490 印
「上天界での公の場――恐らく議会も含まれるじゃろ、に於いてはこの印を目視出来る位置に露出しておかねばならんのじゃ!」
「ですですっ、吾輩もそういう際には手の甲だとか見やすい位置に出しておりますよォっ!」
「成る程な、一目で相手の格が解るという訳か」
「まあ衣の形状や色とかもあるらしいんじゃけど、そんなもん着替えてしまえば分からんし。この印が一番確認するには確実なんじゃて~」
洗い場でひとまず身体を洗いながら、タツの説明を聞いている。
「大体は五芒星とか六芒星とかあるじゃろ、そういう感じの“芒星”を原型にした印が多いらしい。そうじゃない奴は何か特殊っぽいから気を付けた方が良いやも~ちう話じゃ!」
「そもそもこいつがもう“芒星”じゃねえじゃねえかよ……!」
「吾輩の印はウロボロスの蛇が元になってますねェっ!」
ファナティックの印は8の数字を横にしたような所謂『無限大マーク』を複雑化したような形をしている。
「尾を噛む蛇または竜のシンボルだね。わたしの世界でも、この世界でもずっと古くから伝わっているものだよ」
「僕の世界でもあったな。無限とか永遠とか表してるんだよね?」
「俺の世界でもあったぞ。似たような解釈だったと思うが」
「ですねェ、永久と無限、創造と崩壊、他にもまあ色々解釈としてはあるのですがっ! 吾輩と同じ印を紅薔薇も持っていますよォっ!」
「あ、特別顧問の印なの?」
石鹸をへちまスポンジで泡立てながらリョウが首を傾げる。
「正確には、元から神ではない存在。特に人間系種族から高次存在になった場合与えられる印ですねェ。人間系種族は可能性と未来の塊ですのでっ!」
「じゃあこれ系の印は途中から高次に入った奴ッて事か」
「ですですっ! で、この印に限らず複雑で豪華な図柄である程基本的には強い偉い! と判別して貰えば良いのではないでしょうかァっ!」
「じゃあファナティックは大分偉いのですね……」
ファナティックの印は相当複雑である。
「基本的には、という事は例外があるのだな?」
「アリますゥっ!」
「もう儂面倒じゃからファナティック殿説明したって~!」
「おまえが勉強してきた意味……!」
「ガイドブックちょっと齧った儂より現地民の言葉のがええじゃろが!」
まあそれもそうなので、皆がファナティックの方を見た。
「まあ皆様が下手にやばい相手に喧嘩を売ってもアレなのでっ! 龍王の代わりに簡単に講釈しておきましょうかァっ! まず基本的に芒星持ちが生まれながらに神の方達ですっ! 芒星の前に付く数字が多い程上の神々だと思って頂きたいっ! その中で――例えば五芒星、同じ五芒星でもより印が複雑化している方が強い偉いと見て頂ければ宜しいですっ!」
「ふむふむ、それなら分かりやすいね」
「そして例外っ! 相当上の神々にはシンプルな丸が付いておりますっ!」
「あ、急にシンプルになるんだ……!」
ファナティックが言うには、芒星の数が増えれば増える程円形に近付いてゆく。その行き着く先がシンプルな丸であるという。
「丸付きは上天界でも多くはありませんっ! 逆に言えば丸付きに喧嘩を売るのは自殺行為の大馬鹿ですっ! この丸も更に上に行けば複雑化していく筈なんですが、丸持ちで複雑な印というのは吾輩もほぼ見た事無いですゥっ!」
「つまり丸持ちが上天界の頂点層という事だな!」
「ですねェっ! 重ねて言いますが喧嘩は売らないようにっ!」
「俺だけを見て言うな!」
明らかに釘を刺されてケンが顔を顰めた。
「そういや、試練で戦った神っぽい奴ら結構でかかったじゃねえか。議会場? に収まんのか?」
「色んな形や大きさの神々が居りますが、議会参加の時は等しく人型を取って貰うか大きさを調整して入場して頂く事になっておりますよっ! 御安心!」
「へえ~!」
異形に囲まれての議会を想像していたが、そうなると案外普通の感じなのかもしれない。ガンが頷く傍らで、カイが挙手した。
「あの、作法的なタブーは何かあります? 呼ばれているとはいえ一応お邪魔する立場なので、知らずに粗相をするのはちょっと……!」
「この状況でそこ配慮出来るのカイさん偉過ぎるよ……!」
「まあ一般的な公序良俗を守って頂ければ良いのではないでしょうかっ!?」
「天界の公序良俗って何だ……!」
『やあ……』
お勉強していた所が出たので、トルトゥーガも挙手する。
『やあ……公での暴力的な事や卑猥な事は嫌われるそうだよ……』
「ケンとタツアウトじゃね?」
「誰が暴力的だ!」
「誰が卑猥じゃ!」
「自覚してんじゃねえか!」
「そうそういう感じですゥっ! 全裸でうろついたりもやめて下さいねェっ!」
それを聞いて、ジスカールがやや不安げにウルズスを見る。
「あの……ウルズスのこぐま形態は許されるよね……? こぐまだし……!」
「獣の状態なら良いですよっ! ただし人間形態の全裸は駄目ですっ!」
『えー!』
「分かった。パンツを常に持ち歩くよ……!」
予備のパンツ含めて数枚持って行こうと今誓った。この辺りで皆身体を洗い終えたので、温泉へ浸かる事にする。
「アーッ、良い湯じゃあ……!」
「染み渡るねえ……! っていうかパンツで思い出したけど僕達いつもの恰好で行っていいの? 他所行きの服なんて殆ど無いんだけど……!」
「そうえばそうだったな! 二泊三日という事はどこぞに泊まるのだろう! 食事やその辺りはどうなっている!」
「そういえばそうでしたっ!」
忘れてたとばかりにファナティックが手を叩く。
「基本手ぶらで来て下さって大丈夫ですよっ! 着替えも食事も宿泊する場所も何もかもあちらで用意するそうなのでっ! パンツもあります!」
「上天界のパンツ……! 鬼のパンツより強そう……!」
「ちなみに宿泊所のアメニティ以外はお持ち帰り禁止ですのでねェっ!」
「神は確か穢れだとか生臭を嫌うだろう! 肉は! 肉は食えるのか!」
「食事のメニューまではちょっと……!」
「肉が無くても三日位我慢しろよ……!」
肉の有無をしつこく聞きたそうなケンを制して、ジラフがまとめてくれた。
「ひとまず、手ぶらで行って良いって事と――ナントカ芒星のナントカが多いのと丸っぽいのには喧嘩売るなって事でいいかしらッ!?」
「ハイッそうですゥ! 他に聞きたい事があれば今の内にどうぞっ! お答え出来る事ならばお答えしますのでねェっ!」
「上天界観光は出来るのか!? 土産は貰えるのか!?」
「遊びに行くんじゃねえんだぞ!」
懲りないケンにガンが思い切り顔を顰めた。とはいえ情報が少なすぎてもう聞ける事があまり無いのが現状だった。
「観光する時間は恐らく無いと思われますゥっ! 土産はアナタがたの行動次第かとっ!?」
「おまえも普通に答えてんじゃねえよ……!」
「宿泊所のお世話係はカワイイお姉ちゃんを所望したいんじゃが!?」
「恐らく下級天使辺りが対応するかと思いますがカワイイお姉ちゃんかどうかは分かりませェんっ!」
「天使! 天使居るんだ!」
割としょーもない質問が続く中、天使というワードは興味を惹いた。
「天使と神はどうやって見分けられますか?」
「天使は背中に羽があって頭に輪っかが付いてますよっ!」
「わ、わあ、イメージ通り……!」
『やあ……上天界には神獣も居るのかい……?』
「居ますっ! 議会に参加出来るレベルの神獣も居たかと思いますっ!」
差し支えなければどんな質問でも普通に答えてくれるので、皆が徐々に身を乗り出した。
『どうぶつは? どうぶつはいる?』
「神の使いやペットという感じになりますが、動物も居まァすっ!」
「つかそもそもどういう場所なんだよ。雲の上か? 重力とかどうなッてる?」
「場所によりますが、そうですねェ――」
結局細かい質問を皆が重ねてゆき、議会の内容自体は分からないが行く先についての何となくの雰囲気は掴む事が出来た。
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