505 星取り戦
「ではまず。神法による決闘裁判ですと両当事者が決闘を行う一対一となりますが、それで宜しいですかな?」
「一度ではつまらぬな?」
「うむ、つまらぬ!」
ケンとオムニス神が言葉を発した瞬間、他の全員が沈黙した。隠者が一度瞑目し、それから深く頷く。
「先にお二人でご相談頂く方がスムーズでしょうな。後から皆でそれにケチを付ける形で宜しいですかな?」
「おいこいつ滅茶苦茶出来るジジイだぞ……!」
「ケチを付けるって言っちゃってるんだよなあ……!」
「流石一番まともそうな外部顧問! しごできじゃの~!」
瞬時に最短ルートを構築した老僧の判断に皆が感心した。
「ふぅむ、では二人で相談するか! オムニス神!」
「ああ、そうしよう!」
そういう事になったので、遠慮も何もなくウッキウキで二人が膝を突き合わせて相談し始める。他の面々は隠者とポチャリエルがお茶の用意をしてくれたので有難くご相伴に預かった。
「あ、これほうじ茶……? 美味しい……!」
「こっちのおはぎも美味でござるなあ~!」
「此方の茶葉は隠者様が育てたものでして、おはぎも手作りなんですよ!」
「ホッホッホッ、お口に合うたようで何より」
「わあ、私も茶葉を育てているんですよ。育てるコツなんかありますか?」
ケンとオムニス神の相談が白熱する傍ら、大変和やかにお茶をする。
「どれ、今の内に面会希望の神々へ打診もしておきましょうかの。皆様ご都合もあらせられる筈」
「ではわたくしめが伝令して参りますっ」
隠者はしごできなのでお茶の合間に面会の打診までしてくれた。まだケンとオムニス神の相談は白熱している。
「救出に赴かれる方の面会は、先の方が宜しいでしょうな」
「いやうん、絶対生きて戻る予定なんだけれども……その方がいいかな……?」
「へぇ、出来れば……」
「行く時期にもよるが、まあ先のがいいよなァ」
一応の希望を取り、書面をしたためポチャリエルに預ける。彼が出て行ったタイミングで漸く相談が纏まったようで、ケンとオムニス神が皆を振り向いた。
「よし、決まったぞ!」
「うむ、これなら良い!」
「どうせろくでもねえんだろ。さッさと発表しろ」
満面の二人にガンが促すと、会議室のホワイトボードらしきものに早速オムニス神がカッカッと書付け始めた。
「一対一の決闘も良いがそれではすぐ終わってしまう為! 団体戦にしたぞ!」
「うむ! 英雄側の救出組を除いた人員が七名+一匹だろう! ジスカールさんとウルズスはセットで一枠と考えて7人制の星取り戦形式だ!」
「七倍にしてんじゃねえよ!」
「勝ち抜き式にしなかっただけ寧ろ褒めるべきでは!?」
通常一戦で決まる所を七戦にしてきた――と皆が『知ってた』顔をした。
「勝ち抜き式にしてしまうとケンが真っ先に出てしまうだろうからな! 神と戦う機会など早々無い故、折角なので皆にも良き経験を持ち帰って貰いたい!」
「ケン殿の勝ち抜きでも儂は一向に構わんのじゃが!?」
「その良き経験の最中に死ぬ可能性あるんですよねえ……!」
「ハッ、先程までは神威の覇王と呼んでいたのに今は『ケン』と……! 仲が深まってるッ! 意気投合してるでござる~ッ!」
オムニス神がボードに書きつけた文字は、何らかの魔法を使って書いてくれているのか読めないが意味は伝わった。『先鋒 → 次鋒 → 五将 → 中堅 → 三将 → 副将 → 大将の7人制の星取り戦形式』と記してあり、その下には『監督:我とカピバラ神 マネージャー:マーモット神』と書いてある。
『わ、わたしマネージャーなんですね……!』
『か、監督……!』
「ふはは! 神チームの監督が我で英雄チームの監督が其方だぞ!」
「7人制ならば先に4勝した方が勝ちという事で宜しいですかな?」
「うむ、よろしい!」
まあよくある本当に普通の7人制らしい。ひとまず全員で吟味に入る。
「オムニス神の方の選手はさっきあなたに賛同した神の中から選ぶのよね?」
「ああ、そうだ。出来うる限り英雄側とレベルを揃え平等になるよう配慮する」
「組み合わせは?」
「事前に決めたオーダー同士で戦う――が、此処は意見が分かれたな」
オムニス神がケンの方を見ると、ふんとケンが笑った。
「仮にも神と戦うのだ、ハンデとして神側のオーダーを事前に俺達へ知らせるなどと寝言を申すものだから――」
「おいィ!」
「ちょっとケンさん!」
「絶対要るじゃろそれェ~!」
「下さい下さい絶対下さい事前オーダー……ッ!」
ケン以外の英雄達が全員机に身を乗り出して訴えた。
「何故だ! 相手が直前まで分からん方が絶対楽しいだろうが!」
「うるせえ馬鹿! おまえ以外は楽しさを求めてねえんだよ馬鹿!」
「え、ええと……ほら、負けられない戦いだし……ほら、ウルズスは兎も角わたしとか結構不安だし……ハンデは貰えるなら貰った方が……!」
「では神側のオーダーは事前に英雄側に知らせる形としましょう」
「うむ、その方が外の英雄達にも良いだろう」
ケンだけが不満顔をしているが、勝手に隠者が決めてしまった。
「場所は拙僧が手配するとして――日時は救出作戦の後の方が宜しいでしょうな」
「ああ、明日にはファナティックから予定が出るだろうからそれで決めよう」
「救護体制だとかはどうなっているの?」
「救出作戦はどう転ぶか分からぬゆえ置くが、決闘裁判ではなるべく人死には出ないよう配慮したい。戦闘不能と見届け人が判断するレベルの負傷もしくは、本人の降参宣言にて勝敗を決めたいと思うが?」
これには全員が賛成した。オムニス神とて担当したい世界の英雄達を悪戯に殺したい訳でもない。
「ただし、まあ、一撃を耐えられず即死してしまった場合は不幸な事故と思って諦めて貰って……」
「諦めはつかないと思いますけどそれは仕方ないですかね……!?」
「余程酷い死に方をしない限り、ちゃんと蘇生は試みるのでな……!」
「あの、ちなみにわたしは吃驚する位簡単に死ぬと思うのだけど……!」
「ああ、君の死はノーカウントだ。何度死んでも負けにはならないから、安心して死んでくれていい」
「何度でも死んでいいって言われとるのちょっと笑ってしまう……!」
怪我に関しても、隠者かオムニス神が治療はしてくれるという。それならとベルも納得し、大体決闘裁判の詳細は決まった。
「では最終確認を。この決闘裁判で勝利した方の神が、英雄達の世界の担当神になるという事で構いませんな?」
「うむ、我が負けた場合は要望を取り下げよう」
「此処までやって駄目なら流石にカピモット神達も諦めがつこう」
『はい……けど、けど、負けません……っ!』
『そ、そうです……! まけないんです……っ!』
オムニス神にびびりつつも、頑張って啖呵を切る様子に英雄達が目を細めた。オムニス神も何だか愉快そうにしている。
「では先に我がオーダーを決める必要があるな。これから打診してこよう。決まり次第知らせる故――」
オムニス神が立ったタイミングで、伝令に出て行ったポチャリエルが戻って来た。その手には神々からの返信が握られている。
「面会予定の神々からのお返事を頂戴して参りました!」
「おお、其方との兼ね合いもあったな」
返信を聞いてからにしようと促すと、早速ポチャリエルが読み上げ始めた。
「まず救出作戦に参加されるガンナー様、リョウ様、メイ様の面会は快諾でした! 作戦前に必ずお時間を取って下さるそうです」
「やったあ!」
「わあ……!」
「それからジラフ様とジスカール様、カイ様とトルトゥーガ様。此方も救出作戦や決闘裁判の兼ね合いがあるだろうという事で、今後の予定に合わせて時間を作って下さるそうです」
殆どの神が面会に応じてくれるらしい。まだ読み上げられていないタツだけが大変にソワついた。
「儂は!? 儂の彼女は……!?」
「あ、はい。タツ様の面会はですね、お手紙を預かっております」
「うほっ! 恋文かの~!?」
ポチャリエルが巻紙の手紙をタツへと差し出した。奪い取る勢いで受け取り、ニッコニコで手紙を開き――数秒、『クソアアアアアア』と叫びながら膝を付く。
お読み頂きありがとうございます!
次は明日更新予定です!




