?』

「マモ神だけでいいわ。カピ神は帰って結構よ」

『は、はい……』


 不思議そうにしながら、カピ神が先に天へと帰っていく。それを見届け、そっと辺りの様子を窺い、それからやっとベルがマモ神に耳打ちした。『あなたのドレスも作ってあげるから、サイズを測らせなさい』と。


 当然マモ神は歓喜感激し、大声で叫びそうになるのだが――万が一カピ神に聞こえては怒られそうなので、慌てて声を殺して全身をばたつかせるのだった。

お読み頂きありがとうございます!

次は土曜日更新です!

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