519 おれのトーチャンはすげえ
「ちょっとォ~っ! 少し目を離したらこれですっ! 何してるんですかァっ!」
「やべえファナティック来た! 黙認されてねえ!」
「拙いな! 止めろ止めろ!」
目を三角にしたファナティックが駆け込んできたので、慌ててオムニス神とガンが通せんぼした。
「ははは、急に君を抱き締めたくなったぞファナティック! ははは!」
「おれも何でか知らんが今急におまえを抱き締めたくなッた……!」
「こんな事で誤魔化せると思わないで頂けますゥっ!? 絶対やると思ってたっ! 絶対やると思ってましたァっ! んも~っ!」
前後からオムニス神とガンに抱き込まれたファナティックがじたばた暴れた。
「何、少し我が子の装備の調子を見ていただけだ」
「何が見ているだけかっ! 現在進行形で手ェ出してるでしょうがァ……っ!」
「出してない」
「その嘘が通用すると思ってるなら逆に怖いっ! いいから見せなさァいっ!」
「マキナ、もう良いか?」
「後少し……」
そのやり取りを見、ガンがハッとする。
「おいファナティック、まさか議会以外で神との接触が禁じられてるのッて――」
「そのまさかですよォっ! 愛してやまない我が子達と会える機会なんて滅多に無いですからねェっ! 規制しておかないとこうしてすぐ大盤振る舞いを……っ!」
「おおおおれからは強請ってねえぞ!」
「そんな事は分かってますゥっ!」
暴れている内に、マキナ神が作業を終わらせ後ろ手でナイナイした。そのタイミングでやっとオムニス神がファナティックを解放する。
「出してない」
「今はねェっ!? 直前まで出してましたからねェっ!? というか本当アナタ達丸付きの自覚もっとちゃんと持って下さいィっ! 下位の神ならまだしもアナタ達の『ちょっと親馬鹿』はちょっとじゃないんですよォっ!」
「失敬な! 今回我は何もしていないぞ!」
「出してない」
「ンギーッ!」
こんなキイキイ怒るファナティック初めて見た面白え~と思っていると、気を取り直したのか盛大にフンッと鼻を鳴らし戦闘機に向き直った。
「チェックはしますよっ! やり過ぎてたら復旧没収しますからねっ!」
「ははは! マキナ渾身の改造を君に復旧出来るかな!?」
「大丈夫だ。君が来るのが早過ぎて、思ったよりはやっていない」
「黙らっしゃい時間が掛かろうが復旧してやりますよォっ! というかやっぱ手ェ出してんでしょうがァっ!」
「やりたい放題じゃねえか。外部顧問が必要な理由がよッく分かったぜ……!」
「でしょォっ!? 吾輩も苦労してるんですよォっ!?」
接触禁止のみならず、神以外の外部顧問が必要な理由もたった今よく理解した。『んも~!』しながら、ファナティックが戦闘機を調べている。
「ええと、一応なんか、防御ユニット付けてくれるッて話だったけど……」
「それはラスボスで取っておきまショうねェっ! マキナ神、何故全体に対次元コーティングを施したのですか」
「この子の進化次第では機体の性能や耐久不足が出て来る。時空間歪曲型でも亜空間推進でも量子特異点移動でも、どのような状況でも瓦解しないようにしなくては装備と言えないだろう」
「…………」
聞いていて防御ユニットがラスボスなのをガンも理解した。トーチャンは確実に“やって”いる。
「では対神コーティングは?」
「この子は魔法耐久値が低いからその補助に」
「エンジンと出力機関も弄りましたね?」
「弄ったという程では――精々性能が40%向上する位で……」
「やッてんな……トーチャン……」
他にも細々ファナティックが詰めてゆく。どうやら防御ユニット以外にも全体的にアレして最早それは別機体であろうというレベルのチューンを施したらしい。
「ま、まあ……この位ならば良いでしょう……良くは無いですけど良いでしょう……っ、基本的に星落としの今後の進化に対応する為の物ですしね……っ」
「渋々感がすげえ……! いや分かるけど……!」
「けどコレは駄目ですゥっ! 何ですかこの防御ユニットはっ!」
ついにファナティックがラスボスたる防御ユニットを指差した。『元の戦闘機に追加パーツを付けました!』という感じでデザインは損ねていないし寧ろちょっと羽が増えて格好良い。だがファナティック判定ではアウトらしかった。
「何処が駄目だろうか?」
「脳波コントロールの分離変形式防御ユニットなのは別にいいですっ! 素材も――まあ素材は目を瞑るにしてもアイギスシステム仕込んだでショうっ!」
「最新版ではなく、不完全な初期版だが……?」
「初期版だからって良い理由にはなりませんっ!」
マキナ神がファナティックに大層キレられている。それを横目、説明を求めてオムニス神を肘で突いた。
「なァ、アイギスシステムってなに……?」
「アイギスという神の盾が古来よりあるのだが、その名を冠したマキナ独自の防御システムだな。基本的に不壊であるから、搭載出来れば便利だと思うぞ」
「いやそれは怒られるだろ……不壊て……」
「いやいや、あくまで基本的にだ。初期版は我が全力で殴れば壊れる。最新版はまだ壊せておらぬが、その内必ず壊してみせる……! 我が壊してやらねばマキナの進化も止まってしまうからな……!」
「そりゃあんたの全力以下なら壊れねえッて事だろうが……!」
尚そのシステムは天界の防備や試験場で大いに活用されているのだという。それは初期版とはいえファナティックもキレるだろう。貰う側のガンですらやり過ぎだと思って口を開こうとしたその時である。
「ファナティック」
「何です」
「何故わざわざ分離変形式にしたと思う」
「分離変形恰好良いからですか?」
「それもあるが違う。我が子以外を守るのに使えるからだ。ジスカールといったか、君が弟子にしたがっている人間は確か不死身とはいえ脆弱だろう」
「………………………………」
ファナティックが物凄く長く黙った。ガンが『あー』と思って口を閉じる。
「それに初期版を搭載したとはいえ勇者の盾ほど守備範囲が広い訳でもなし、あちらの世界で試せば更なるデータも得られる。我が子は優しいから、脆弱なジスカールの事も守ってくれるだろうし」
「お、おれ……ジスカール……まもる」
「不死身頼りというのも考え物だぞファナティック。溶岩に放り込まれでもしたら不死身であろうと中々面倒だ」
「その為にウルズスが居るんですけどねェっ!?」
熟考していたファナティックが畳みかけにまたキレた。が、それ以上は続けずフイと踵を返す。
「ああもう! こんな親馬鹿に巻き込まれてなるものですかっ! 吾輩見なかった事にしますっ! 一切無関係ですっ! いいですねっ!?」
「ああ、君に迷惑は掛けないようにする」
「うむ、我も何も見ておらぬ!」
「ワァ……」
プンプンしながらファナティックが戻っていくのを見て、何とも言えない顔で神達を見た。二神が目を合わせて『いけたな』という感じで笑っている。
「ほんと無茶苦茶しやがる……おれは助かるけどさァ……」
「普段はしないよ。私はどちらかといえばお行儀が良い方だ」
「うむ、普段のマキナは優等生である」
「お、おう……」
その優等生が我が子を前にすると、羽目を外し無茶苦茶してしまうのだ。それは規制も敷かれる訳だ――と改めて納得しつつ、その愛に深く感謝した。オムニス神の全力をケンが超えるかは分からないが、ひとまずこれまで苦労してきたとんでもないレベルの攻撃を防げるというのは有難過ぎる。
「……おれのトーチャンは凄えなァ。あんたがおれのトーチャンで本当に良かった。ありがとう、言葉にならんくらい嬉しい」
「ふふ、私も君の父であれて本当に嬉しいよ」
改めて戦闘機の出来を眺め、父たる神に感謝を告げた。満足そうなトーチャンと笑み合い、たっぷり感謝を伝えてから――リョウの所へ戻る。
まあまあの時間一人にしてしまって悪かったなと思いリョウを見ると、まだぴったりパイロットスーツの女子達を眺めていた。何ならガンが戻った事すら気付いていないかもしれなかった。
「おいィ! おまえはおまえで凄えな……!?」
「えっあっガンさんおかえり!? いつの間に!」
そんな感じで午前の調整と準備は進んでゆき、じきに昼を迎えた。
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