512 アイドルコミュ障因縁
「次はミコー神ですね」
「ベルを対戦相手に希望している神様ですね。どんな方なのでしょう」
「ミコーさまはげんきいっぱいですごくかわいいかたですよ!」
「はい、若い男性神からの人気も高いです」
「おっと……アイドル枠でござるか……!?」
「……ふうん?」
ベルが明らかに『アイドル枠の小娘か』という苛つき顔になる。
「ミコー神の属性は『神・風・光』です。魔法はあまりお得意ではないのですが、その分身体能力に優れておられます。二神の仰る通り、元気で可愛い方で若い男性神からの人気が絶大です。天使の中でファンクラブもありますよ」
「天界にもファンクラブってあるんだ……!」
「いや~これはベル殿~! アイドル気取りの小娘を叩き潰さねばならんのではないかの~!?」
「そうね。考えておくわ」
気に喰わないという感情を隠さずベルが頷く。これは対戦が実現したら酷い戦いになるな……とこの時点で大体の者が思った。
「次はウンブラ神です。属性は『神・闇・霊』となっておりまして――」
「闇系の神ってどんなだ……!? 邪神的な……!?」
「ウンブラ神は全然邪悪じゃありませんよ。控えめで大人しい方です」
「いみはわかりませんが、ほかのかみさまがコミュしょうだっていってました。どういういみですか?」
「コミュ障……控えめ……大人しい……」
前情報で邪神系ではなく何とも根暗そうなイメージが湧いた。
「根暗だから闇系……納得出来るな……」
「霊属性もあるから呪いとか使ってくるんじゃね?」
「ウンブラ神は魔法がお得意ですよ。運動神経はあまり良くないイメージです」
呪いとは言わなかったが、ポチャリエルが深く頷いた。
「で、次のイグニス神は対照的に華やかな方ですね。属性は『神・火』となっておりまして、大分激しい方なのですが――そこが可愛いと感じるらしく、結構女神人気がありますね。天使の中でもファンクラブがありますよ」
「天界ってキラキラ清らかなイメージなのに、結構俗っぽいって言ったらアレだけどそういう人気とかファンクラブとか普通にあるんだねえ……」
「どの神話でも色恋沙汰や痴情のもつれなんかあるからね。そういう意味ではイメージ通りなのかな……?」
この感じだとファンクラブはひとつやふたつじゃない。やや遠い目をするリョウにジスカールが頷いた。それを見てマーモット神が『うふふ』と口元を隠す。
「イグニスさまはかっこいいのですよ! びせいねんです!」
「タッちゃんこれはアイドル気取りの小僧ちゃん叩き潰さないといけないんじゃないの~!? 火属性だし~!?」
「やぶさかではない~! と言いつつ正直一番弱い所と当たりたい~!」
「ちなみにイグニス神は文武両道系です」
ひとまず残りの三神もどんな感じか聞いてみる事にする。
「次はソロル神ですね」
「出た、ジスカールさんを好みだからって指名してる神様……!」
「ちょっと何よそれ聞いてないわヨッ!」
「ええ……」
「ソロル神は天界でも珍しい二柱でひとつの神です」
「……? どういう事……?」
ちょっと意味が分からなくて皆首を傾げる。
「ソロル神は姉妹――というか、肉体はふたつで心はひとつという感じで……?」
「……? 結合双生児みたいにくっ付いてるって事かしら?」
「いえ、にくたいはぶんりしてふたつです」
「それはつまり二人居るって事なんじゃ……」
「完全に同じ思考の精神を持った姉妹、と思って頂けると一番しっくりくるかと……?」
「やっぱ二人じゃん!」
どうしても二人じゃないかと思ってしまうが、天界に於いては姉妹セットでひとつの神として扱われているそうだ。
「ちなみに属性は……?」
「ソロル神の属性は『神・魔・霊』です。……何というか、言葉を選ばずに言うなら好色な神様ですね。これまで色んな浮名を流してらっしゃいます」
「ハァ!?」
ポチャリエルが恥ずかしそうに言うが、ジラフが目を剥いた。
「ダメダメダメ! 絶対ダメ! ジスカールちゃんと破廉恥姉妹なんか戦わせられないわヨ……ッ!」
「けど相手二人なんじゃろ? ジスカール殿とウルズスもセットじゃし、一番無難っちゃ無難だわな……?」
「逆にジスカールさんが骨抜きにしてやったら簡単に勝てるんじゃ……!?」
好色情報に皆がざわついたが、最後まで聞かなければオーダーが決められない。全員微妙な顔で次を促した。
「次はペルナ神ですね。属性は『神・地・機』となっておりまして、天界でも有数の“守り”を誇る御方です。オムニス神のお弟子でもあります」
「ペルナさまはおーっきくてちからもちなんです!」
「私達のような下位の神にもお優しい、質実剛健な方ですよ」
「属性の時点で大分硬そうですし、これ絶対普通に強い方ですよね……」
「15芒星で先鋒は兎も角、他より格上だしなァ……」
今度は正統派に強そうなので、別の意味で皆が唸った。
「最後はどういう神なの?」
「はい、最後はキトー神です。そのう……」
「……?」
ポチャリエルが迷うように視線を彷徨わせ、カピモット神も言葉を選ぶように眉間に皺を寄せる。皆が怪訝そうにする中、ジラフが肩を竦めた。
「アタシの世界の神サマよ。元神サマって言った方が良いかしらネ!」
「えっ、そうなんだ……!」
「そ! 細かい事情は省くけど、アタシが世界を出るタイミングで神様交代してるのヨ。ケンちゃんみたいにちょっと因縁があると思ってくれていいわ」
「ふむ、そうか」
皆が納得してポチャリエル達に先を促す。
「キトー神はユースティティア様のお弟子で、若手の神々の中では筆頭クラスの実力をお持ちです。属性は『神・星』で――」
「ユースティティアって誰だ?」
「今はお譲りになっていますが、前議長を務めていた丸付きの偉大な神様ですよ」
「ユースティティアさまは、わたしたちからするとくものうえのおかたです……」
「そう言われるとお弟子さんとはいえやばそうな気がしてくるねえ……」
天界にも派閥はあるそうなので、聞くからに相当大きい一派だろう。ともあれこれでひとまず出揃って、皆でオーダーを相談し始める。
「アタシがキトー神でいいわヨ。どうせあっちもそのつもりだろうしネ」
「まあ大将はケンさんかジラフさんが妥当だろうけど……」
真っ先にジラフが名乗り上げ、特に反対する理由も無いので採用された。因縁的にも強さ的にも妥当だ。
「というか問題はクリュソス神……」
「まあ俺だな。他の芒星数を見る限り、クリュソス神が別格過ぎる。他の者を据えて一撃で殺されては流石に寝覚めが悪い」
「それ普通にあり得ますからね。丸付きは……」
結局ケン以外では勝負にもならないだろうという事で、クリュソス神はケンが担当する事になった。
「わたくしもミコー神でいいわよ」
「おっ、アイドル気取りの小娘を潰しに行くんじゃな!?」
「それもあるけれど、売られた喧嘩を買わない時点でゴミカスゲロ女に何を言われるか分からないのよね……っ!」
「ミコー神のお師匠と薔薇の魔女さんが仲悪いんだよね確か……」
「そう……これは負けられない戦いなのよ……」
ベルが沈痛に引き受けたので、残り四枠となった。
「儂一番弱い神が良いんじゃけど~!」
「おまえも神属性持ッてんだから強いとこ行けよ……!」
「うむ、タツさんはイグニス神だな」
「そいつ十三芒星じゃけど!?」
「イグニス神の属性が『神・火』なのだ。タツさんは『龍・水・聖・神』だから、まあ良い勝負になるのではないか?」
タツが滅茶苦茶嫌そうにポチャリエルの記した一覧を確認した。
「十芒星のウンブラ神とかソロル神じゃいかんのか? 十芒星じゃし……!」
「ウンブラ神は『魔・闇・霊』のカイさんだ。同属性だが、その分攻撃を半減できる故――ただでさえ神属性の特攻があるからな。後運動神経が良くないらしいから、カイさんが第二形態で殴れば属性不利も何とかなろう」
「すっそっ」
「あまりごねると十五芒星のぺルナ神を担当して貰うが?」
その一言で青褪めたタツが黙り込み、イグニス神の対戦相手も確定した。
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