表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第六部 天界編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

562/619

569 諦めない

 最初は順調だった。だが途中で疑念が擡げ、やがて確信に変わった。


「我が友……」

「どうしました、わがとも」

「私達の習っていない術が使われているかもしれません」

「……!」


 手分けして術式解除を行っていたマーモット神が目を見開く。


「ろくぼうせいですから、わたしがしらないじゅつがあるのはよそうしてましたけど、わがともまで……!?」

「はい……まだ確信ではないですが。ひとまず我が友は解除しやすい所から解除していってください」

「はいっ!」


 マーモット神が頷き、順に解除していたのを選んで飛ばし始める。それを横目で見つつ、カピバラ神は表情を曇らせて目の前の術式に取り組んだ。既に幾つか解除した術式は、『該当の術を正しく会得し扱えれば簡単に解除出来る』という物ばかりだった。自分達の実力を正確に測る為のオムニス神の心遣いだと思う。


 だが今目の前にある術式は毛色が違う。時間を掛ければ解ける物ではあるが、これまでのオムニス神の構成と比べると違和感があった。例えるなら『9×9』の計算で、『九九くく』を使えば一瞬で答えが出るが、九九を知らない場合は9を9回足さねばならず時間が掛かってしまう。そんな感覚である。


 オムニス神が時間稼ぎでこの術式を組んだとは思えない。構築を眺めていたが、あまりに精緻で美しく、こんな“不格好”が許されるような隙は無かった。であれば今自分が行っている地道で時間の掛かる解き方は“不正解”だ。本来はもっと簡単に解ける術がある筈なのだ。その推理を裏付けるかのように、自分が泥臭い解除をし始めると神達の空気が変わった。


 オムニス神を始め、複数の神が訝しむような顔をしている。それで『不正解』であるとの確信を得た。それでも何とか終わらせ次へ。一番外側のキューブを消し、二層目に入ると今度は術の複合が始まった。そしてやはり、キューブによって躓く術式があって疑念が確信に変わる。


「我が友――この術式、見た事がありますか」

「……ないとおもいます。じかんをかければかいじょできるとおもいますけど、それはただしいかいじょほうほうじゃないですよね」

「はい、私もそう思う」


 念の為幾つかマーモット神にも確認して貰ったが、自分と同じ感想を抱いている。僅かの時間、困惑して顔を見合わせたが時間が惜しいのですぐに出来る作業を並行し始めた。


「そんなことが、あるのでしょうか……」

「実際起きている事です。そしてこれはオムニス様の工作ではないと思います」

「…………はい」


 恐らく同じ結論に至ったのだろう、マーモット神が泣きそうな顔をした。オムニス神の課題に後ろ暗い所は何ひとつ無い。そもそも隠者ハーミットも確認しており不正の余地は無い上、そうした卑怯を行う神ではないと知っている。


 であれば、単に自分達が師匠から術を教わっていないのだ。六芒星であるマーモット神が知らない『七芒星の術』が存在するだけならまだ納得できる。だがカピバラ神は七芒星であり、師匠から七芒星までの術は全て教わっている筈だった。


 カピバラ神は自身が若く未熟なのは自覚しているが、学びと努力に於いて怠慢であった事は一度も無い。それはマーモット神も同じだ。二神とも最初に担当した世界を喪う前から勤勉だったし、喪った後はより一層励んでいる。


 その熱量は二神の師匠から『もう今の段階で教えられる事は無い。経験を積み芒星を上げたら続きを』と呆れられた程で、そんなカピバラ神の知らない『七芒星の術』が存在しているという時点で異常事態だった。


 オムニス神が白ならば、黒は師匠という事になる。意図的なのか、それとも師匠自身も習っていないのか――その辺りは分からないが、今現在事実として横たわるのはカピモット神が『課題に必要な術を幾つか知らない』という事だ。課題の難度的に『全ての術を理解した上でやや駆け足』が必要なのに、この事実は絶望的でカピバラ神が悔しげに顔を歪める。


 砂時計を確認すると、随分時間をロスしてしまっている。どうしようどうしようと気ばかり急いて、きつく瞑った瞼から涙が滲んだ。マーモット神から声が飛んだのはそんな時である。


「わがとも! あきらめてはだめです!」

「……我が友」


 見遣るとマーモット神が強い眼差しでカピバラ神を見ている。目元は赤いが、覚悟を決めたような強い強い瞳だった。


「じかんはかかっても、さいわいとけるじゅつしきばかりです! がんばるの! ぜんりょくをつくすの! わたしたちがあきらめたらぜったいだめ!」

「……我が友……っ、はい…………はい……ッッ、その通りです……!」


 友の叱咤に目を瞠り、次の瞬間には口を引き結んで頷いた。絶望的だからと諦めてしまっては英雄達に申し訳が立たない。彼らは全力で限界を超えて戦ってくれた。共に歩み戦ってくれと願った自分達が、同じ以上をしなくてどうするのか。


「……彼らなら、絶望的でも何か手段を見つけ出す筈です。私たちも、絶対諦めるもんか……ッ!」

「そうですっ!」


 もう周囲の神々の視線も何もかも気にならなかった。友が活を入れてくれたお陰で、急に思考もクリアになった気がする。余計な事は考えず課題のクリアだけを考えようと決め、マーモット神にニッと笑ってみせた。彼女の方も応えるようにニーッと笑み返してくれる。


「――とはいえ、このまま愚直に頑張っても絶対に間に合いません。我が友、私を信じて力を貸してくれますか?」

「もちろんです! わたしはいつだってわがともをしんじています!」


 まだ作戦も言っていないのに即頷く様子に笑って、こそこそとマーモット神に耳打ちする。作戦をすっかり聞くと友は驚いたようにしたが、すぐに深く頷いた。


「わかりました! ぜんりょくで――いいえ、ぜんりょくいじょうで!」

「はいっ!」


 互いに頷き、残り時間僅かの所で二神は最後の全力以上を開始した。



 * * *



 残るキューブの層は恐らく後ひとつかふたつ。これまでの経過を考えると絶対に時間が足りないと英雄達がハラハラし始めた時だ。


「何だ……?」


 カピモット神の動きが変わって皆が瞬いた。これまでは二神で作業を進めていたのに、マーモット神が少し離れて詠唱を開始している。カピバラ神の方はそのまま作業を続けているが、先程よりスピードが上がっている気がした。


「へえ……考えたな……」

「何がだ!」

「ひえッ!」


 ぽつりとウンブラ神が呟いたのを聞き逃さず、ケンががっつり肩に腕を回した。急に大きな筋肉にホールドされたので思い切りビクゥ! としたが、少しもごもごした後に何とか答えてくれる。


「か、彼らはこのままじゃ間に合わないと思って……作戦を変えたんだよ……」

「どのように!」

「ケン……! ウンブラ神が怯えるのでもう少し優しく……!」

「ぬう! 我が父が解説してくれんのだ! 代わりに解説してくれ!」

「は、はいぃ……!」


 声がでかいのと圧は変わらないが、やや優しく聞かれたので青褪めながらウンブラ神が解説を始める。尚他の神達は相変わらず険しい顔で作業を睨んでいた。


「出来る限りカピバラ神の方で解除をして、最後の最後にはマーモット神で“破壊”をするつもりなんだと思う。ルール上では、解除もしくは破壊だから……」

「ほう?」

「六芒星ではあるけど、恐らくマーモット神の方が攻撃力が高いんじゃないかな。まだほんの少し時間があるから、彼女は全力で力を練り上げている所だよ……」

「確かにマモ神の方が何となくパワーはありそうだな……!」


 最後の最後となれば、解除より破壊の方が確かに早そうな気がする。ケンが深く頷く傍ら、ベルも質問を投げた。


「カピバラ神の解除スピードが上がったのは何故?」

「それは……全力以上を出して無理をしているからだよ。今のマーモット神の方もそうだ。命を燃やすみたいな感じで自身を強化していると思――」

「ちょっと! それ危険じゃないの!?」

「ひいッ!」


 思わず掴み掛りそうになってまたウンブラ神が怯えた。


「き、きき危険ではあるけど、短時間なら“治る怪我”で済むよ……! ずっとは命に関わるから、このタイミングに合わせて来たんだと思う……! か、彼らは賢いよ……っ、ちゃ、ちゃんと考えてる……っ」


 必死で言い募るウンブラ神にベルが更に噛み付く中。クリュソス神始め見守る神達は勿論、一番近場で見守っているオムニス神が酷く難しい顔をした。

お読み頂きありがとうございます!

次は火曜日更新です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ