491 残り一日
今回温泉で聞いた情報を纏めるとこうだ。
上天界は大多数が想像する楽園のような美しい場所である。
多数の浮島があり、島には重力が存在する。
一般的なイメージの外見をした天使も存在する。神獣(議会参加出来る程の高位の神獣有)や普通の動物(神の使いやペットが殆ど)も存在する。
議会参加中の衣食住の心配は無し。基本的に公序良俗を守り行動すればマナー違反にはならないだろうという事。観光する時間は恐らく無いが、行動によっては土産位はあるかもしれない。
神の格は身体の何処かに刻まれた印で確認できる。元から神である者は五芒星や六芒星のような“芒星”の印を持っている。この数字が多い程強く偉い。また同じ数字であっても印が複雑で豪華な程、格上である。また議会中はこの印を目視出来る場所に出しておかなくてはならない。
例外が幾つか。ファナティックのような元より神でない者には別の印が刻まれている。人間系種族からの場合はウロボロスの蛇をモチーフにした無限大マークが用いられている。他種族は不明だが、“芒星”ではない事で判断できる。
“芒星”の数字が増えれば増える程、円形に近付いてゆく。上天界の頂点層は“芒星”ではなくシンプルな『〇』の印を持っている。更に格が上がれば丸自体が複雑化していく筈だが、ファナティックですら殆ど見た事が無いとの事。更に『丸持ちに喧嘩を売るのは自殺行為』との警告有り。
次に議会について。
議会へ参加する資格を持つのは『世界を担当できるほどに成長した神』と、招聘された特別顧問やゲストに限る。今回のケン達はこのゲスト枠だそうだ。今回の議題は箝口令の為不明。呼ばれて何をさせられるのかも不明。議会進行などについて問うた所、ファナティックが『もう調べてあるでしょう?』と説明を放棄した為ベルかジスカールの知識を参照する事になる。
その他神達に派閥はあるのか等と聞いたが『吾輩は中立の立場ですのでその辺りはノーコメントですっ!』で通された。ひとまず聞けたのはその位で、後は現地で確認するしかないようだった。
この辺りの情報は翌日女子組にも共有され、ついに出立の全日となった。
夜は送別会という程でも無いが、ささやかな食事会をするという事でジスカールが朝から夕食の仕込みをしている。リエラとの時間も大事にしたいので、傍らで遊ぶウルズスとリエラとロボ太郎を見守りながらだ。ジラフも今日は夕食の手伝いを朝からしてくれていた。
「ジスカールちゃん、この一週間ずっと働き詰めだけど大丈夫なの?」
「霊薬のお陰でもう暗記も終わったし、昨日温泉に浸かって確り寝たから元気だよ。それに今日は食事会だから頑張らないと」
「アイツの好物ばっかり作るんでしょ?」
「うん。コンフィは今仕込んでいるし、テリーヌは三日前に作って寝かせてあるし、後は今日作れるものばかりかな。とはいえ量も種類も多いから、手伝ってくれて助かるよ。ありがとう」
今回は最後のもてなしという事で品数も多いし手の掛かる物が多い。リョウの方も朝食の準備を終えた後は、最後に渡すチョコレートの用意をしに魔女の屋敷へ篭っている。
「どう致しまして。今日はリエラちゃんの為にもずっと家族で居るわヨ」
「そうだね。仕込みが終わったら皆で思い切り遊ぼう」
『ねー! おいもとりんごのパンケーキもたべたい!』
『たえあい!』
「分かった、作るよ。リエラにはりんごを摩り下ろしてあげる」
『やったー!』
『やあたー!』
ウルズスがリエラを担いで嬉しそうに駆けてゆく。ロボ太郎もその後を追って行った。二人きりになったので、ジスカールがジラフの方を見る。
「君の印は大丈夫なのかい。議会中は表示しておかないとならないんだろう?」
「大丈夫よ、アタシは“受刑者”だからまだ印を貰ってないの」
「……そうか」
「アタシの父親が上の神に愛されてるって言ったじゃない?」
「うん?」
瞬くと、ジラフが空中に指で図形を描いた。
「昨晩の話で納得したわ。アタシが対決した世界の神はこの位だったの」
「七芒星か八芒星くらいかな?」
「ええ、細かく数えていないから見た時の印象だけど。この位」
「君の父親は?」
光体の神は不明だが、他の二神には確かに印らしきが刻まれていた。それを昨晩の話で思い出したのだ。
「こうよ」
ジラフが物凄く細かく指を振りながら、ぐるりと丸を描く。
「細かいぎざぎざの殆ど円みたいな印。惜しまれるのも納得よネ」
「頂点層手前って所か。本当に立派なお父様なんだね」
「ウフッ、議会で何があるかは分からないけど。姿だけでも見られるかと思うとそれは楽しみよ。不謹慎かしら?」
「そんな事は無いよ。わたしだって君の父親なら是非お会いしたい」
そのまま雑談しつつ仕込みを続けていると、ウルズス達が戻って来た。遊ぼうとせがまれたので、手早く仕込みを終わらせて暫く遊んでやる事にする。
* * *
「――出来た。これで完璧だ」
「モイ~!」
魔女の屋敷の厨房では、リョウとメップメップが英雄アソートの最後の仕上げを終えた所だった。小人達に用意して貰ったラッピング用の紙箱に綺麗に並べて、蓋をしリボンを掛ける。これはお土産用で、夕飯のデザート用には別皿で同じセットが用意されていた。
「結局何かを聞き出す後押しみたいな感じでは使えなかったけど、お土産としてはいい感じになったねえ」
「モイ、モイ~!」
「メップメップさんには本当にお世話になって……! ありがとう……!」
リョウがメップメップの手を握り、深く感謝する傍ら。土産用に包んだ方の英雄アソートの箱が魔法を掛けたように仄かに光っていた。
* * *
魔女の屋敷の別室では女子組と女小人達が“おめかし”の用意をしていた。
「ヒイッ、ワンピースでござるか……!?」
「そうよ。今夜は食事会だからドレスまでは着なくて良いけれど、少し位はおめかししなくっちゃね」
「おらはもう他所行きのワンピース、ベルどんに作って貰ったもんで! 今回はカグヤどんですっ!」
「髪も整えて少し位化粧もしましょうか」
「ヒエェ~ッ! これいつもの勝手に採寸されて仕立てて頂くやつゥ~ッ!」
慄くカグヤに、じりじりとメジャーを持った女小人達が迫ってゆく。
* * *
村の完成式の時程ではないが、食事会の会場も設営されていた。広場のパビリオン屋根の下、会食用の長テーブルには既に瑞々しく美しい花が飾られている。これらはカイが摘んできて生け、長持ちする魔法を掛けた物だ。その近くではトルトゥーガが魔法のランプの動力となる魔石に魔力を籠めてくれていた。
「はあ、いよいよ明日ですねえ。緊張しますよ……!」
『やあ……けれど不安は無いだろう……?』
視線を向けると、優しい顔でトルトゥーガが此方を見ている。その言葉に思わず目元を緩めた。
「そう、ですね。緊張はしますが、何があっても皆なら乗り越えられるだろうという気持ちがあるので。不安は感じていないと思います」
『やあ……良かった……わたしもだよ……』
「カグヤ辺りはまだ不安を感じてそうですけどね。他は大丈夫じゃないかな。特にケン辺りは緊張も無くワクワクしているかもしれません」
『やあ……わたしも……そう思うよ……』
視線を遣った先、ケンとガンが椅子やカトラリーを運んで来ている。遠目にでもワクワク顔でケンが熱心にガンに話しかけているのが分かった。合流すると皆で食卓のセッティングも行い、夕食に備えてゆく。
数時間後、タツも合流し皆が徐々に会場に集まって来る。厨房小人達が料理を運び、海上都市やシェルターから拝借したワインなども並べられた。残り一日。ささやかな送別会の始まりである。
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