506 面会
「どうしたタツさん!」
「ラブレターじゃなかったのタツ!?」
叫んだタツが膝を付いてからの失意体前屈になったので、皆が心配して囲んだ。
「ク、クソッ……! 知っとった、知っとったあ~!」
震えながら手紙を差し出されたので、神語が読めるベルが受け取ったが――恐らく前のタツ世界の言語だろう、読めなかったのでジスカールに回す。
「えーと……読み上げるよ」
手紙にはたった一行、達筆の筆文字で記されていた。神眼で解読し、ジスカールが読み上げる。
「『貴方がお役目を果たしたその時にお会いします』と……一行……」
「あっこれ決闘裁判勝たないと会いませんって事?」
「負けたら会いませんって事ですかね?」
「彼女ちゃん分かってるわネ……! 会えるの確定した時点でタッちゃんが緩むの確定だから、勝たないと会えないって設定してるんだわコレ……!」
「クソアアアアアア……!」
タツが悔しげに今度は床を転がった。皆が哀れなものを見る目をする。
「まあタツさん! 発破を掛けてくれているようなものであろう! ギリギリラブレターと言って良いのでは!?」
「そうでござるよタツ氏! 絶対会わないと言われてる訳ではないので……!」
「つか面会求めても神側から断られるパターンあるんだな……いやあるか……」
「まあ双方の合意が無ければ成立せんからなあ……」
「議会で姿も見れとらんのに……っ!」
悔しがるタツは若干可哀相ではあるが、今この場でどうこう出来る事ではないのでひとまず解散する事にした。神達と隠者とは別れ、ポチャリエルの案内で議会場がある島内にある滞在中の宿泊場に移動する。
天界の建物とはいえ人型が生活する事を前提にしているので、外観は兎も角中身は意外と普通だった。清潔な白を基調とした『禅』っぽさを感じるデザインの宿泊施設だ。説明によると大浴場や食事処など、一通りのもてなしは揃っているらしい。人間界との違いは、人型以外の神や高次存在に対応した別館があるという事だった。
案内を終えるとポチャリエルも『何かありましたらすぐお知らせに参ります』と言い残して退室していく。やっと村人達だけになり、何となく全員ほっとした空気になった。
「ひとまず食事が気になる! 肉はあるのか! 肉は!」
「ケン、肉料理はあるらしいよ」
「おお! ならば良し!」
英雄達の拠点として、広いリビングを複数の寝室が囲む形の場所を宛がわれた。相談や全員で語らう際はリビングを使えという事だろう、テーブルを挟んで半円型のソファが向き合う形で置かれている。卓上にはウェルカムフルーツと宿泊施設のガイド冊子が置かれており、ジスカールが目を通していた。
「何となく肉って無いイメージだッたわ、天界」
「この冊子によると、神に供えられる物は大体提供出来るようだね。宗教によって、お供えは変わるから肉もあるんだと思う」
「ああ、そういう事かァ」
「神達はまた違う生活なのかもしれないが、少なくとも此処はゲスト用施設だから割と地上に近いもてなしが受けられるようだよ」
アメニティどころか着替えや下着まで用意されていて、本当に手ぶらで来て大丈夫だった。幸い館内着はローブではなく動きやすい上下だったので、何名かは早速着替えている。
「ケンさん、部屋割りどうする? 三人部屋がふたつと二人部屋がみっつあるよ」
「三人部屋に女子組とジスカールファミリーだな。流石に天界まで来て淫らな事はしないだろうから、恋人組は分かれて貰うぞ」
「する訳ないでしょうよ……!」
残りの二人部屋は順当に『ケンとガン』『リョウとカイ』『タツとトルトゥーガ』という内訳になった。窓の外を見ると夕陽が差し込んでいる。まだ体感で夕方にはなっていない筈だが、天界の空は色んな時間帯の空が混ざっていたからそのせいだろう。
「時間的に今は昼過ぎ位か?」
「そうだぞ」
天界の時計はよく分からないが、正確な体内時計を持っているガンが答えた。
「では夜まで自由時間だ。休みたかったり、今日の内に面会がある者も居るだろう。諸々済ませて寝る前に相談しよう。恐らくその位には、オムニス神側のオーダーも出るだろうからな」
「はぁい」
「おう」
『ぼく探検したい!』
「外は駄目だけれど、この施設内なら自由に出歩いて良いそうだよ」
ケンの号令で皆がそれぞれに過ごし始めた。タツはふて寝をし、ジスカールとジラフはウルズスの冒険についてゆき、ポチャリエルからの知らせで午後の面会予定が組まれた者は風呂に入って身なりを整えたりと準備をしている。予定の無い者も食事処に行ってみたり風呂を楽しんだりとひとまず満喫した。
午後になり、最初に救出作戦へ参加する予定のガンと神との面会が行われる事になった。ポチャリエルに案内され、宿泊施設を出て別の建物の中に入る。海上都市で見た美術館や博物館や、そういう何かの娯楽施設のような外見だなと思ったが――此方は宿泊施設と違って大分不思議な感じだ。
「此処は神々が交流や会合に使う場所なんですが、中々綺麗でしょう」
「何かすげえ。美術館と海が混ざったみてえだ」
天井を見上げると水底から見上げたように海っぽいものがきらきらとして、見た事のない魚が泳いでいる。色んな美術品らしきも飾られているし、途中幾つかの開いた扉の中を覗くとその先には屋内なのに森があったり花畑があったりした。幾つかの扉を過ぎ、ポチャリエルが立ち止まる。
「此方です。わたくしめは此処でお待ちしておりますので、御一人で中へどうぞ」
「お、おう……」
促され、閉じていた扉を押し開いた。中はまるでプラネタリウムのようだった。半球型の室内、天井と壁一面に美しい宇宙の映像が流れている。調度品の類は殆ど無く、広い円形床の真ん中に向かい合わせで椅子が置かれているだけだ。
――その椅子の片方に神が座っている。
「ええと、あんたが……?」
「そうだよ、さあおいで」
穏やかなのに、少し金属質な音の混じった声だった。手招かれ、おずおず近付いていくと神の造作が見えて来る。座っているが、メイ位の大きさに見えた。人と機械を融合したような異形の神だ。右手は人間と変わらぬもの、左手は皮膚が透明で中に歯車と銅線の組み合った“中身”が見える。全身そんな風に混ざっていて、此方を見て微笑む顔も半分人間で半分機械だった。
「初めまして、ガンナー。私の世界で呼ばれていた名より、新しい名前の方が素敵だからそう呼ばせて貰うよ。私と面会を望んでくれてありがとう」
「い、いや……おう……」
自分で面会を望んだものの、何を話して良いか分からない。頬を掻きながらぎこちなく向かいの椅子に座ると、改めて神を眺めた。
「あんたの名前は……聞いたら駄目なんだよな?」
「もう世界が違うから、そうだね。ひとまずマキナとでも呼んでくれたら良い」
「機械を意味するマキナか。あんたも機属性なのか?」
「機属性の強い神という認識で合っている」
神が頷く。自分が『人・機』属性だから、産まれた世界の神が機属性なのは何となく納得だった。
「ええと……そのさ」
「うん」
「自分の世界の神はどんな風だッたんだろと思って会ってみたかったんだよな。特に話したい事とか聞きたい事は無くて――いや……あるか、ある」
会ってみたいとは思ったがその先はあまり考えていなかった。困ったように言い訳する内、言う事があったのを思い出した。
「言いたい事がひとつと……聞きたい事がひとつある……」
「何かな、言ってごらん」
「おれを今の世界に送ってくれてありがとう。感謝してる。それは言いたかッた」
そう伝えた途端、機械仕掛けの神が何とも嬉しそうに笑顔を深めた。
お読み頂きありがとうございます!明日は大変忙しいのでお休みさせて頂き次回更新は明後日予定です!




