511 オーダー
「クリュソス神が先鋒って……!」
「ちょ……絶対に戦うという強い意志を感じる……!」
「確実に最初に一勝するという考えなのかもしれないけれど、無いわよ……!」
「こっ、こここっ、これってケン氏が相手するのでござるか……!?」
「此方のオーダーは出揃ってから皆で考える。続けよ」
難しい顔をしたケンが先を促す。頷き、ポチャリエルが続けた。
「はい! 次鋒はミコー神です。お印でいえば十二芒星、若手ですが華やかな活躍で注目されつつある女神ですね。ちなみに対戦相手の希望があるそうでして――」
「希望だと?」
「はい。出来ればベル様と対戦したいと……」
「わたくしと? 何故かしら……?」
聞いた事のない神だし会った事も無いだろう。怪訝に眉を顰めると、実に言い辛そうにポチャリエルが口をむぐむぐさせた。
「そのう……あのう……恐らくですけどぉ……ミコー神の師匠であるドミナ神がですね、少々紅薔薇様と因縁が御座いまして……?」
「あのドブカスクソ女がなんですって?」
「ひえ! その……恐らく、恐らくなんですけど、お弟子対決かなあと……?」
「ドブカスクソ女に対する溜飲を弟子同士の対決で下げようって腹ね!? 直接だとあの女に敵わないんでしょうね!? よぉっっっく分かったわよ……!」
「わたくしめはそこまで言っておりません……っ!」
ポチャリエルがわがままボディを縮めたが全然縮んでいない。こめかみを明らかにビキらせながら、ベルが『どうぞ続けて』と促した。希望があろうが、ひとまずオーダーを全て聞かなければ返事など出来ない。
「あの、ちなみに十二芒星ってどの位の強さなんだろ……?」
「お印は強さだけで決まる訳ではないので一概には言えないのですが……」
「えーとじゃあ、丸付きだと数字は幾つ位になるの?」
「成る程、丸付きと比較しましたら丸付きを『101~』として十二芒星はそのまま『12』と考えて頂ければ良いかと! 基本百芒星の次が丸になっております」
「お、おお……」
丸が付いて日が浅いクリュソス神を『101』として、ミコー神が『12』なら大分ハードルが下がった気になる。
「ちなみに神々の最下位は五芒星となります。それ以下の図形、四角や三角はまだ見習いの神様のお印ですね」
「五芒星の神様でレベルってどの位なんだろ……?」
「LV9000は超えていらっしゃいますよ。五芒星を得る必要条件ですので」
「ちょっと雲行き怪しくなってきたでござるな……?」
丸付きがケンの見立てで何万何十万何百万になってしまうから換算できない――からの最下位である筈の五芒星がLV9000である。
「これ確実に十二芒星でもLV何万とかあるよね?」
「ベル氏ってレベル幾つでござった……?」
「9000後半だったと思うけど?」
「これ対戦相手おかしくなぁい……?」
「まあレベルが高くとも戦闘が得意かどうか、という所もあるだろうしな」
ケン以外が微妙な顔になりつつ、ひとまず先を聞いてみる事にした。
「次鋒の次、五将はウンブラ神です。十芒星、これまた若手の神様ですね」
「あっ、何かクリュソス神以外は十前後で僕らとバランス取ってる感じなのかなこれ……?」
「まあ、いえ、はい……」
「これ後でレベル高いの出て来るぞ……!」
名前を聞いた所でどんな神かは分からない。のでひとまず全て聞いてみる事にした。詳細は後でカピモット神に聞けば良いだろう。
「中堅にイグニス神、三将にソロル神、此方も十三芒星と十芒星です」
「後は副将と大将か」
「はい。副将にペルナ神、大将にキトー神となっております。ペルナ神が十五芒星、キトー神は二十芒星です」
「副将と大将はちょっとやばそうな……」
「後ですね、三将のソロル神も対戦相手の希望があるそうで……」
読み上げた後、また申し訳なさそうにポチャリエルが縮まない身を縮めた。
「え、誰……?」
「ジスカール様とそれはもう熱烈に対戦したいそうです」
「いや待ってさっきとニュアンス違うでござる」
「ミコー神は出来れば対戦したいって感じだったよね……!?」
「はい、その、議会でお見掛けして一目惚れというか大変好みだったそうで……」
「ジスカールさん天界でもか……ッ!」
「ちょっとその希望はジラフどん次第で添えねえかもしれねえな……!?」
ともあれオムニス神側のオーダーはそれで確定なようなので、ポチャリエルにカピモット神を呼ぶように伝え、後は皆の帰りを待つ事にした。
* * *
そして夜、夕食後。リビングに全員集まりオーダー会議を始めた。カピモット神は勿論、神達の情報提供係としてポチャリエルも同席している。
「こっ、これは中々の布陣ですね……!」
「クリュソスさま……クリュソスさまが……います……っ」
オーダーを見たカピバラの神が唸り、マーモットの神は青褪めた。ちなみに二神に刻まれた印は七芒星と六芒星である。
「ひとまず神の情報が分からねばオーダーが組めん。カピモット神もポチャリエルも出せる情報は全て出すように!」
「は、はい……」
「はいっ」
「はい! わたくしめも同僚達に聞き回り情報を集めて参りました!」
「おお、いい仕事するじゃねえかポチャリエル……!」
不在の間、ポチャリエルは同僚達に出場予定の神達の事を聞いて回ってくれたようだった。その手元には分厚い紙束がある。褒められるとはにかみつつ、英雄達を見渡した。
「……天使達の多くは、所属もありますので大っぴらには出来ませんが、皆様を応援しているんです」
「え! そうなの!?」
「はい。救出作戦を皆様が断っていたら、何千何万の天使が犠牲になった事でしょう。皆様は命の恩人です。天使達は本当に感謝しているのです」
「あ、ああ……!」
物凄く納得出来る理由だったし、これは心強い。
「それにカピバラ神とマーモット神は、天使達に優しくして下さるので評判が良いのですよ。そういう意味でも陰ながら応援が集まっております」
「え、そうなんですか? うれしいです……!」
「わあ、嬉しいです。ありがとうございます……!」
深刻な顔をしていた二神だが、思いがけない言葉にぱっと笑顔が出た。
「じゃあまず、ちょっとこわいですけどクリュソスさまから……っ」
「そ、そうですね……クリュソス様から……」
「歯切れ悪ィな。そんな怖いのか?」
「此方の二神は英雄達の世界に就任した直後から、クリュソス様に睨まれておりますので……その……若干のパワハラを受けておりまして……」
「そっちかよ……!」
天界にもパワハラは存在した。
「神どん達……っ! おら達の知らねえ所でそんな御苦労を……っ!」
「だ、大丈夫、大丈夫です……! ただケンの海上都市のコピー許可を取りに行く時は本当に怖かったです……っ!」
「にらまれただけでいしになっちゃうかとおもいました……っ!」
「わはは! すまん!」
「ケンちゃん! それだけで済ませるのは悪いわヨッ!」
ともあれ情報を聞く事にした。
「ええと、クリュソス様はそんなに親しくないので詳しい訳ではないのですが……丸付きなのでそれだけでもう、とてつもなくお強いかと……」
「なんでもできるってほかのかみさまがいってました……」
「クリュソス神は属性的には『神・星・霊』です。文武両道と言いましょうか、世界運営だけではなく戦っても大変お強い方ですよ」
「カピモットの坊ちゃん嬢ちゃんの情報薄くないかの~?」
「だって! すごくうえのかただから! ふだんあんまりせってんないんです!」
上過ぎる神の場合は天使達の情報の方が確かかもしれなかった。ポチャリエルが書類を捲り、更に続ける。
「魔法もお得意ですし、武芸にも優れています。死角無しと言いますか……」
「ふむ……」
「ケンちゃんを何処に置くかよね。クリュソス神にぶつけるか、それとも先鋒戦は捨てて他を勝ちに行くか……」
「そうだな。ひとまず全員分聞いてから決めるか」
流石に少し難しい顔になって、ケンが頷いた。
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