51 六人目
リョウの予兆から数日。ついに白い柱が立ち始めた。
「あっ、出てる! 柱出てるよ……!」
夜明け頃に起き、それを発見した。慌てた声に他の三人も起き出してくる。
「おお、寝てて気付かんかった……!」
「ふぅむ、このペースだと到着は明日の早朝位だろうかな」
「これが本来の光の柱なのですねえ……」
「そっか、カイさんちゃんと見るの初めてだよね」
未だ遠いが、山頂へ向けて天から白い光の柱がゆるゆると伸び始めている。
大体丸一日掛かって地表へ到達するから、六人目に遭遇できるのは明日の早朝となるだろう。
「えー、ドキドキしてきたね……!」
「明日は早起きしてお迎えに行きましょうねえ……!」
「案内だとかで時間取るだろうし、今日の内に出来る仕事はしとくかあ」
「そうだなあ」
朝食と朝の修行を終えると、手分けして今日の作業を行っていく。
ツリーハウスの一階部分はほぼ完成し、後は細かい内装を残すだけだ。
大樹をぐるりと囲む形でドームハウスが建ち、厨房にはきちんと組み上げたレンガのコンロや窯が並び、調理台やカウンター、食器や食材を置ける籠や棚まで完成している。洗い場や水溜め場も作り、竹のパイプで水を引き込みいちいち汲みに行く手間も省けるようになった。
厨房の隣には食堂スペースが設けられており、大きなテーブルに今は六脚の椅子が並べられている。今後増えていくだろう事を見越して、明らかに椅子の数よりテーブルのサイズが大きい。
更に隣のスペースは板張り床で一段高くされており、寛げるリビングスペースと作業スペースを兼ねるようになっていた。竹編みのマットや長椅子が置かれ、転がって寛ぐ事も出来るし、棚にはケンの倉庫の本や小物作りの材料などが置かれていて、細かい仕事も出来るようになっている。
更に隣にはいずれ二階へ繋げる螺旋階段を作る為のスペースがあり、更にその向こうには農具や色んな道具をしまっておくための倉庫ゾーンがある。
更に向こうにはまだ手付かずのスペースがある。将来的に貯蔵庫や作物の加工ゾーンなどを作る予定だ。更に向こう――辺りで大樹をぐるりと一周する。
最後のゾーンには仕切るように布が垂らされ、捲ると昼寝用の二対のハンモックと、その向こうに厨房が見えていた。長く掛かる煮炊きの時など、横になりながら火の様子を見守れる優れものである。
このように数日で一階部分はほとんど完成していた。
昼食で集まると、午後の相談をする。
「午後は何すっかな。二階に手付けちまうと途中になりそうだしなァ」
「そうだなあ、二階用の建材や家具を作ってもいいが場所を取るかな……」
「あ、それでしたら……」
「はい、カイさん」
もじもじとカイが挙手するのでリョウが指す。
「折角なので、おしゃれを作るというのはどうでしょう……?」
「おしゃれ……」
「おしゃれとな……?」
「はい。今の状態でも十分生活していく上では困らないし素敵なのですが、折角なのでもう少し手を掛けておしゃれにしてみてはどうかと……」
「ふむ、具体的には?」
「そうですね、竹や土器に花を植えて吊るしてみたり、おしゃれなランプを作って置いてみたり、ツリーハウスの一階に限らないのですが、村を仕切る小道の方にも花を植えてみたり、おしゃれな柵や花壇を作ってみては……と」
「おお、すげえ。なんか聞いただけでおしゃれな感じするわ」
「花を飾るっていう発想は無かったな……! 素敵かも……!」
「成る程、確かに村の方に飾り気は無いしな。良いのではないか?」
「どの道今後、生活スペースが増える上で持ち運べる明かりも必要ですしね」
「いいと思います!」
「おれも~」
満場一致で午後は村をおしゃれにする事になった。
カイとリョウが周囲から綺麗な花や植物を集めてきて、花壇を作ってみたり、土器の竹のプランターに植え替えて一階に吊るしたりテーブルに飾ってみたりする。
ケンが水晶やら石を切ってオイルランタンを作り、ガンは竹を刳り貫いて洒落たランプシェードや竹編みのランチョンマットを作って飾ってみたりした。
午後じゅう使って、中々村がおしゃれに仕上がる。
「おお……なんか、凄く良くなったんじゃない……?」
「へえ、ちょっと飾ったりするだけでこんな変わるのか……」
「何だか良い感じの南国リゾート風になりましたね。六人目もいらっしゃる事ですし、歓迎感もあって良いのではないでしょうか?」
「うむ! 見違えたぞ!」
ケンがついでとばかり、倉庫にあった無用な高級置物をリビングの棚やそこらに設置していくせいで、南国リゾートが高級南国リゾート風になりつつあるが、全体的にとても良い感じだった。
「ケンの倉庫の整理も出来て丁度いいじゃん。おれも個室出来たら何か飾ってみよっと。草とか」
「草って。聞くまでも無く今までのガンさんが暮らしてた部屋って何も無かったでしょう……!」
「どうして分かる……!?」
「分かるし見えるよ……! 殺風景な部屋にベッドだけぽつんと置かれている様が……! 私物引くほど少なそう……!」
「超能力者か……!?」
ガンが慄く。カイが痛ましいものを見る顔をする。
「ではガンさんの部屋は完成したら俺が飾ってやろう!」
「ああ、いいね……スパとか見ても、ケンさん意外と趣味良かったし……!」
「意外は余計では?」
「あっつい……すみません……」
「ガンナー、私も素敵なお花の鉢植え作ってあげますからね」
「おー」
何か分からんが、皆が飾ってくれるというので任せる事にする。
「そう、倉庫の整理といえばな! 大量の肖像画があったろう? 確か裸婦画も混ざっていたから、リョウさんやカイさんがおかずに欲しければくれてやるが!」
「ええっ……!?」
「ッッッ……一瞬食いつきそうになったけどそもそも裸婦画を個室に飾るのどうかと思うし、そもそもあの肖像の女の人達って全員ケンさんの奥さんか愛人か子供か孫か子孫親戚でしょ……!? 流石に気まずいって……!」
「うむ、半分以上はもう覚えておらんがな……!」
「覚えていないにしろそれは気まずいですよ……! 却下で……!」
使い道の無い肖像画達は今後も倉庫で眠る事になった。
その後は早めに夕食を済ませ、明日の早朝に備えて眠る事にする。
* * *
翌朝。夜明けより少し早いまだ暗い時間、全員目覚めると山頂へと向かった。光の柱はもう山頂にくっつきそうな位伸びてきており、着く頃には丁度出迎えが出来そうだった。
「カイさんの時は――だけど、柱が山頂に着くとさ、魔力が周りの柱とか地面の魔法陣に浸透して、術の完了っていうか接続完了っていう感じなんだよね。そうすると、柱が霧散して中から人が……っていう」
「ふむふむ」
「リョウの時もそうだったぜ」
「うむ、ガンさんの時もそうだ」
「ではこれが通常通りの異世界送り――という事なんでしょうね」
山頂に辿り着き、今にも地面に触れそうな光の柱を見守る。
リョウの説明通り、触れた途端に白い魔力が広がり魔法陣と周囲の柱に接続。強い光を一度眩く放ち、収まると完全に光の柱が固定された。
「この一瞬だけさ、ちょっとシルエットクイズみあるよね」
「分かる」
光の柱の中には言う通りシルエットの人物が透けて見えており、最初に反応したのはケンだった。
「む……? まさか……?」
「お? どした?」
ガンから見ると、不思議なシルエットだった。三角に伸びた頭に、やたらと凸凹したシルエット。下半身だけ意味が分からないほど大きい。
「えっ……」
「そんな……まさかでしょう……」
ケンほど大きくはない。不思議なシルエットだ。
怪訝にする内、リョウとカイまでざわつきはじめる。
「……なんだ?」
分からないまま、柱が霧散してゆき――――ついに六人目の姿が露わになった。
「じょ、」
それで漸くガンも理解する。
「女子…………!」
其処に居たのは、まごう事無き女子であった。
とんがり帽子を被り、裾の大きく膨らんだドレスを纏う――物語に出てくる魔女のような装いの女子であった。
絶句する四人。その気配に、“魔女”がゆっくりと振り向く――――。
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