521 作戦開始
「じゃあ、行ってきます!」
「皆無事に戻れよ!」
先程工房で立体映像を見せられたポッドの前、出立前の最後の挨拶が交わされていた。突入組は緊張しているものの、皆やる気に満ち溢れている。
「ガンナー」
「カーチャン大丈夫だ。ちゃんと戻って来るし、こいつらも連れて帰ッぶ」
「当たり前よ! 帰って来なかったら絶対許さないのだから」
言い終える前にカーチャンが強引に頭を抱き込んだ。ガンも一瞬暴れかけたが、すぐに観念して背に腕を回し返す。
「メイ、出来る限りサポートしますからね。頑張ってくるのですよ」
「へぇ、ニンアナンナ様! 絶対やり遂げてきますっ!」
メイも最後に甘えてニンアナンナ神に抱きついた。神の方も笑顔でぎゅっと抱き締め返し、目一杯の愛情を注ぐ。
「ハァ! 元気が出る見送りでござるな~!」
二組の様子にニコニコしていたカグヤだが、ふっと気配を感じて見上げた――先にはケンが居た。
「ケ、ケン氏……っ!」
「うむ! カグヤさんは適当なハグ相手が居らぬだろうから俺がしてやるぞ!」
「エエエ~! 良いのでござるかぁ!?」
「良いとも!」
「生で! 生でお願い致す……ッ!」
「いいだろう!」
生がいいそうなのでケンが笑顔でバリッと衣服の前を開き、ギュムとカグヤを抱き締めた。逞し過ぎる胸筋に顔を埋め、カグヤが打ち震え奇声を上げる。
「ンハァ~ッッ! これが! 生の! 生のッッ! 雄っぱいの感触……ッッ! 我が現人神の胸毛ェッ! 此処が約束の地かぁぅうおぉおおおお……!」
「漲っているようで何よりである!」
やや感動の見送りとずれ始めたが、何か元気出てるみたいだし良いかあ――と眺めていたリョウが全てを許した顔で頷く。
「リョウ殿どうする! リョウ殿は誰とハグする!」
「えっ、別に僕は――いや、ええ、じゃあカイさんでお願いします!」
「分かりました!」
指名にカイがバッを両手を広げた。リョウも素直に飛び込み固く抱擁を交わす。
「リョウ、応援してますからね。頑張って来て下さい」
「ありがとう、カイさん! 僕ら絶対戻るからね!」
「はい、御帰りをお待ちしておりますよ」
決して生ではない友情ハグを交わし、全員の準備が整ったのを見計らってファナティックが声を掛けた。
「では、突入組は搭乗して下さァいっ! 応援組は床の線より入らぬよう!」
観測用のモニター付近には白線が敷かれており、その先は突入の為の整備場かつ管制室のような感じで天使達が慌ただしく働いている。仲間達全員から声援を受け、突入組の四人がヘルメットを被って白線を越える。そのまま誘導に従ってポッドに乗り込んでいった。
「ガンナー、操作は?」
『問題無い。おら、全員座れッ! ちゃんとベルト締めろッ!』
『はあい!』
『へぇ!』
『はひぃ!』
映像は未だだが、マキナ神の問いかけにモニター越しガン達の音声が聞こえた。
「世界樹に突入するまでは、此方からも観測出来るし音声通話も出来ると思う。そこから先は分からない」
「ですねェっ! 中では臨機応変にお願いしますゥっ! 転移装置が起動されたら此方でも感知は出来ますので、戻る時の連絡云々は大丈夫ですっ!」
『了解した』
中でガンが色々弄っているらしく、家位の大きさの突入用ポッドが、徐々に各所点灯していく。伴いマキナ神の指示で、巨大クレーンがポッド自体を移動させてゆく。移動先、床の開口部が大きく開いて下には銀河の煌めきが見えた。
「あれは?」
「次元の狭間です。まずあちらにポッドを落として、其処からロスト・ワールドの封印近くまで転移します」
「成る程」
カピモット神も英雄達と同じくモニター前に集まっている。今何が行われているかの解説を受けながら眺めていると、カウントと共にクレーンからポッドが切り離され次元の狭間へと落ちてゆく。
「おお、行ったの~!」
「あちらの開口部が閉じた後、30秒で転移です。其処からですが……」
「わたしたちも、ベルも、タツもしっかりみておけとオムニスさまが……」
「ふうん? “お勉強”しておけって事かしらね」
何をだろうかと思う間も無く、モニターに映像が点った。ポッド内臓のカメラからのものらしく、画面には次元の狭間が映し出されている。それがきっかり30秒で光に包まれ、次の瞬間違う景色に切り替わった。
「これが……せかいのふういん……」
「おお……」
画面いっぱいに巨大な『封印』が映し出されている。何か星のように大きく丸い物を強固に幾重に魔法陣が覆うような形だった。
「なんちう複雑な封印じゃ。ちっとも理解出来ん!」
「相当強固な封印よ。絶対に病原菌を外に漏らすまいという感じ」
「はい、あの世界の神の全力で組まれた封印だと思います。そして今からあの封印の外に、オムニス神が予備封印を敷きます」
話している内、新たにモニターが現れた。予備封印を観測する為のものだろう、封印近くの次元の狭間が映し出されている。
「では始める」
管制室の方で別モニターを見ていたオムニス神が、目を閉じ何か操作するよう手を動かし始めた。同時、ベル達の見ているモニターの方にも変化が表れる。
「ちょ……」
「うわ」
「ひえ……」
「わ、わあ……」
途端、確り見ておけと言われた四人から何ともいえぬ声が上がった。
「何だどうした?」
「い、いえ……凄すぎて……」
ケンが訝しむが、画面から目が離せずにカピバラの神が呆然と呟いた。モニター内では封印ごとロスト・ワールドを包むように予備封印が既に生まれている。
「あの、えっと……わたしたちに、まなばせようとおもってみろとおっしゃったとおもうのですけど……っ、すご、すごすぎて……っ」
「何が何だか分からない。凄い事しか分からないといった感じよ……!」
「儂ら逆立ちも出来んのに『見て学べ』言われて見せられたのが難易度クソ高の超絶曲芸絶技みたいなもん~!」
「タツさんの説明が一番分かりやすかった!」
何が何だか分からない内に、管制室の方から聞こえる声によるともう第三予備封印まで構築されているらしい。
「流石オムニス様ですね。こんなに正確で緻密な封印をこの短時間で」
「はっ、ニンアナンナ神……!」
気付けばニンアナンナ神も此方に合流し、同じようにモニターを見ている。
「ニンアナンナ神から見ても凄いのか?」
「ええ、凄いですよ。同じ事をしろと言われたらわたしでは三日ほど掛かるでしょう。マキナ神でも一時間は要するんじゃないかしら」
「三日掛かっても出来るは出来てしまうんじゃな……!」
「丸付きとそれに近いレベルの神本当えぐいわね……っ!」
「うう……っ」
「うう、いつかおいつくんです……っ!」
ベルとタツ――はまだ青褪めても平静だが、カピモット神が沈痛に顔を覆った。それを見てニンアナンナ神が微笑み、幼い神達を撫でる。
「大丈夫、あなた達もちゃんと学んで成長すれば出来るようになりますよ」
「はいぃ……!」
「はい……っ!」
励まされ、今は分からずとも目に焼き付けておこうとモニターに再び視線を遣った時だった。管制室の方から『予備封印全て展開完了。オールクリア、異常無し。ロスト・ワールド封印の解除と時間停止解除手続きを同時に行います』と聞こえて来た。その瞬間、全員がハッとする。
「いよいよか」
「ええ、此処からが本番ですよ」
ニンアナンナ神の言葉に全員が口を引き結び、じっとモニターを凝視した。星に幾重の封印を巻いたような所に、針のように光が差し込まれる。差し込まれた先から封印が解けてゆき、ポッドが通れる程の穴を生み出した。
「開いた。通って良いぞ」
『了解』
管制室の方からやり取りが聞こえ、そのまま一同は封印内へと入ってゆくポッドを見送った。
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