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世界最強リサイクル ~追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい~  作者: おおいぬ喜翠
第六部 天界編

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497 一緒に

 オムニス神が発言を終えると一度席に戻る。引き継ぐように議長が口を開いた。


「オムニス神は非常に優秀で、これまで担当してきた世界は全て素晴らしいものになっています。世界の担当神としてこれ以上望むべくもない方です。あなた達の世界に就任しても、これまで以上に豊かで幸福な暮らしを約束してくれるでしょう」

「だからって……!」

「また、神々の半数近くが若く未熟な二神にあなた達の世界を任せる事に懸念を抱いています。あなた達の世界は特殊で、これまでにない試みですから」


 思わず口を開いたメイに、議長が淡々と告げる。オムニス神の肩を持つというより、現実をただ述べているという風だった。


「だからって、だからってこんな……!」

「メイさん……」


 メイが顔を覆い、リョウが心配するようにその肩を抱く。俯いたままのカピモット神達の肩も震えていた。


「懸念ってなんでござる……?」

「どの世界と比べても抜きんでた人類の最高戦力が揃ってる。それも神に届くレベルで。おまけに特殊世界だから神の実験場としても運用されてる。何か有事の際にはそれこそ凶兆戦の時みたいに再度利用もされるでしょうネ」

「重要拠点を未熟な新米に任せんのはどうかッつう話か……」

「投票になってしまえば、オムニス神の肩を持つ神は多そうですね……」

 

 小声で村人達も囁き合う。ケンが吟味顔のままカピモット神へ視線を遣った。


「議長、もしオムニス神が就任した場合あちらの二神はどうなる?」

「それぞれ新たな世界を担当する事になるでしょう」

「ふぅむ、当事者の話も聞きたいが?」

「よろしい。二神は演壇へ」


 議長の促しで、カピモット神が演壇へ登った。10歳位の少年と6歳位の少女に見える二人は、見える範囲の神らと比べて如何にも頼りなくちっぽけに見える。


「カピ神どん……! マモ神どん……!」

「……メイ」


 議席の囲いに齧りつきメイが身を乗り出す。聖女の顔を見返す二神の顔はやつれて青白く、目の周りは泣き腫らしたように赤くなっていた。それだけで大事な“我が神”が辛い思いをしているのが解る。


「ああ、二人とも……」

「なかないで、メイ……わたしたちは、だいじょうぶです」

「話せない間も沢山心を尽くしてくれましたね。ありがとう、ちゃんと届いていましたよ」


 普段の念話ではなく、肉声が直接届く。メイの涙でぼやけた視界に、精一杯のやせ我慢で微笑む二神の姿が見えた。


「……私達は……皆さんの幸せを最優先に考えています」

「みなさんが、オムニスさまをえらんで、しあわせになれるなら……わたしたちはそれでだいじょうぶです……」


 絞り出すような二神の言葉に、英雄側が全員眉を顰める。


「何じゃそりゃ、言わされとるのか?」

「気に喰わないわね……!」


 あんな顔をして、それでいい筈が無い。言わされているか――それとも勝ち目は無いと踏んで精一杯体裁を取繕っているか。不満げにケンが鼻を鳴らした。


「俺達の幸せは除外しろ。貴公らの本音を言え」

「それは……ほんとうに、そうおもって……」

「私達は……あなた方を不幸にしたくなくて……っ」

「いいから言え。俺達が不出来だからと簡単に仲間を取り換えるように見えるか? であれば侮られたものだな!」


 ケンが大仰に肩を竦める。その傍らでメイが絞り出すように叫んだ。


「そんなお言葉おらはちっとも幸せじゃねえ……っ! 二人とも泣いとるでねえか! 本当は嫌なんだろ!? 仰って下せぇ……っ!」

「そうだよ! 僕らずっと一緒に頑張ってきたじゃないか……!」

「泣こうが笑おうが今しか伝えらんねえんだぞ!」

「そうですよ、本当の気持ちを聞かせて下さい……!」


 英雄達が口々に叫ぶ。二神がぎゅっと目を瞑って拳を握り締める。目尻から涙が零れ落ちた。英雄達の世界を担当するようになってから一年。たった一年。


「…………たく、……ッない、です……っ」

「わがとも……!」


 けれどそれは、こんなに離れ難くなる一年だった。全身を震わせながら、カピモット神が口を開く。隣で驚いたようマーモット神が見上げる。


「離れ、たくッ、ないです……! 私は、皆さんに救われたんです……ッ! 我が友どころか、私まで救って貰って……ッ、感謝しても、しきれないんですッ!」


 神らしからぬ子供じみた振舞いに、議会中がざわついた。そんな喧騒は歯牙にも掛けず、皆じっと共に歩んできた神を見詰めている。


「皆さんが好きですッ、大好きです……! 恩返しがしたいですッ、共に歩みたいんです……ッ、素敵な世界を作って……皆さんを幸せにしたいんです……ッ!」


 普段は奔放で幼いマーモット神を諫める立場だが、カピバラ神の方が決壊は早かった。凶兆に大切な友を奪われ、自身の世界も奪われ、瀕死であの世界に辿り着いた。決死の懇願を彼らは受け入れてくれて『同じ立場なんだから仲間だろ』と、自分を仲間に入れてくれた。どころか命を懸けて凶兆と戦い救ってくれた。


「私は……ッ、皆さんとずっと仲間でいたいです……ッ、けど、けど……ッ」

「なにひとつ、かなわないんです……っ」


 想いが溢れて泣きじゃくるカピ神を抱き締め、同じくしゃくりあげながらマモ神が絞り出した。


「わたしたち、なんとかしようと、しましたっ! たくさんおねがいも、おべんきょうも、しました……っ、けど、だめで……どれだけがんばっても、オムニスさまにはかなわないんです……っ」

「神どん達……っ!」


 メイがぐしゃぐしゃの顔で歯を噛み締めた。ずっと連絡が取れない間――戒厳令だけではない、この議題の為に遠ざけられていたのだろう。その間も彼らはずっと頑張っていた。何とか自分達と共に在ろうと、仲間であろうと。だが丸付きは優秀過ぎる。神々の支持も得られない。覆す事はあまりにも難しかった。


 周囲のざわめきはどんどん大きくなる。 『神ともあろう者があんなに感情を剥き出しにして……』『人類と距離を縮めすぎている。危険だろう』『やはりあのような未熟な神達には……』と二神を非難するような言葉ばかりだ。あまりに議会がざわつき、議長が静粛を求めようと木槌を振り上げたその時だ。


「黙れッッッッ!」


 ケンが議会中に響き渡る叱咤を放ち、一瞬で会場が静まり返る。


「外野が喧しい。口を慎め。俺は二神に問うておる」


 じろりと議会中を睥睨すると、視線を泣きじゃくる二神に戻した。


「今の貴公らの頑張りではどうにも覆せなかったというのは理解した。だが今は俺達が居る。言う事が、言える事があるだろう」

「ケン……!」

「けど、だけど……っ」

「共に歩みたいのだろう。――安心せよ。俺は強欲で汚いが、仲間は裏切らぬし、貴公らにかけた情も本物である。前にも言ったな」

「……ッ、ッッ……!」


 ケンの言葉に、カピバラの神がぎゅっと目を瞑った。それはいつか、凶兆戦の前に神々と交渉する時に言われた言葉だ。言葉通り、彼らは自分の救援要請に応えてくれた。仲間にしてくれた。安心させてくれた。だから。


「……しょに、……一緒に……ッ! 私達と一緒に戦って下さい……ッ!」

「わがとも……!」


 マーモットの神が目を丸くする。カピバラの神の言葉は止まらなかった。


「今の私達はオムニス神に劣ります……ッ、未熟で……ッ、けど、けど、誰よりもあなた方を愛しています……ッ! 時間は掛かるかもしれない、けど、私が、私達があなた達を絶対に幸せにします……ッ! 世界を守ってみせますから……ッ!」

「わがとも……」


 目を開き、強い意志をもってケンへと紡ぐカピバラの神を見上げ、マーモットの神の顔がくしゃくしゃに歪んだ。


「わたしも、わたしもがんばります……っ! いまはとどかなくても、いつか、いつかぜったい! オムニス神よりもりっぱですてきなせかいにします……っ! だから、だから……っ! まだ、わたしたちはあなたがたとあゆみたいんですっ!」


 二神が手をきつく握り合い、泣きながら大声で叫ぶ。多くの神達から見れば愚かで見苦しい振る舞いと主張だった。その感情を隠さぬ視線が二神に突き刺さる。だが、怯まず必死で立ち続けた。ただ助けを求めるのではない。こうして抗い立ち続ける事が、今彼らと一緒に出来る戦いだった。


「宜しい! 貴公らの本音、確かに聞き届けた!」


 ケンが大きく笑い、皆を振り返る。英雄達が例外なく、全員深く頷いた。

お読み頂きありがとうございます!

次は明日更新予定です!

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