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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第六部 天界編

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584 一目惚れ

 クレスケンスルーナ神とダイアナを乗せた天馬車が遠く飛び去ってゆく。名残惜しそうに見えなくなるまで見送ると、ウルズスがオムニス神を向いた。


『ねー、このかんむり、枯れないようにできる?』

「気に入ったのか。よし、細工してやろう」

『うん、たからものにする!』


 ダイアナが編んでくれた花冠にオムニス神が触れると、摘んですぐのように瑞々しさを増した。ウルズスが目を丸くして『おお』と掲げる。


『神さまありがとー!』

「どういたしまして。此方こそダイアナと遊んでくれてありがとう」

「仲良くなれたでござるか~!?」

『うん、いっぱいおはなししたよ! またいつか会えるといいなあ』

「ジスカールさんが大出世すればいずれ会える機会も生まれるらしいぞ!」

『ほんと?』


 つぶらな瞳が期待と共に見上げて来るので、オムニス神が眉を下げ目の前に膝を付いてやった。


「君はジスカールの欠かせない相棒だからな。彼が天界に出入りする際には、然るべき理由で申請すれば許可が下りるだろう。だが、何年先になるかは分からないし、君自身も天界を出入りするのに相応しい成長をしなくてはならないぞ」

『どんなふうに成長したらいいの?』

「今のように清い心を保ったまま、素敵な大人になりなさい」

『ぬん……わかんないけどわかった! がんばるね!』


 こぐまがニパッと笑い、オムニス神も笑み返して頭を撫でてやった。その後は天馬に乗って観光を再開する。既に出かけてから大分時間が経っているので、帰路を兼ね天馬から天界の景色を見つつ戻る形だ。


 行きはカグヤに乗せて貰ったウルズスだが、帰りはケンに乗せて貰った。ケンの方が天馬の扱いが上手く、道中で花冠を落とす可能性が低いからという理由らしい。余程気に入ったのか、馬上でも大事に持った花冠を何度も眺めている。


「余程楽しかったようだな、ウルズス。ダイアナに惚れたか?」

『うーん……これが恋なのかなあ……?』


 天馬を操りながらケンが問うと、こぐまが悩むよう唸った。三騎が飛ぶ空はウルズスの心模様のように、夕焼けと夜が混ざって複雑だ。


『ダイアナすごくかわいくて、きれいでさ。ぼくどきどきしたり、胸がきゅうっとしたり、からだが浮いちゃうみたいな気持ちになったよ』

「リエラの可愛いとは別か?」

「うん。リエラもすごくかわいいけど、ちがうかんじ」

「ふぅむ、それは恋かもしれぬなあ」


 ウルズスからそういう言葉が出て来るのは珍しい。ケンも興味を惹かれて腹に凭れているこぐまを見下ろした。まるで自問自答するように花冠を眺めている。


『恋なのかなあ。けど発情期はこなかったよ?』

「それはウルズスがまだ子供だからであろう。発情期は交尾がしたくなる期間であって、ただの恋は子供でも出来る。交尾以外にしたくなった事は無いか?」

『こうびいがいか……』

 

 ウルズスはファナティックに『アナタがいつか発情した時っ! メス熊と交尾がしたくて“普通熊段階”を会得した時が大人の階段を駆け上った証ですっ!』と言われている。だから恋もそれと連動していると思っていたが、どうやら違うようだ。


『もっと一緒にいれたらいいなあっておもった。もっとたくさんあそべたらなって。けどさ、むずかしいよねえ……』

「まあ相手は天界の姫だからな。また会えるにしても何年先になるか……」


 互いに焦がれて消沈してしまうようなら、いっそ会わせない方が良かったのではとも思ったが――どうもウルズスの様子は消沈ではない。かといって初恋にのぼせポーッとなっている風でもない。花冠を大切にしている様子からも、ダイアナが感情を大きく揺り動かしたのは間違いないのに。


「何というか、思いのほか冷静であるな?」

『そう? こういうお別れはよくあったからかも?』

「ほう?」

『前のせかいで旅をしてるときね。ジスカールと森や山にかくれたりして、そのときはおともだちもできたんだよ』


 美しい天界の景色ではなく、大事に持った花冠に視線を落としてこぐまが呟く。


『けどぼくら、すぐいろんなところに行くからそれっきり。また同じ場所にくることがあっても、あっちはしんじゃってるか、どこかに行っちゃってるかだし』

「ぬう、成る程な……」


 ウルズスは100年ほどジスカールと世界中を逃亡しながら戦い、最終的に世界を救っている。山野で出会う友達は野生動物が殆どだろうから、言っている意味もよく解る。つまりウルズスは友達との別れに慣れてしまっているのだ。


『けどさ、ダイアナはてんかいの子だから長生きだろうし。いつになるかはわかんないけど、ジスカールとぼくががんばったらまた会えるんでしょ』

「オムニスはそう言っていたな」

『うん、だからぼくはかなしいより――まあちょっとはかなしいんだけど。がんばろう、のがつよいのかも』


 その言葉でケンも冷静さの理由に得心いった。こぐまが『だいじょうぶだよ』と見上げて笑顔を作るので、同じように笑み返してやる。


「――ふん、既に中々良い男ではないか。この調子ならいずれダイアナを娶る事も出来るかもしれんぞ!」

『めとるってなあに?』

「嫁にきてもらい、つがいになるということだ」

『つ、つがい……!』


 その言葉に、こぐまが雷に打たれたような顔をした。会ったばかりのダイアナにそんな発想をする事は無かったのだが、初めて彼女に感じた気持ちと『つがい』の言葉がたった今不思議な程に馴染んでゆく。


『つ、つがい……そうか……つがい……』

「ダイアナが自分のつがいになる想像が出来るか? なって欲しいと思うか?」

『ま、まって、かんがえる……!』


 こぐまが慌てて、ウンウン唸って想像し始めた。ジスカールとジラフみたいに。リョウとメイみたいに。ベルとカイみたいに。愛し愛され、いつも隣にいるつがい。自分の隣に居るつがいはこれまで想像出来なかったが――ダイアナは、驚くほどにぴったり嵌まってすぐに思い描けた。しかも全然嫌じゃない。


『…………で、できる……な、なって……ほしいかも……』

「宜しい! ならばそれは恋だぞウルズス! 一目惚れだ!」

『こ、これがひとめぼれ……!』


 衝撃の自覚にこぐまがワナワナした。それを見てケンが大きく笑う。


「わはは! 成就するか悲恋となるかはウルズス次第だがな! どの道男を磨くよき経験となろう! 恋はいいぞ恋は!」

『わ、わあ……! これが恋かあ……!』


 オムニス神とカグヤにはケン達の会話は届いていなかったので、急に大声で笑いだす様子に何事かと視線を向けられる。ひとまず内緒にしてやるかとケンが悪戯げに笑み返し、三騎は帰路へとついてゆくのだった。



 * * *



 観光組が宿泊所に戻ると既に全員揃っており、何故か皆で並べられた重箱を囲んで美味そうな菓子を食っていた。


「ただいま! 今戻ったぞ!」

「ただいま戻りまして! ワーッ! そのスイーツ達なんでござる!」

「クリュソス神からの土産だよ。おまえも食え」

「ワーッ!」


 カグヤがスイーツに駆け寄っていく中、ウルズスは真っ直ぐにジスカールの方へと駆けていった。


『ジスカール!』

「おかえりウルズス。観光は楽しかったかい。ガンナーが美味しいお菓子を――」

『ジスカール! ぜったいしゅっせしてね!』

「!?」


 笑顔で出迎えた瞬間、謎の出世要求にジスカールが固まる。


「え、出世? どういう事だい!?」

『ぼくねえ! いまさっきひとめぼれしてきたの! 恋しちゃったの!』

「!?」

『ジスカールがしゅっせしたらまた会えるんだ! だから絶対しゅっせしてね!』

「…………ッッ!?」


 一目惚れ宣言に皆が一斉にウルズスを見、脳内までフリーズし掛けたジスカールが物凄い形相でギギギ……とケンの方を見る。


「ケン……!?」

「俺ではない! 俺ではないぞ! 悪いのはオムニスである!」


 秒でオムニス神を売りながら、ケンがとびきりの笑顔で答えた。ざわつく英雄達の中、同じくとびきりの笑顔でウルズスも瑞々しい花冠を見せるのであった。

お読み頂きありがとうございます!

次は火曜日更新です!

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