603 二次会①
夜の余興の花火を終え、時刻は夜の20時頃。小人の子らも居る為、前のように夜通し――とはならず周年祭は此処で一度お開きとなった。
女小人達が子供を連れ帰り、男小人達もある程度会場を片付けてから帰路へ着く。後はそれぞれ家族での団欒が行われるだろう。英雄達は場所を変え、日本の別荘地の方で二次会を楽しむ事にした。
「時差があるから明るいかなとは思ってたけど、え、これ最高じゃない……?」
「うむ! 絶景である!」
村の場所とは時差があるから、此方は午前9時頃である。明るく天気も良く、季節も十月中旬という事で別荘から臨める山々は美しい紅葉に染まっていた。男女別で露天風呂に浸かる事となり、先に男子が浸からせて貰っているのだが絶景である。
「同じ十月なのに全然違うな。こッちのが過ごしやすいわ……」
「村の方は乾季の終わり際で湿度も高いからね。気温も此方の方が少し低いかな」
『おやま、あかくてきいろくて、きれいだねえ!』
『やあ……綺麗だ……』
男子が全員湯船に浸かって脱力している。たっぷり祭りを楽しんだ後の露天風呂は最高であった。
「それにしても見事に完成したわネッ! 建物の方も素敵だし、このお風呂もいいじゃない? アタシ達も手伝ったけど、殆どケンちゃんとガンナーちゃんが頑張ったものねェ」
「東方ちうても大陸じゃのうて島国の方の文化じゃな。好きじゃけど~!」
「そうそう、ちゃんと浴衣も用意してあるんですよ。出たら着ましょうね」
すっかり完成した別荘は、山奥の和風隠れ宿といった感じだった。母屋と離れを渡り廊下が繋ぎ、内庭と外庭も日本庭園の如く。今後蔵なども建てる予定なので、広く取ってある敷地をぐるりと板塀が囲んでいる。内風呂と屋根付き露天風呂、屋根無し露天風呂があり、トイレや水回りの生活設備もきちんとしていた。
「離れは元々ジスカールさん達用に作ったし、母屋の方はリョウさんとメイさんの仮新居になるからな! 今後の維持管理は任せたぞ!」
「えへへ、頑張りますう……! この辺り、冬は雪が降るらしいんだよね。四季があるの大分楽しみだな……!」
「村の方は雨季と乾季しか無えもんなァ」
「五人目村の方も四季がありますから、これから楽しみが増えますねえ」
和気藹々と話しつつ、風呂から出ると皆で揃いの浴衣を着用した。スタンダードな白地に紺の柄の入った物だ。羽織も用意されていて、皆思い思いに着用した。
「これを……メイさんも着てくれるのか……! 楽しみだな……!」
「ええ、楽しみですね。ベルも絶対に似合いますから……!」
「女子の浴衣姿儂も楽しみじゃの~!」
「アタシは最早感無量……ッ! ありがとうジスカールちゃん……ッ!」
「俺も感無量であるッ! ありがとうガンさん……ッ!」
リョウとカイとタツが女子の浴衣に思いを馳せる中、ジラフとケンは今目の前に居る存在へ心から感謝していた。
「ど、どう致しまして……? 皆もよく似合ってるよ」
「何だこれ動き辛えなァ」
「温泉宿といえばこの恰好なのだガンさん! お作法だぞ!」
「ふうん」
一応納得したらしいガンが腕を捲り、大股で気にせず歩いていく。その姿をケンが満面で眺めながら後に続いた。
「皆そんなにお腹は空いてないよね? 二次会用におつまみは用意してあるけど、もしがっつり食べたい人が居たら――」
「昼から割と食べ続けているからな! 大丈夫だぞ! それよりも酒だ!」
「うはは~! 今日の為に海上都市から色んな酒を沢山貰って来てあるぞい!」
「わたしも軍事基地に残っていた年代物のワインを取って来たよ」
母屋の広間に戻ると、既にメイが作り置きのおつまみを並べてくれていた。
「わっ、メイさんありがとう!」
「何もだぁ! カグヤどんとベルどんがお布団も敷いてくれたからな!」
「えっ、カグヤさんは兎も角ベルさんが!?」
「わたくしが力仕事をする訳ないでしょう? 魔法よ魔法」
「はっ、成る程……!」
既に雑魚寝する事を見越し、広間の隅には数組の布団が敷かれている。
「此処で寝ると煩いやもなので、広間に近い和室の方にもお布団敷いてあるでござる! ウルズス氏やリエラ氏は早めにおねむになるでしょうからな!」
『わあ、ありがとー!』
ウルズスが早速広間の布団の上で転がって遊び始める。リエラも混ざろうとしたが、次は女子組がお風呂なのでひょいとメイに抱きあげられた。
「リエラどん、遊ぶのはお風呂の後にしよう。此処のお風呂はすんごいぞ!」
『あいー!』
「じゃあ次はわたくし達が行って来るわね」
「温泉頂いてくるでござる! 露天風呂楽しみィ~!」
女子達が出てゆき――男子達は酒やグラスを並べたり残りの準備をしてから、一足先に晩酌を始めさせて貰った。
「まあちょっと飲んでおく位は許されるであろう! 女の風呂は長いからな!」
「そうじゃそうじゃ!」
「まあ改めて乾杯すれば良いわネッ!」
「僕には止められないけど飲み過ぎないでね……!」
ガン以外はそれぞれ少しずつ好みの酒を飲み――と、並んだ酒瓶を見てケンがふと瞬く。
「おお、タツさんが持ってきたのか? 遊びになる酒もあるではないか!」
「おおん? どれじゃあ? 適当に色々持ってきたからの!」
「これだ!」
ケンが琥珀色の酒の入った瓶を持ち上げる。ラベルには緑の植物が描かれており、見た所普通の酒瓶だった。
「ふうむ、リョウさん! ライムと塩を用意せよ!」
「えっあっはい!」
「後は――」
ケンがどすどす台所の方へ消え、ほどなく小さなおちょこの入った籠を抱えて戻って来る。それをひとつひとつテーブルに並べ始めた。
「ショットグラスが無かった故、おちょこで代用だ!」
「ショットグラス――……ケンちゃんまさか飲み比べ勝負をする気じゃない!?」
「そうだぞ! この酒は俺の世界では『メースカル』と呼ばれておってな! 飲み比べ勝負といえばこの酒だ! 度数は35%~44%ほど故、そこまで高くは――」
「高い高い! 高い方ですよそれは……!」
ケンがまたろくでもない事を始めた、と何人か正直な顔をする。
「まあまあまあ! 酒に弱い者は無理して参加せずとも宜しい! 折角の二次会なのだしこうした余興もあって良かろう!」
「おれは絶対やんねえぞ……!」
「わたしの世界でいうメスカルだろうなあ……」
「弱い子に無理強いしないならいいわヨッ!」
「酒なら得意分野じゃぞ! 賞品は無いんか賞品は……!」
賞品と問われてケンが少し考え込む。何人かが賞品次第ではやぶさかではない顔でケンを見詰めた。
「ふうむ、ひとまず『酒王』の称号は与えるとして――全員が欲しがるような賞品というと中々難しいな……何か希望はあるか?」
「儂『俺逃れ券』が欲しい……! ケン殿の『俺の理不尽な暴力から一度だけ逃れられる券』ッッッ! 何枚あっても困らんからの……!」
「ええっ! それは私も欲しいです……!」
「話は全て聞いたよ! 僕も欲しいです……っ!」
ライムと塩を抱えたリョウがスパーンッと障子を開けて参戦した。『俺逃れ券』は村の一部男性にとっては喉から手が出る程欲しいものなのである。
「タツさんリョウさんカイさん以外が勝った場合無用の券だが!?」
「あっじゃあ僕からも『三日間の朝昼晩、好きなメニューをリクエスト出来る権利』出します!」
「ほう! 出し合う形か! それは良いな!」
「話は全て聞いたわよ……ッ!」
話が纏まりかけた時、再び障子がスパーンッと開かれた。見れば湯上りの女子達が浴衣を纏って仁王立ちしている。
「ファッ!? メイさん浴衣ピンクなの!? 可愛い! 可愛過ぎる……!」
「嗚呼! ベル! やはりお似合いで……!」
「ふへぇ……! ありがとうリョウどん! それとは別におらも参戦しますっ!」
「ありがとうカイ! そしてわたくしだって参戦するわよっ! 勝った暁にはケン様の海上都市の宝飾品を幾つか頂きたいわねっ!」
「リクエストありなら拙者だってケン氏とガンナー氏が浴衣で同衾するところ見たいでござるけどォオォ――!?」
この瞬間、『賞品を各自出し合う』ではなく『賞品希望を各自出し合う』勝負へと様変わりした。
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